第十九話 死の行進 その3

「報告しろ」


 ある場所の地下。


 既に使われなくなってしまった研究所のような場所で、ある男が低い声で部下に言った。


「はっ。現在クロムはソルジャー二名と交戦中。足止めには成功していますが、そろそろ限界かと」


「なるほど。死の行進の方はどうだ?」


「それなんですが......」


 部下は少し言葉を濁した。


 そしてどこか気まずそうな顔をする。


「どうした? 言えないのか?」


「あっ、いえ、その予想外の邪魔が入りまして、予定より早くディザスターウルフが出現しました」


「何? 邪魔だと?」


 男は部下に怒りを露わにするように魔力をぶつけた。


 部下は震え、体の穴という穴から冷や汗を流した。


「はっ、ははい。クロムが連れていたあのエルフの女です!」


「エルフだと? チッ、あいつらミスったのか」


「始末するよう人員を派遣しますか?」


「馬鹿を言うな! エルフ達は殺せないのだ。殺したらわたしの首が飛ぶ」


「首が、ですか?」


「ああ、こんな風に」


 そうして男の目の前で部下の首が舞った。


 血が壊れた水道管のように溢れ出し、部下の体が地面へと倒れる。


「チッ、役立たず共め」


 男はなんて事ないようにそれを踏み付け、ある扉へと向かって歩みを進めた。


 鎧を着て、体に血の臭いが付いていない事を確認すると扉を開ける。


「お? なんだ来ていたのか


「気持ち悪い。その見た目で呼ばないで頂戴」


 ハカナと呼ばれた女性は反射的に男から身を引いて距離を取った。


 しかし男は更に距離を詰めて、彼女を壁側へと追い込んでいく。


「お前と遊んでやりたいが生憎の仕事でな。また今夜君の部屋へ行くよ」


「気持ち悪い。早く死んで頂戴!」


「君のそういう態度も好きだけど、口には気を付けた方がいい。お父さん大切だろ?」


「クッ、最低」


 彼女を顔を歪めて、唇を噛んだ。そうする事しか出来なかった。


「可愛い。また君の体にわたしを教え込むのが楽しみだ」


 そう言って男は去った。


 ハカナは顔を涙で歪ませていた。


 まるで何も出来ない自分を、言いなりになるしかない自分を悔やみ、呪っているようだった。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



影操シャドウマリオネット


「アガァァアアアアア!!」


 マーガレットの右横を災害級の魔物ディザスターウルフの斬撃が通っていく。


「爪を振るって斬撃を飛ばすか」


 ディザスターウルフは回避後の一瞬の隙が生まれたマーガレットとの距離を一気に詰めた。


 そして今度は近距離で爪を構える。


「ウガァァアア!」


 近距離で飛んでくる爪の斬撃をマーガレットは影に体を引っ張らせて躱す。


「ガルルルル......」


「災害級、中々に強いですね」


「ウガァァアアアア!」


 突如、叫び声と共にディザスターウルフの体が波のように揺れた。


 するとディザスターウルフが二体に増える。


「分身ですか」


 更に一体増え、合計三体となったディザスターウルフがマーガレット目掛けて挟みこむように向かって来る。


 マーガレットは一体一体の動きを確認して立ち止まった。


「「「ウガァァアアアアアアア!!」」」


 左右のディザスターウルフか飛び上がった瞬間に、目の前の一体と距離を詰める。


 影を一点に集め、大きな塊にして目の前のディザスターウルフに放つが、霧となって消えてしまった。


「ハズレですか」


 マーガレットがいきなり前に移動した為、左右のディザスターウルフ達は互いに爪の斬撃をぶつけ合った。


 結果偽物が消えて、本物だけが胸に傷を作って倒れている。


「終わりね」


 そう呟いてマーガレットは影でディザスターウルフの首を刎ねた。


 そしてそれを眺めていた男達は、


「あの姉ちゃんマジかよ!!」


「災害級を一人でってヤバ過ぎだろ!」


「ていうか死の行進を一人で終わらせるとか化け物じゃねえか!」


「俺なんか怖すぎて漏らしたのに!」


 思い思い声を上げていた。


 マーガレットはそんな声なんか気にせず辺りを見回していた。


「クロム様は来ませんでしたか」


 しょぼんと落ち込むマーガレットはそのまま影へ消えたのだった。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「さてさてどうしようかな?」


 なんかよく分からん二人組に絡まれた訳だが、軽く捩じ伏せて吹っ飛ばしておいた。


 しかし去り際にオレンジに光る球体を投げつけられて、俺も知らん場所に吹っ飛ばされてしまった。


「困ったな、どうやって帰ろうか」


 辺りを見てみるが、霧が掛かって視界が悪い。


 魔力探知をしてみるが、これもなんだか調子が悪いのか上手くいかない。


「ふむ。まずいなぁ〜早く帰らないと死の行進止められないよな。まあマーガレット居るしなんとかなるか」


 マーガレットは俺よりしっかりしてるしなっと今はそうじゃない。


 帰り方優先だ。


 一直線に進むのもありだが、霧のせいで方向感覚を失って、どの方向から来たのか分からなくなってしまった。


 結構詰みっぽいな。


 なんて頭を悩ませている時だ。


「そこの貴方、何をしているのですか?」


 背後から突然、女性の声が聞こえた。


 しかし振り返ってみても誰もいない。


 気のせいかな?


「もぉ〜無視なんて酷いですわ!」


「えっ誰!?」


 どうやら気のせいじゃなかったみたいだ。


 目の前には桃色の長い髪をした女性が全裸で佇んでいた。


 最高にエッチだ。

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