第十六話 ギルドへレッツゴー

 俺達の滞在期間は三日。

 三日の内にある程度の技術を教えて貰う。


「暇だなー」


 とは言っても教えて貰えるのはガーベラとマーガレットの二人だけなんだけどね。


 コイナと言う青年がこの国一番の技術者らしいんだが、なんでも人見知りが激しく、臆病な性格の為、俺が目の前に現れたら気絶してぶっ倒れるそう。


 だから俺はお留守番。

 無駄にデカい城の中でただただ暇を持て余している。


「クロム様、お暇でしたら国を探索してみてはいかがでしょうか?」


 ガザリウスに用意された部屋の扉付近にいるメイドさんがそう提案してくれた。

 えっと、たしか彼女の名前はハカナって言ったっけ?


「いいねそれ」


 てな訳で俺はハカナさんと一緒に城を出て国の探索を始めた。

 城を出てすぐにある大通りには様々な人が行き交っている。


「へいへい安いよ安いよ!」


 道の端では露店のおっちゃん達が声を上げている。

 なんて言うか凄く活気に溢れていた。


「あの一際大きいのは?」

「あれはギルドでございます」

「クエストを受けたりするあれだよね?」

「はい。クエストを受けたりするあれです」


 おお、ギルドと言えばゲームとかに出てくる異世界では必須級のものじゃないか。

 やっぱあるもんなんだな。


「寄りますか?」

「勿論!」


 大きな木造の扉を押して、俺とハカナさんはギルドの中へと入る。

 想像通り、ギルドの中はむさ苦しい大柄の男達で溢れていた。

 腰に剣を添えていたり、肩に大剣を担いでいたり、杖を手にしている人もいる。


「すげえ......」


 気付いたらそう声に出していた。


「試しに簡単なクエストでも受けますか?」


 そんなハカナさんの粋な提案に俺は二つ返事で賛成する。


 ギルドの奥へと進むと、クエスト一覧と書かれた掲示板があった。

 俺達二人はその中から簡単にこなせそうなクエストを探す。

 まあ、ぶっちゃけどれも簡単そうなんだけどな。


「壁の修復に、壁の素材集めって壁ばっかじゃん」

「クロム様が派手にやったからですね」

「あっ、なんかすいません」


 どうやら俺のせいだった。

 ハジノク王国の皆んな本当にごめん。


「あっ魔石集めなんかどうですか?」

「魔石?」

「魔石と言うのは魔力を持った石の事です。加工されて魔導具によく使われます」

「なるほどな。集めるのは簡単そうなの?」

「ある程度の魔物は相手にしないとですが、かなり簡単な方かと」

「よし。それじゃあそれにしよう」


 そういう訳で俺達の受けるクエストが決まった。


「それでは受付に——キャッ!」

「痛えな」


 振り返ったハカナさんと、後ろから来た大柄の男がぶつかった。

 男の後ろには仲間と思われる人達が三人ぐらいいる。


「よく前見ろよ」

「すいません」

「謝る時は人の目をよく見ろよ」


 男はハカナさんが着ているローブのフードを取った。

 ちなみに俺もローブを着ている。

 魔力を隠す為だ。


「んで目を見ろよ」


 男がハカナさんの雪のように白く、艶のある髪を掴んだ。


「イタッ——!」

「おいおい案外べっぴんさんじゃないか」


 至近距離で舐め回すようにハカナさんを見ている男。

 流石にそこまでの乱暴は見過ごせないな。


「おい痛がっているだろ。離せよ」

「誰だよお前」

「俺はその人の友達だ」


 男は視線を俺へと移した。


「チッ、気に食わねえな。お前ビギナーか?」


 ビギナー、初心者って意味だろうか。


「そうだけど」

「んな奴が俺に指図すんじゃねえよ」


 突然、男の蹴りが俺の腹の方へと向かって来た。

 だが大したスピードもない蹴りが俺に当たる訳がない。

 横に避けて楽に躱した。


「おいおいなんだ、喧嘩か!」


 辺りにいた人達の視線が俺達に集まる。

 うーん、あんま目立ちたくないな。


「生意気な野郎だな」


 男はハカナさんの髪を雑に手放すと、指をボキボキと鳴らしながら俺の目の前に立った。

 どうやら本気のようだ。


「テメェみたいな甘ちゃんはここには要らねえんだよ」

「いいぞ! もっと言ってやれ!」

「テメェも言い返せ!」


 なんて周りから野次が飛んで来るがどうしようか。

 こういう奴はまともに相手したくないんだよな。


「オラ——」


 とその時予想外の事が起きた。


「皆さん! 死の行進デッドロードが発生しました!!」


 男が拳を放つのと、ギルドに勢いよく入って来た女性が声を上げるのは同時だった。

 突如、辺りがざわめき出す。


「死の行進だって!?」

「マジかよ。てかなんでこのタイミング!」

「腕がなるぜ!」


 男達は思い思いに声を上げる。

 殴り掛かってきたあいつも手を止めて一目散にギルドから出て行った。


 なるほどな。

 どうやら分かっていないのは俺だけのようだ。


「大丈夫ですかクロム様」

「その言葉そのまま返すよ。それより死の行進って何?」

「稀に低級や中級の魔物達が群れを作って突撃してくる事です」

「なんでそんな事が起きるんだ?」

「解明はされていませんが、一説によると強大な魔力を求めての行動だとか」


 へえー。

 取り敢えず俺のせいじゃないよね?


「今までも何度かありましたが、今回のはかなりタイミングが悪いですね。壁のおかげもあり防げていましたが、今は壁が壊れているので」


 あっ、これは確実に俺のせいだ。


「まああれだけの人員が投入されればなんとかなるでしょう」

「へっ......へぇー」


 ああ、俺もう何もしないわ。

 なんか全部悪い方向に行っちゃう気がする。


 まあでも、自分で蒔いた種は回収しないとか。


「クロム様?」

「ちょっと死の行進止めてくる」


 そう言って俺はギルドを後にした。

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