第二章 魔王降臨

第十四話 村の発展の為に

 俺が異世界に来てから大体一ヶ月程が経った。

 あのレッドキャップ達との一件以来、村は平和で溢れている。

 

「クロム様ー! 手合わせしよ! ね!」


 なんて言われながら、俺は村の子供達に腕を引っ張られたりしていた。

 

 元々は戦闘訓練(笑)ぐらいで、働いている親達の代わりに面倒を見るシッターさんみたいな気分だったのだが、ティラミスを始めとしてなんか皆馬鹿みたいに強くなってしまった。

 俺が今まで戦った奴らが少ないからあれだが、この子達は多分レッドキャップ二百体を余裕で倒せるだろう。

 これも魔力や魔法に長けているエルフの性質のおかげか。


「ご主人様ーキャシーもー」

「お前は面倒見る側だろ」

「はあーい」


 おーい子供達ーと、やる気なさげに集めるキャシー。

 子供達は俺から離れてキャシーの元へと駆けて行った。


「皆元気いいな」

「大変ですねクロム様」

「まあなってサファイアか」

「お隣失礼します」

「どぞどぞ」


 木陰で腰掛けていた俺の隣にあのゴブリンの少女、サファイアが腰掛けた。

 レッドキャップ達により住む場所が無くなってしまった彼女は現在、エルフの村の住人となって医療系の方に回っている。


「魔法とか生活とか大丈夫か?」

「はい。おかげ様で」


 魔力や魔法に長けているエルフ達とは違って、彼女はゴブリン。

 最初の方こそ魔法の扱いに苦労していたが、彼女の努力もあってか今じゃある程度出来るように成長した。

 生活の方も皆んなと馴染めているようだ。


「キャシーとは大丈夫か?」

「はい。キャシちゃんとは最近お泊まりなんかして、本当に楽しかったです」

「それはよかったよ」


 サファイアからすれば、レッドキャップは憎むべき最大の相手。

 キャシーと会わせるのには気が引けていたが、仲良くやっているみたいで安心した。

 最初の方なんか、キャシーは罪悪感を感じていたらしくサファイアにめっちゃ頭下げていた。

 それこそ今のダウナー系になったキャシーからは想像できない程に。


「これからもよろしく頼むよ」

「はい! クロム様も私達をよろしくお願いします」


 そうサファイアが頭を下げた瞬間に、キャシーと戯れていた男の子の一人が転けてしまった。

 魔力で身体を強化しているとは言え、痛いものは痛い。

 男の子は目に涙を浮かべて今にも泣き出しそうだ。


「あっ大丈夫ですか!」


 それに気付いたサファイアは一目散にその子の元へ向かって治療ヒールを掛けた。

 あたふたしていたキャシーも安心したのか胸を撫で下ろしている。


「うんうん。平和だな」


 なんて呟きながら、俺はゆっくりと目を瞑った。



◽️◆◽️◆◽️◆



「ハジノク王国?」


 子供達を家に帰した後、俺は会議用に作られたコテージへと移動した。

 今この場にいるのはガーベラにキキョウにマーガレット。

 そしてダイヤと俺を含めた五人だ。


 エルフの村はかなり進化していった。

 服も家も完全に変化して、俺が訪れた時の面影なんか一切ない。

 だか、未だにライフラインに辺りの整備が進まず、皆頭を悩ませている。

 何かいい案はないかと議論していたところ、ガーベラがある意見を言った。


 それはハジノク王国という国に技術を教えてもらうというものだ。


「はい。魔物差別の多い人間たちの中でも、唯一我々と友好的に接してくれた方々です」

「そうなのか」

「ええ。何度か物のやり取りをした事があります。もう昔の話ですけど」

「へえー」


 人間って魔物差別するんか———ってそこじゃないな。

 王国って事はそれなりに栄えている訳だ。

 関係的には昔らしいけど、再度友好的な関係を築ければこの世界の技術を取り入れられるかもしれない。

 そうすれば村の発展にも繋がる。

 中々にいい案だ。


「遠いの?」

「クロム様からすれば近いのかもですが、大体歩いて一週間程です」


 爽やかな笑顔で言うガーベラ。

 一週間って普通に遠いじゃないか。


「どうしますか?」

