第十三話 ダウナー系とありがとう

「それでえ、村を抜けて何処に行っていたのかなあ?」

「いやそっすね〜」


 俺は今、コテージの中でダイヤに詰め寄られている。

 てかダイヤ顔怖いって!

 ごめんて! 


「で、何処行ってたの?」

「いや」

「ね、ね、ねえねえねえねえ」


 てな訳で素直に全部ゲロった。

 ダイヤは怒る訳でも俺を引っ叩いたりする訳でもなかった。

 ただただ呆れるようにソファに勢いよく腰掛けた。


「それでレッドキャップ達は全滅と」

「うん。全員吹っ飛んだ」

「呆れた」

「すいやせん」


 さっきまで我とか調子乗ってたのに、今じゃ小動物のように丸まっているのが俺だ。

 魔王なのに情けない。


「まあ、結果オーライって事でみんなに黙っててあげるわ」

「ありがとうございますダイヤ様!」

「そうよ。もっと崇めなさい」

「ダイヤ様最高!」


 随分と機嫌が良さそうなダイヤを横目に見ながら、絨毯で土下座していた俺もソファへと腰掛ける。

 ああ、疲れた体にソファのフカフカはやばいな。

 寝ちゃいそう。


「そう言えば」

「うん?」


 不意にダイヤが声を出した。


「どうかした?」

「いや、あれどうするの?」

「あれ?」


 ダイヤが指差した方向へと俺は顔を動かした。

 そこにはビクビクと怯えながら、柱の影に隠れている赤色の肌をした奴が居た。


「キャ」

「ああ、あいつね」


 言われてみればたしかにそうだ。

 どうしよう。

 別に生かすも殺すもどっちでもいいんだよな。

 一番の原因を倒した訳だし。


「よっと」


 ソファから立ち上がってあのレッドキャップの元へと歩いて行く。


「キャ.........」

「そんなに怯えんな」


 俺から距離を取るように隠れたレッドキャップに対して、俺は出来る限りの明るい声で言った。

 まあでも、今にも泣き出しそうなんだけどね。


「お前はどうしたい?」

「キャキャ」


 聞き取れそうもない小さな声でそう答えてくれるが、ごめん何言ってるか分かんないや。


「謝罪したいって」

「えダイヤ分かんの?」

「ええ、私は貴方の一兆倍賢いからね」


 流石、天下のダイヤさん。

 あっぱれあっぱれ(棒)


「んで謝りたいって本当か?」

「キャキャ、キャキャキャ」

「心の底から謝罪して、一緒仕えたいだって」

「おっおう」


 重いな。

 てか本当にそう言ってるのか?

 ダイヤが適当言ってる説が出てきたぞ。


「何よ」

「いやなんでも」


 チラリとダイヤの方を向いて、俺はレッドキャップへと向き直った。

 目には涙を浮かべ、足はガクガクと震えを起こしている。


「うーんまいっか」

「キャ?」


 たしかに第一印象は最悪だったけど、こいつ自体は下っ端でゴブリンの件には関与してない訳だ。

 こいつに何かを咎める必要もない。

 まあ過去になんかしてそうだけど、それを持ち出したらキリがないし今回は大目に見てやろう。


「これからよろしくな」

「キャ!」


 元気良く頷いたレッドキャップを見て、俺は奴の頭にゆっくりと手を置いた。

 恐怖心を消してやる為に優しく頭を撫でる。

 そしてこっそりと印も結んじゃう。


「キャ〜」


 気持ちがいいのか、手に頭を擦り付けてくるレッドキャップ。

 なんだかペットを相手にしているみたいだ。

 ちょっと可愛い。


「んじゃ俺は寝ようかな。やる事終わったし」

「そう。おやすみ」

「ダイヤはどうすんの? 泊まってく?」

「スケベ」

「おいおい、俺はまだ何も言ってないぞ」

「まだ?」

「すいやせん」


 なんて会話の後にダイヤは自身のコテージへと帰って行った。


「なんかダイヤが変?」


 今思ったが、なんだか最近は辛口が減ってきている気がする。

 ちょい前までは俺が口を開く度に死ねだの、消えろだの、ゴミだの言っていたのに、今はなんか優しくなっている?

