間話 少し昔の話をしよう
「おい。そこの黒髪のあんちゃん」
「俺か?」
ある日ふらりと街を歩いていると、道の脇に居る汚れた格好をしたおっさんに声を掛けられた。
「そうだぜあんちゃん。ちょいと寄ってかねえか?」
そう言いながら、俺を手招きするおっさん。
なんだろう?
色街の勧誘だろうか?
「生憎だが、そういうのは間に合っている」
「うん? なんか勘違いしてねえか?」
「勘違い?」
「ちょいと話に付き合って貰うだけだぜ」
おっさんはニヤリと笑みを見せる。
まあ話ぐらいなら、聞いてやらんでもないか。
「タダか?」
「そりゃもちのろんよ」
「んじゃ少し頼むよ」
そうして、俺は人の邪魔にならぬようおっさんの前へと近づいて腰掛けた。
おっさんは少し咳払いをして、息を吸い込んだ。
「それじゃああんちゃん。少し昔の、世界の話をしよう」
◽️◆◽️◆◽️◆
昔、まだこの世界が人で溢れていた時の話。
ある人が魔力という不思議な力を発見した。
それは生命を癒し、生活を豊かにし、人々を助けた。
魔力と共存しようとする者がいれば、勿論力に溺れた者も居いた。
後に魔物と呼ばれる者達だ。
人と魔物。
二種類の種族は当たり前のように争いを始めた。
魔物側は魔王を筆頭に、人側は勇者を筆頭に。
勇者は特別な力を持っていた。
その力で魔王を討ち滅ぼした。
だが、生命が止まる事はない。
新たに誕生する魔王達。
勇者達も次第に勢いを無くし、徐々に魔物側が世界を侵略していく。
そんな最中現れたのが一人の少女だった。
少女は人間の母と魔物の父を持ち、魔物の恐ろしさも人間の優しさも持っていた。
だから彼女は戦争を止めれたのだ。
「へえー」
「ってまだだよあんちゃん。この話には続きがあるんだ」
「続き?」
「ああ。少女はその後———」
結局は自身の力に溺れた。
少女は大人になっていくに連れて、自身の力の偉大さを知ってしまったのだ。
そして次第に恐怖した。
溺れる度に、母から受け継いだ優しさが彼女の邪魔をした。
「うんでまあ、人間と魔物がもう争わないようにってあの断裂の森を創って、森の中に姿を隠したって訳よ。以上はい拍手」
パチパチ、なんて拍手をしているとある疑問が生まれた。
「そしたらまだ生きてるかもしれないのか?」
「さあな。探せばいんじゃねえか?」
なんてケラケラと笑うおっさん。
少女の生死は不明か。
「てか何でこの話を俺に?」
「酒を片手に昔話と称した伝説を語る小汚いおっさん。男のロマンだろ」
たしかに言われてみればそうだ。
このおっさんやるな。
「あんちゃんは見込みがありそうだったからな。そう言った若者を見つけてはこんな感じにしてんのよ」
「なるほどな。騎士団に通報されない程度に頑張れよおっさん」
そう言うとおっさんはまたケラケラと笑った。
「んじゃ話も終わりだ。あばよあんちゃん」
「さよならおっさん」
俺は立ち上がってその場を後にした。
「うーん」
体を伸ばして道を歩いて行く。
なんだかいい話を聞けたというか、出会いがあったというか。
「また会えたら、酒の一杯でも奢るか」
なんて口にして、俺は晴天の空の下、懐の財布が消えていた事に気付いたとさ。
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