「ああそうだなー。一週間かあ」


 うーんどうしよう。

 行くとなると少しの間村を離れるけど大丈夫かな。

 明日の朝———でもいや何事も早い方がいいか。

 善は急げって言うしな。


「ダイヤ」

「何?」

「一週間ぐらい村を頼んで大丈夫か?」

「ええ勿論」


 当たり前じゃないと胸を張るダイヤ。

 流石天下のダイヤさんだ。

 信頼できる。


「それじゃあガーベラ、それとマーガレット、今すぐに準備って出来るか?」

「勿論ですクロム様」

「私もです」


 二人はそう即答して会議用に作られたコテージを後にした。


「クロム様、私はなのです」

「お前は留守番だキキョウ。ダイヤと一緒に村を頼む」


 少ししゅんとしたキキョウと無言でキキョウの肩に手を置いたダイヤを見てから俺もコタージを出た。

 

「ハジノク王国か」


 ていうかあれか、俺ってひょっとしたら人に会うの十五年ぶりとかじゃないか?

 まあエルフ達とかダイヤとかサファイアとかキャシーとかは見た目は人間なんだけど......。

 種族的に人って存在に会うのは本当に久しぶりの事だ。


 笑顔の練習とかしておこうかな?

 

「ふふ。ふふふふ」


 うん。

 キモいから即却下だな。

 なかった事にしよう。


 それにしてもどんな人達なんだろうか。


 ガーベラ曰く魔物差別の多い人間達中でもかなりの友好的らしいが、もしそうでなかった場合はどうしよう。

 俺だけが悪く言われる分にはいいが、そうじゃない場合だよなあ。

 最悪力こそパワーでいくしかないか?

 勿論俺らは抵抗するで、拳でみたいな。


「まっその時はその時だ」

「クロム様、準備が整いました」

「おおガーベラにマーガレットって随分と早くないか?」

「クロム様を待たせる訳にはいかないので」

「そうですよクロム様。マーガレットの言う通りです」

「おっおう。そうなのか」


 二人の勢いにビビながら、俺達はハジノク王国がある北側の門へと移動した。


「あれ? てか荷物どこ?」

「私の影の中です」


 なんて言うマーガレット。

 うん? どゆこと?


「クロム様から教えて頂いた、影操シャドウマリオネットの応用です」


 へ.......へぇー........あれそうんな風にも使えたんだ。

 初めて知ったわ。


「さっ、着きましたよクロム様」


 ガーベラが言うように俺達は北門へ到着した。

 

 よし。

 これから一週間近くは歩きなのだ。

 気を引き締めて———


「ではガーベラ様、クロム様、お二人はこれにお乗り下さい」


 そう言うマーガレットの両脇には、黒く大きな虎に近い生物(?)が居た。

 うん? どゆこと?


「マーガレットそれは.........」

「これも影操の応用です。自身の影を生き物として具現化させました。ただ———」


 するとマーガレットの体が見る見る小さくなっていく。


「その分自分の影が少なくなるので、必然的に私の体も小さくなってしまうのです」


 身長が半分以下になったロリマーガレットは、俺の元へとちょこちょこと向かって来た。

 え可愛い。


「ではガーベラ様そちらのを、私はクロム様と一緒にこっちのに乗りますので」

「え? まじ?」

「嫌.......ですか?」

「よしマーガレット、俺と乗れ」

「はい!!」


 なんてあれよあれよと流されている合間に、俺達は虎へと跨った。

 ちなみにマーガレットは俺の前でちょこんとしている。

 

「それではクロム様! 案内は私に任せて下さい!!」


 先頭を走り出したガーベラに、俺とマーガレットは付いて行く。

 後ろを向くと村がどんどん遠くなっていくのが分かる。


 少し不安に思うところはあるが、キキョウとダイヤなら大丈夫だろうし結界魔法を発動させてある。

 

「皆んな待っていてくれよ」


 そうして、村の発展の為、ハジノク王国を目指す旅が本格的に始まったのだ。

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