 それに最近はアオバと呼ばれる回数が多い。

 ついこの間まではカス野郎だったのに。


「なんか企んでるのか?」


 ぶるっと悪寒が体に走る。

 取り敢えず明日からは背後に気を付けるとしよう。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「.........うっ重いな」


 ふと目が覚めて、そんな事を思った。

 何が寝ている俺の上に乗っている。

 俺はその何かを退かそうと手を動かして掴んだ。


 ムニュ


 とても暖かく、柔らかな感触が手から脳に伝わる。

 なんだか面白くなり、俺はそれを揉みしだいた。


 ムニュムニュ、ムニュムニュ


 ああ、すげえ柔らけえ。

 手が止まんねえ———


「って違ーーう!」

「キャ?」


 俺は上に乗っていたものを投げ飛ばすようにして起き上がった。

 そして見てしまった。

 柔らかいものの正体を。

 薄々勘付いてはいたが、やっぱりおっぱいだった。


「キャシー」

「なあに.........ご主人様」

「俺の上で寝るなって、そして折角服渡したんだから着ろよ」

「はあい」


 寝ぼけているのか、目を擦りながらボーッとしているキャシー。

 彼女の赤色の肌が朝日に照らされてより一層濃く見える。


 もう気付いた人もいるだろうが、キャシーはあのレッドキャップ。

 昨日印を結んだ直後、彼女の進化が始まった。

 まさか女の子だったとは思わず驚いが、色々とエッチだったので全然オッケーだ。

 そして彼女が俺に仕え、尽くしたいと五月蠅かったので昨晩はお楽しみでしたねと。

 安心しろ、まだ童貞だ。


 名前の由来はキャって言ってるからなんとなくキャシー。

 レッドキャップには個人を判別する名前がないらしいから俺が付けた。


 それにしてもだ。


「エッチだなお前」


 再度キャシーの体を眺めるが、胸は大きいしお尻もそれと同じくらい大きい。

 そして身長も中々高く、全体的なバランスもいいときてる。

 顔も美形で腰まで伸びた真紅の髪が最高に美しい。

 もはや芸術的だな。


「ご主人様?」

「サッサと起きて服を着てくれ。目のやり場に困る」

「はーい」


 ダウナー系美人へと進化してしたキャシー。

 いや本当破壊力エグいなおい。

 そして勃つな。

 勃つな俺。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



 キャシーとの朝を終えて、俺はあのゴブリンの集落へと足を運んだ。

 

「よし。こんなもんか」


 洞窟で燃やしたゴブリン達の骨を集めて地面へと埋める。

 そして木の棒を立て、最後にあの世のゴブリン達の幸せを願って少しの魔法を掛けた。

 

「安心して眠ってくれ」


 手を合わせて、結界魔法を発動させる。

 これでもう襲われる事はないだろう。


「優しいのね」

「ああ。俺は少し前までクソみたいな奴だったからな。今は最低限の優しさは持つように———ってダイヤいつの間に」

「ごめんなさい。また勝手な事をするのかと思って」

「しねえよ」

「そう。なら良かったわ」


 なんて言いながらダイヤは俺の真横へと移動して、俺同様ゴブリン達に手を合わせた。


「優しいんだな」

「貴方以外にはね」

「へいへい」


 不意にダイヤがクスリと笑った。

 なんて言うか、凄く可愛いと思ってしまった。


「そんなに見ないで頂戴。不愉快よ」


 やっぱり全然可愛くなかった。

 

「んじゃ皆待っているだろうし帰ろっか」

「そうね」


 俺達二人は足を揃えてゴブリンの集落を後にした。

 

『◽️◽️◽️◽️◽️』

「どうしたの?」

「あっいや」


 背後から誰かに声を掛けられた気がして振り向いたが、勿論あるのは墓だけで魔物すらいなかった。

 そして俺がいきなり立ち止まって振り返ったせいか、ダイヤから変な視線を向けられる。


「アオバ?」

「ごめん、なんでもないや」


 なんでもない。

 だからきっと、ありがとうと声を掛けられた気がしたのは、俺の勘違い、気の所為なのだろうと、そう思う事にした。

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