第十五話 ハジノク王国

 朝起きる。

 そして少しの朝食を食べ、テント等の荷物をマーガレットの影に入れてから、影の虎に乗ってガーベラの案内通りに森を進んで行く。

 昼時になったら休憩をした後に再度森を進んで行く。

 夜になれば、三人が眠れる程の場所を見つけて野宿。

 そんな生活が大体四日程続いた日の昼過ぎの事だ。


「おお......あれが」

「はい。ハジノク王国の正門で御座います!」

「へぇー案外大きいな」


 高さは二十メートルあるだろうか。

 そんな壁が森を抜けた先に現れた。

 どうやらもう着いたようだ。

 一週間と聞いていたが、マーガレットの影の虎のおかげでかなり早く着けたな。

 うんうん。

 よきかなよきかな。


「んでどうやって中に入るんだ?」


 ガーベラはさっき門と言ったが、門番はおろか、入り口すら見当たらない。

 あるのは壁だけだ。


「昔と仕様が変わっていないなら、たしか壁に手を翳すと門として開いた筈です」


 曰く、ある程度の魔力を有している者が壁に手を翳すと、門へと変化して中に入れるのだそう。

 何故こんな仕組みなのかは、低級の魔物が国に入って来ないように対策した為だとか。

 これは是非とも村に使いたい技術だ。

 調整すればかなりの魔物達を防げるようになるかも。

 それこそレッドキャップ達のような奴らもな。


 てな訳で入るとするか。


「よっと」


 俺が触れた直後、ビビッと耳を刺す高い音が響いた。

 まるで何かを警告しているような、知らせているような。


「何この音———あっ」


 なんて少し手に力を込めたら、壁が粉々に砕け散ってしまった。

 そして壁の奥には、剣や盾、槍などを構えた兵士さん達がいっぱいいる。

 やべ、やっちった。


「どっ......どうも........?」


 俺がそう言うと兵士達が一斉に泡を吹き出して倒れていった。

 あれ? これなんかデジャブ? なんて思っていると、倒れずに立っている者が何人かいる事に気が付いた。


「これ程の魔力に、脳を直接刺激される威圧感。魔王クロム=クロシュバルツとお見受けする。我国に何用だ」

「えっと———」

「口を慎みなさい」


 横でひっそりと構えるマーガレット。

 そんな様子を見て、向こうの兵士は剣を構えた。


「やめてくれマーガレット。戦争に来た訳じゃない」

「失礼しました」

「俺達はこの国の技術を教えて貰いに来ました」


 俺が声を上げて言うと、向こう側の兵士がゆっくりと剣を下ろしていく。


「証拠はと問いたいが、それをしたとて意味はないか」


 おっさんの兵士はそう言うと、俺の方へ近づいて来た。


「ようこそ。ハジノク王国へ」


 取り敢えず無事にハジノク王国へ到着したようだ。

 なんか色々とやばい事をした気がするが、まあ結界オーライって事で。



◽️◆◽️◆◽️◆



 俺達は今、ハジノク王国の中心部にある城の中のかなり豪華な場所へと案内された。

 あっ、ちなみにさっきのおっさんはこの国の王様だった。

 第五十二代ハジノク王国国王、ガザリウス・ガザリヌ。

 王だけど現役の魔法騎士らしく、国で一番強いのだそう。

 

 え? 魔法騎士ってなんぞやだって?


 俺もついさっき初めて聞いたけど、魔法を使いながら戦う騎士の事を指すってマーガレットが言っていた。

 まあ字で書いた通りの役職だな。


「取り敢えず本当に魔王クロム=クロシュバルツなのか?」

「はい。そうです」

「なるほどな。やっぱり噂は本当か」


 ポツリと意味深な事を言うガザリウス。

 

「あと変な敬語はやめてくれ。お主も気持ちが悪いだろう」

「ああ」

「それで、この国に来た理由だが——」

「ああ。技術を知りたくて来た」


 そうして俺は何故技術が知りたいのかをガザリウスに話した。


「分かった。早急に国一番の技術者を用意しよう」

「ありがとうガザリウス」

「礼はいい。ただ条件付きだ」

「条件?」

「我が国は人間界で最も魔界と近い場所ちに位置している。だから我が国では対処し切れない魔物が現れた際は共に戦ってほしい」

「全然いいよ」


 色々と教えて貰うのに、それが終わったら見捨てるなんて事はしない。

 そんな事をする程俺の人間性は低くないしなる気もない。


「それじゃあこれからよろしく頼む」

「お互いにな」


 俺達二人は熱い握手を交わして、互いに協力関係を結んだのだった。



◽️◆◽️◆◽️◆



「ユノン様、レッドキャップ達が失敗しました」

「わーってるよんな事」


 紫髪のかなり際どい服装をした少女。

 魔王ユノンは怒りを露わにしながら答えた。 


「吾輩が知りたいのは誰にやられたかだ」

「すみませんが、なんの前ぶれもなく奴らの魔力が消えたので、犯人の探索は難しいかと。それにこのような事を出来るのはかなりの実力者——」

「ゴタゴタうるせえな。吾輩の顔に泥を塗ったのだ、さっさと見つけ出せ」


 玉座で足を組み、目の前の男を威嚇するように語気を強める。


「承知しました」 

「あとついでにこの国に残ってるレッドキャップ達を殺せ。敗北者の種族はこの国に、いやこの世界に必要ない」


 立ち去ろうとする男に魔王ユノンはそう声を掛けた。


「よろしいのですか?」

「ああ、好きにしろ」

「承知しました。それとユノン様」

「なんだ?」

「例の魔王の件も引き続き調査を進めますか?」

「当たり前だ」 

「承知しました」


 男はとても事務的に答え、その場を後にした。

 それを見た届け、ユノンは頭の中にある男の顔を思い浮かべた。


「クロム=クロシュバルツ」


 最近復活したという魔王の名だ。

 クロムはユノンの因縁の相手。

 そしてユノンが自身の手で一番殺したかった相手でもある。


「今度こそ、必ず」

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