第4話 ARJ(悪役令嬢)世界チャンピオン。
「どうらぁ!!」
凶器攻撃の合間に正統派にラリアットやボストンクラブなど、打撃も関節も挟みつつ、そろそろフィニッシュだ。
もう動けなくてグッタリしてるミールを強引に持ち上げて、リングの上に置いた長机に乗せる。
そしてコリンはコーナーポストに素早く駆け登り、くるりと振り向くと大きく両手を広げる。
現役時代からの、決め技前のアピールだ!!
直後――――コリンは飛んだ。
高く飛び上がると、空中で前方2回転して、腹から相手の上に着地し全体重を浴びせるダイビングボディプレス……ファイヤーバードスプラッシュ!!
リング全体が揺れる衝撃が走る!!
下に硬い机があることで、放ったコリンにもダメージが入るが、それ以上にミールに対するダメージは絶大……!!!
「タガミ!カウント!!」
ミールの上に覆いかぶさったままコリンが叫ぶと、目にも止まらぬスピードでリングに転がり上がった執事タガミがリングを叩きながらカウント!
「1……2………3!!!」
『スリーカウント入ったぁーー!!決着ぅ!!!ミール、フォールを返せなかった!!今日もコリンお嬢様が勝ちました!!』
激しく何度も打ち鳴らされるゴングが試合の決着を周囲に告げると、どこからか音楽が流れる。コリンの現役時代のテーマ曲で、最高にぶちあがるオリジナル曲だ。
「さて……と」
型通りの勝利パフォーマンスを済ませたコリンは、どうやら気を失ってるらしいミールの頬をぺしんと叩き目覚めさせる。
「はっ……!いったい何が……って、うわああああ!!」
「よう、目覚めたかよお貴族様……!」
完全に叩きのめされてすっかり怯えたミールは、コリンのまだ怒りの収まらない表情に、両手でガードしながら謝罪を口にする。
「わ、悪かった!!俺も調子に乗ってたよ、仮にも王族であるあなたに失礼な態度を―――」
「……違う……」
小さな声で囁くと、コリンは立ち上がる。
「ひぃ……!」
と怯えるミールに対して、コリンはもう一度呟く。
「違うだろ………だろうがよ……!」
「え?今なんて――――」
「可愛いだろうがよ!!!セイは!!アタシのメイドは!!!さいっっっこうに可愛いだろうがよぉぉぉぉぉ!!!!!」
喉が引きちぎられるかと思うくらいの大声で叫んだのは、メイドへの愛であった。
周囲がキョトンとし、タガミとシシゴンがいつものことだと呆れ、セイは顔を真っ赤にして照れている中、怒涛の告白は続く。
「あの子はな!!アタシの理想なんだよ!!!アタシの容姿なんざどう言われてもどうでもいい!!今までアンチからもさんざん言われて来たからなそんなもんは!!いいか?確かにアタシは夢を叶えてヒールレスラーになったよ!!その人生に何の後悔も無い!!けど、けどなぁ……心のどっかにあったよ!!キャピキャピの可愛い女の子になりたいって気持ちも!!確かにあった!!」
「な、何の話を……?」
混乱するミールの問いかけを無視し、思いのたけを吐き出すコリン。
「こっちの世界に来てセイを見た時は本当に衝撃だったね!!だってあたしの理想を具現化したみたいな子が居るんだもん!!可愛くて明るくて嫌味が無くて努力家で礼儀正しくて、それでいてちゃんと芯を持ってる最高の子!!アタシはあの子を全力で幸せにしてやろうと思ってる!!それをテメェは……侮辱した!!万死に値する!!」
思い返せば確かにコリンがブチギレて最初の一撃を入れたのは、「メイドもキミも見るに堪えないブス」という暴言を吐いた瞬間だった。
自分ではなく、セイが侮辱されたことにコリンは怒っていたのだ。
その後もリング上でセイがいかに可愛くて愛しくて理想的な女の子であるかということを熱弁するコリン。
それを解説席で聞きながら、真っ赤になった顔を両腕すべてを使って隠しながら、恥ずかしさと嬉しさに体をクネクネと動かし続けるセイ。
それ以外の全員は基本ポカンとしていたが、愛を語って満足したのか、コリンは「ふぅ」と息を吐き出した。
「いいか、二度とあの子に手を出すな声をかけるな視界に入るな……次は、こんなもんじゃすまさねぇぞ……!」
最後にもう一度、ミールの顔面に毒霧を吹き付けて満足そうにリングを降りようと歩を進めるコリン。
しかし、ロープをくぐってる途中で思い出したかのように動きを止め、もう一度マイクで声を上げる。
「あっ、そうだ。それからテメェ、嫁の貰い手がどうこうなんて話もしてたけどな……冗談じゃねぇ。アタシの人生は、誰かに貰われる為になんて存在してねぇんだよ。
―――――アタシの人生は、アタシ自身の力で輝かせるためにあるんだ」
そしてコリンは会場に居る女たちを見回して、吐き捨てるように言った。
「自分の人生を男に任せるつまんねぇこいつらと一緒にすんじゃねぇよ。いいか、覚えとけ!アタシの名は「アデジャール・コリン」!!この世界でも、最高の悪役として人生を送る……世界一の悪役令嬢だ!!」
言い放つと同時にマイクをリングに叩きつけると、ゴフッという音が会場に響き渡り、再び鳴り始めたテーマソングと共にコリンは部屋を去る。
メイドと執事が後を追い、そして残されたのは――――ボロボロになった貴族が一人と、いつの間にかリングが消え去ったあとの何もない空間を茫然と見つめる人々だけであった………。
試合が終わり、悠々と廊下を引き上げていくコリンの背中に、セイからお礼と謝罪の声がかけられる。
「あ、あの、コリンお嬢様……!今日はあの、私の為にその……ありがとうございます!」
「ん?気にすんな気にすんな、アタシがやりたくてやったんだよ。……いいか、セイ。アンタはアンタの人生をそのまま生きろ!誰にも恥じることもないし臆することもない、アンタの道が暗闇だったら―――そん時はアタシが照らすからさっ!」
「―――――はいっ!!ついていきますお嬢様!!」
ニカッと笑うコリンに、少し泣きそうになりながらも笑顔を見せるセイであった。
「よしっ、じゃあ―――もう帰るか!!帰って飯食って風呂入って寝ようぜ!!おーー!!」
「「「おーーー!!!」」」
拳を突き上げて小走りに進むコリンを追い、走り出すセイ・シシゴン・タガミ。
こうして、悪役令嬢とその一味の怒涛な……けれど普通の一日が終わる。
いつかコリンが、世界一の悪役令嬢になり、この世界を大きく変えるのは―――――まだ、もう少し先のお話―――――。
おしまい。
悪役(ヒールレスラー)令嬢は全てをプロレスで解決する。 猫寝 @byousin
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