第二十七話 復讐の時間 その1
「なるほど。事情は分かりました」
「では、手伝っていただけるのでしょうか?」
「いいでしょう。しかし、クロム様は現在行方不明になっているので、クロム様からの協力は難しいかと」
「はい。それは残念ですが、私としては一人でも味方が出来るだけで十分過ぎます。なんせ今まで孤独でしたので......」
ハカナは少し寂しそうな顔をする。
二人はイキリーナに話を聞かれるかもというハカナの提案により、ハカナが昔コイナと作った秘密基地へと移動した。
国の外れにある秘密基地は木で組み立てられた簡易的な家のようなもの。
そして周りからは見えぬよう基地が透明になる魔法が掛かっている。
そこでマーガレットはハカナの話を静かに聞いていた。
「色々と作戦を伝えたいのですが、一つ聞いていいでしょうか?」
「ええどうぞ」
「何故私に協力してくれるのですか? 私の話は嘘かもしれませんよ?」
ハカナは試すように尋ねたが、マーガレットはその問いに即答した。
「協力する理由は一つです。主人であるクロム様に、困っている人は助けてあげてと教えられたので。まあ、嘘だった時はあなたに責任を取ってもらいます」
影で刃を作り、軽く脅すようにマーガレットはハカナを睨んだ。
「失礼しました。それでは、作戦の内容を伝えます」
ハカナが考えた作戦の内容はこうだ。
「イキリーナは一日数回、あの地下の研究施設に行く時があります。普段は彼の周りに七名程の部下がいますが、その地下に行くタイミングだけは部下の数が多くて二名になります。狙いはそこ。彼が研究施設に向かった後に、待ち伏せていたあなたが先程のように地下全体を影の刃で」
「なるほど......そういえばハカナさんは地下に居ましたよね? どうやって影の刃を避けたのですか?」
「あれは魔導具のおかげです。一度だけ持ち主の身代わりになってくれる魔導具を持っていたので」
「それをイキリーナが持っている可能性は?」
「ない、と言いたいところですが......勿論その可能性もあります。ですからその時はこれを」
そう言いながら、ハカナはポケットから紫に光る大きなペンダントを取り出した。
「それは?」
「私の大切な人が作った良い物です。本来は魔物の魔力を吸収し共存を目指す為に作られた物ですが、今回は違う使い方をします」
「違う使い方?」
「もしイキリーナが影の刃を防いだ場合、イキリーナ、そしてマーガレットさんや私の魔力をこのペンダントに吸収させます。そして三人分の魔力が溜まったペンダントを破壊する」
「そんな事をすればかなりの魔力爆発が起こり、イキリーナや研究施設どころかあなた自身も——」
マーガレットは途中で喋るのをやめた。
目の前にいるハカナの瞳は覚悟という力と復讐という呪いで溢れている。
それはマーガレットの発言一つで変わるものではない。
「勿論、マーガレットさんを爆発に巻き込むわけにはいきません。なのでこれをお持ち下さい」
「羽の形をした魔導具ですか」
「それを使えばここに一瞬で移動できます」
「あなたは持たないのですか?」
「生憎、この国には一つしかなかったので」
「......分かりました」
ハカナから貰った魔導具をマーガレットは影の中に入れた。
「決戦は明日。それでは私は戻ります」
そうしてハカナは秘密基地を去って行った。
ハカナの背中が見えなくなった頃——
「なんだか凄い事になったね」
ニョキっと、床から顔を出す白髪のクロム。
マーガレットは彼をチラリと見てから立ち上がった。
「あなたはいいの? あの研究施設に住んでいるのでしょう?」
「別に住んではないけど......まあ吹っ飛んだら吹っ飛んだで僕は適当にやってるよ」
宙を浮き、マーガレットの背後を飛ぶクロム。
「それにしてもよかったの?」
「何がです?」
「あの羽がないとヤバいんでしょ? ハカナって人の影に入れてたけどさ、爆発から逃げれるの?」
「余裕です」
「流石だね」
そうしてマーガレットとクロムは、再度あの研究施設へと足を運んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます