第二十三話 勇者ユウト

 キレンカさんと共に歩き始めてから約十分。


 景色は白一色だったが、そろそろ俺の目が痛み始めるって時にガラリと変化した。


「ここは?」


「彼の一番最初の記憶です」


 キレンカさんと俺の視線の先にはハイハイをする赤ちゃんがいる。


 そして俺たちの今居る場所。


 ここはまるで、


「日本?」


「あら? ご存知でしたか。彼、ユウト様は転生者ですわ」


 いやおいおい。


 おいおいおいおいおいおいおい。


 たしかにユウトという名前を聞いた時にお? とは思っていたけど。


 まさか俺以外にも転生者がいたなんて。


 それに同じ日本出身だったとは。


「次はこっちですわ」


 キレンカさんに続いて、俺は勇者ユウトのこれまでをただ見ていた。


 どうやら彼には幼馴染の女の子が居たようだ。


 関係性はまるでラブコメ漫画のよう。


 互いに好き同士なのにそれに気付かず喧嘩したりその度に更に相手を意識したり。


 勇者ユウトと俺は全く別。


 彼は何かの作品の主人公のように人生を謳歌していた。


 途中途中で俺の人生と重ねるが、まるで形の違うパズルのピースを無理矢理はめ込もうとしているみたいで何とも惨めだった。


 なんて思っているのも束の間。


「あっ死んだ」


 高校生になったユウトは幼馴染と付き合って数週間でトラックに轢かれそうになった子供助ける為に死んだ。


 最後の最後まで行動が主人公。テクノブレイクで死んだ俺とは大違いだ。


 正直言って反吐が出そうだ。


 勿論ユウトに対してだが、それに加えて、ユウトみたいになれたかもと今更思う俺に。ユウトの人生に無駄に嫉妬した俺に。


「あのこれまだ見ないとダメ?」


「嫌ですか?」


「正直言って。なんか惨めな気持ちになるし、それに俺は帰らないといけないんだ。大切な仲間がそこで待ってる」


「そうでしたか。ですがもう終わりです」


「終わり?」


「はい」


 笑顔で振り向くキレンカさんと俺目掛けて飛んでくる数え切れない程の武器。


 剣だったり槍だったり鎌だったり。


 それらを全て躱した後にキレンカさんを見るが、彼女はオレンジ髪のオールバックの少年に変わっていた。


「あんた誰?」


「.........」


 無表情で返事がない。つまりはただの屍かあるいは——


「勇者の屍か」


 なんて呟いている合間にも武器は飛んでくる。


「これがキレンカさんの言う試練か?」


 飛んでくる武器たちを最小限の動きで躱していく。


 しかしこれは量が多いな。


「面倒くさいから結界魔法をってあれ? 上手く魔力を操作できない」


 魔力そのものが体から抜けていくみたいで上手く魔法を発動できない。


 これが目の前の少年の力なのか?


「これ下手したら負けるな」


「......」


 相変わらずの無表情と無言。それに次々と飛んでくる武器たち。


 そして俺は呟いた。


「スキル発動」


《アルティメットユニークスキル 魔王クロム=クロシュバルツ発動


 固有能力 無限上昇インフィニティを自動使用


 敵ステータスを確認し自身のステータスがその十倍に上昇》


 いつも通りのチートスキルを発動させる。


 どうやら魔法のやつは表示されないらしい。


 何故だろうか? 少年が使ってるのは魔法じゃないのか?


「まあいいや。ちょっとだけ無理しよう」


 上手く魔力を操作できないなら難しい事はしないで単純にいこう。


 俺は体内にある魔力の全てを一瞬だけ一箇所に集めた。


 そして集めた膨大な魔力を一気に放つ。


 力を集めて思い切り放って爆発させる。


「じゃあな。今度会う時は口で彼女の事を教えてくれよ。それにお前の事も」


 《エクスプロード》


 一瞬の静寂の後に全てが爆ぜた。


 勿論あの少年も。


 いや、勇者の亡霊も。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「——うん? あれ? キレンカさん?」


「はい。お目覚めになられたのですね。ユウト様には会えましたか?」


「ああ会えたよ」


 体を起こすと辺りの霧が晴れていた。


 白い空間に居る訳でもなく青い空と緑が見える。


 それに魔力の感知もできるようになっていた。


「結局何がなんだか。ただ惨めになっただけだ」


「そうでしたか」


「まあでも楽しかったよ。久しぶりに故郷に帰った気分だ」


「それはよかったですわ」


 俺は立ち上がって軽く準備運動する。そして魔力感知。


 うーんとなるほど。


 マーガレット達、つまりハジノク王国は東側か。


 しかもかなり遠い。ついさっき魔力使い切った訳だしこれは少し骨が折れそうだ。


「行くのですか?」


「うん。今度は泊まりで来るよ」


「ふふ。それは楽しみですわ」


「それじゃあバイバイ」


 そうして俺はハジノク王国を目指して飛び上がった。

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