第3話 リングと生きざま。
「オラオラァ!!さっきまでの態度はどうしたよお貴族様よぉ!!かかってこいよーー!!」
全力で煽りながら、能力で出した荒縄で首を絞めたり、脚立を倒れているミールの上に出してそれを踏んづけたり、折り畳み式の長机をコーナーに立てかけて、その前に立たせたミールに全力でタックルをして机に叩きつけたりするコリンお嬢様。
圧倒的な強者である。
「くっ、くそ!卑怯だぞ武器なんて!正々堂々と勝負しろ!!」
「あ?何言ってんだ。アタシは悪役だぞ。卑怯上等!気に入らねぇならテメェも武器使っても良いぜ」
その言葉を受けて、ミールは自分の部下や仲間のいる方向に「おい!何か武器をよこせ!!」と叫ぶ。
すると仲間の一人が、持っていた剣をリングに投げ入れる!
『おーっと、武器が投げ込まれました。なぜあんなところに剣があるのでしょうか?』
そんな実況シシゴンの疑問に対して、有能執事のタガミさんが答える。
「あれは、パーティーの中で披露されるはずだった剣の演武で使うものですね。投げたものを空中で切り刻むような芸も含まれていたので、本物の剣のはずです」
『なるほどー!お嬢様の参加されるパーティーの催し物は全て把握しておられるという話は本当だったのですね。さすがタガミさんです』
「おそれいります」
「って、そんなこと言ってる場合ですか!?あれ本物なんですよ!?コリンお嬢様の危機です!!」
二人のやり取りに、慌てふためきながらツッコミを入れるメイドのセイ。
お嬢様のことが心配で仕方ないといった様子だ。
『おーっと!!ミールが剣を構えてコリンお嬢様に襲い掛かるー!』
一方リング上では、フェンシングのような剣裁きでコリンに刃先を向け、何度も突きを繰り出すミール。
コリンは有刺鉄線がぐるぐるに巻かれたバットを何もない空間から取り出し、何とか攻撃を防ぐも少しずつ追い詰められていく。
『ミール選手、なかなかの剣の腕前ですねタガミさん』
「ええ、あのお方は剣術の大会で学生時代に国の代表候補にまでなられたお方。なかなかの使い手ですな」
「ちょっ、大変じゃないですか!お嬢様ー!がんばれー!」
そうこうしている間に、コーナーに追いつめられるコリン。
「ふふん、さっきまでの勢いはどうした? 先ほどまではそちらにだけ武器があって有利だっただけで、同じ条件なら所詮女が男に勝てるわけないんだよ!!」
完全に普段の不遜で尊大な態度を取り戻したミールに対して、コーナーに寄りかかり肩で息をするコリン。
「ほら、ほらほらほらぁ!? 少しは反撃してきても良いんだぞ!?」
わざと直撃させないように、掠るように全身を傷つけていくミール。
ドレスと皮膚が裂けて血が滴る。
「あああ、私もう見てられないです!お嬢様を助けに行きます!!」
慌てて立ち上がろうとするセイの肩を、タガミがグッと押さえ付ける。
「まあまあ、もう少し様子を見ましょう」
表情を変えることなく放たれたその言葉に、セイは困惑する。
「ど、どうしてですか?どうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」
その問いに、タガミはコリンを真っ直ぐ見つめて言葉を紡ぐ。
「お嬢様は、普段から言っておりました……プロレスとは、一方的に勝ってはいけないのだと」
「………え?」
「プロレスとは、ただただ相手を叩きのめせばいいというものではない。相手の良さを引き出し、技を受け、ダメージを受けながらも試合を盛り上げるのだと」
「いや、でもそれはスポーツの話ですよね!?今は、本当に死んじゃうかもしれないんですよ!?」
「どんな状況であろうと、変わりはしませんよ。お嬢様は昔からそうでした。……時には相手の技を受けて、怪我をしても、見てる人間の心を躍らせるのが本当のプロだと。
時にはそれを八百長だと揶揄されることもあるけれど―――――」
『あーーっと!!ミールが剣を大きく構えて振り下ろす!!これはとどめの一撃となるかー!?』
「―――――プロレスは、エンターテイメントなガチンコ(真剣勝負)だ、とね……」
ガキィン!と金属音があたりに響く。
コリンは、ミールの剣をパイプ椅子で受け止めている!!
「ぐっ、きっ……貴様!まだそんな力を……!おのれ!!」
もう一度剣を振りかざし攻撃を仕掛けると――――
「どらぁ!!」
コリンは、パイプ椅子の足を開き、閉じると同時にその剣を挟んで止める!!
「秘儀!!真剣白刃パイプ椅子取り!!」
技名を叫ぶと同時に、剣を椅子ごと全身でグイっと捻ると、その力で剣がミールの手から離れて吹っ飛ぶ!!
「ふっふふふふふ、ふははははは!!!イメージどおりぃぃぃ!!!もしもタイガージェットシンがサーベルで襲ってきたらどうするか、と幼少期から妄想していた真剣白刃パイプ椅子取り!!こんな完璧に決まるとは!!やはりアタシは天才だな!!」
先ほどまでの弱った様子が嘘のように高らかに笑うコリン!
それを見ていたセイにも笑顔が戻る。
「お嬢様……良かった……!」
その横で、タガミが誰に聞かせるでも無く語る。
「エンターテイメントと真剣勝負……その一見すると相反する要素を両立できる……それがプロであり、プロレスラーとしての矜持だと、いつも仰ってましたねお嬢様……昔は意味が解らなかったですが……今ならよーくわかりますぞ……!」
その時タガミには、レング上のコリンが光輝いて見えたと、後に語った。
「さあ、決着付けようじゃねぇか!!貴族のお坊ちゃんよぉ!!」
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