第十八話 死の行進 その2

「あれ? クロム様は?」


 マーガレットは着いたと同時にクロム様の姿を探した。


 だがこの場にいるのはむさ苦しい大柄の男達だけ。


 どうやらクロム様はまだのようだ。


「おいそこの嬢ちゃん。ここはあんたの来るような場所じゃねえよ」


 後ろに三人の仲間を連れた男が、マーガレットに酷くゲスい声で話しかけた。


「関係ない。私は居ないものと思って下さい」


「それは出来ねえな。俺はレディを放っておけないんだ」


「じゃあ私はレディじゃなくていい」


 男の手が肩に置かれそうになり、すぐに回避するマーガレット。


 男は不満そうに顔を歪めて更にマーガレットとの距離を詰めた。


「そんなに冷たくされると俺は———」


「来た」


 マーガレットがそう呟くと、辺りの空気が突然冷たくなる。


 そして次の瞬間には、互いの命を掛けた熱く、ドス黒いものへと変化した。


「魔物が来たぞー!!!」


「やるぞお前ら!!」


「「「グォォオオオオオオ!!!」」」


 マーガレット達が来た断裂の森から、次々に魔物がその姿を現していく。


 デビルラビットにリトルデーモンにトゥレントにエトセトラ。


 どれも低級から中級レベルの魔物達だ。


「「「「「うぉぉおおおおおお!!!」」」」」


 それらと先頭にいる剣士達の戦いが始まった。


 剣士達のサポートとして後ろ側にいる魔術師達が魔法で援護する。


 マーガレットはそれをただ眺めていた。


「行くぞお前ら!!!」


 先程までマーガレットに絡んでいた男も仲間を引き連れて戦闘に参加して行った。


 数で見たら魔物の方が有利だと思えるが、実力では人間達の方が上だ。


 しかしそれは違ったようだ。


 違和感。


 またも違和感がマーガレットを襲った。


「タイミングが良過ぎる」


 死の行進とは本当に稀にしか起こらない。


 その稀に起こる現象をハジノク王国は今まで壁で防げていた。


 それが今は壁が壊れたタイミングで起こったのだ。


 しかもその壊れた場所を狙って魔物達は現れた。


「たしか死の行進は巨大な魔力を求めて起こる。ならこの魔物の狙いはクロム様? だが何故ピンポイントで壁の壊れた場所から現れた。偶々? いや誰か意図的に? でもそうまでするメリットはなんだ?」


 ひたすらに考え込むマーガレット。


 ただ、その瞬間にも違和感はゆっくりと顔を覗かせていた。


「なんだこいつら! 全然死なねえじゃねえか!!」


「興奮してやがる!!」


「うがぁぁぁあああ」


「国の騎士達はまだなのか!!」


 前衛の剣士達が魔物達に喰われていく。


 魔物は魔物を喰い魔力を取り込み強くなる。


 今はその食べる対象が人間に変わっただけだ。


 魔物達はどんどんと力を増していく。


 同じように人間の悲鳴も増していく。


「耳障りですね」 


 突如、先頭にいた魔物二十七体の首が一斉に落ちた。


 人間も興奮状態だった魔物達も、生温かい血の雨の中驚愕の顔を見せていた。


 ただ一人を除いて。


影操シャドウマリオネット


 マーガレットは一人先頭に立って死の行進に立ち向かった。


「危ねえぞ嬢ちゃん!!」


「心配しないで下さい」


 一瞬の隙を見せたマーガレット。


 魔物達はそれを見逃さなかった。


「グォォオオオオオオ!!!」


「危ねえぞ!!」


 しかし、隙と思えたものは勘違いだった。


 マーガレットには隙が一切存在していなかった。


 ザシュ


 また魔物の首が落ちていく。


「ですからは心配いりません」


 そう言う間もマーガレットの影が一体、また一体と魔物を確実に仕留めていく。


 これがエルフの村の陰の精鋭。マーガレットの実力だった。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「おっ、おい。あの姉ちゃん強過ぎないか?」


「ああ。もう百は殺っただろ」


「化け物かよ」


 男達はマーガレットが戦う姿を見て、ただただその場に座る事しか出来なかった。


 圧倒的にマーガレットが強過ぎたのだ。


「この程度ですか」


 気付いた時には魔物の殆どが狩られて死の行進が止まりかけていた。


「もう終わりだな」


「いや強過ぎだろあの姉ちゃん」


「まあ、あの人が居なきゃ俺達は負け———」


 そう言う男達の目の前を何が横切った。


 その何かは飛ばされている途中で体勢を整えて立ち上がった。


「一体厄介なのがいるみたいですね」


 突如飛ばされたマーガレットは、自身の視界の先にいる魔物を見つめていた。


 魔物とは基本低級、中級、上級の三つのランクで分けられる。


 力が強い魔物の方がランクが高く、討伐に必要とされる人の実力も数も多くなる。


「上級、いや災害級」


 災害級とは上級の更に上。もっと上を言えば、神級、魔王級、神魔王級などがある。


「なるほど。中級の魔物達が人を食らい上級へと進化、そしてその上級達を食べて自身を進化させたと。中々面白い事をしますね」


 災害級の魔物はただ一点にマーガレットを見つめていた。


 マーガレット自体、災害級との戦いは初である。


 だからなのか、彼女は何処かワクワクしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る