第十二話 夜に溢れた独り言

「何が復讐だ。魔王なんて名乗りおって、騙されると思うなよ」

「あっそう」

「お前達も怯えるな! この正義のヒーロー気取りを軽く分からしてやれ」


 おそらくキングレッドキャップであろう奴がそう言うと、周りの奴らが一斉に襲って来る。


「「キャキャキャー!!!」」


 ふむ。正直驚いた。

 こいつらが俺を魔王と信じないで無謀にも襲って来る事に対してではなく、俺が分からされる立場になった事に対してだ。

 昔から、虐めてきた奴らだったり、メスガキだったりを分からす妄想はしていたが、まさかこの俺がその立場になったとは。

 人生何があるか分からんな。


「やれぇえお前ら!!」


 おっと危ない危ない。

 迫り来るレッドキャップ達を避けながら、俺はバレない程度に辺りに結界魔法を発動させる。

 目的は勿論、レッドキャップ達を閉じ込める為だ。


 キキョウとマーガレットの報告通りだと数は千との事だったが、今この場にいるのは大体三十といった具合。

 他の奴らはどこに消えたのだろうか。


 それを探るべく、俺は目を瞑って五感に意識を集中さてた。

 生物の体内ににある魔力というのは、集中すればその大きさを感覚で掴める事が出来る。

 今回はそれの応用。

 集中し、辺りのレッドキャップの魔力を感覚で把握する。

 そしてそこから位置を割り出す。

 そうすれば———


「キャー!!」

「なるほど。バラバラに散らばったか」


 ある程度のグループに分かれて、様々な方向に散らばっているのが分かった。

 そのうちの幾つかがエルフの村へと向かっているよう。

 流石にそれは阻止だ。


全てを遮断する空間インサイド


 結界魔法、完全発動。

 これなら勝手にどっか行くこともないだろうし戦いやすい。

 それに魔力探知遮断の効果もあるから、ダイヤやエルフのみんなにも気付かれない。

 かなり気が楽になった。


「? なんだ?」


 キングレッド———って一々フルで言うの面倒くさいな。キングでいっか。


「結界魔法? 誰がそんな事を」


 どうやら混乱しているキングさん。

 キングのくせに察しが悪いな。 


「俺に決まってんだろ」

「何?」

「てかお前キングなんだろ。下っ端ばっかじゃ相手になんないしサッサと来いよ」

「なめた事を言う」

「なめてねえよ。見下してんだ」


 プチンと何が切れる音ともに、キングが飛び上がった。

 片手には自身の身長を軽く超えているであろう大きな斧を持っている。


「死ねえ!!」


 俺はキングの攻撃を結界魔法を発動させて防ぐ。

 目の前には筋骨隆々の男と大きな斧。

 迫力満点の光景だ。


「はあぁぁああ!!」


 金属がぶつかる鋭い音が辺りに響く。

 キングは俺目掛けて何度も何度も斧を振るった。

 まあでも結界が破れる事はないし、破れたとしても当たらないんだけどね。


「なるほどな。我々に一人で挑むだけはある。だがこれはどうだ!」


 キングはそう言うと、辺りに居たレッドキャップ達を次々に食べ始めた。

 いや酷!

 何やってんの。仲間割れか?


「お前も知っての通り、魔物は他の魔物を食べ、その魔力を取り込む度に強くなる!!」


 ごめん。

 全然知らなかった。


「ぐっ、グォぉぉぉおおお!!!」


 キングの咆哮が辺りに響いた。

 そして奴の体が変化していく。

 筋肉は更に巨大化し、身長も五メートルぐらいになった。


「今の我は先程の十、いや五十倍の強さがある」


 ああ、間違いない。

 今の奴はめっちゃ強い。

 正直言ってチビりそうだ。


「さあ、第二ラウンドといこうか」

「あっちょっと待って」

「あん?」


 勝手に第二ラウンドに入られる前に、俺はこいつにずっと聞きたかった事を尋ねた。


「お前さ、なんでゴブリン達を殺したんだ?」

「理由はない。そういう気分だったのだ」


 意気揚々と喋るキングレッドキャップ。

 気分で人を殺すとか典型的なクソ野郎だ。


「本当にそれだけの理由か?」

「ああ、それに犯したかったというのもある。最高に気持ちがよか———」


 俺はキングが言い終わる前に思い切り腹をぶん殴った。

 殴った理由は簡単。

 今は亡きゴブリン達の傷を増やさない為だ。

 まあ、俺から聞いたんだけどね。


「ぐはぁぁぁあ!!」


 後ろに吹っ飛んで倒れ込むキング。

 奴はすぐさま立ち上がって俺を睨み付けた。


「何故だ、何故攻撃を喰らう。今の我には効かない筈...........」

「お前がまだ俺以下だって事だろ」


 そう言うと、ただでさえ赤い体が更に赤みを帯びていく。

 そして周りのレッドキャップ達をまた食べ始めた。

 ありがたい事だ。

 勝手に敵の数を減してくれるだなんて。


「これでどうだ! 今の我は先程の二百倍の強さだ!!」


 なんて言って向かって来るけどさ、


「意味ないんだよな」

「何!?」


 側に落ちていたレッドキャップの斧を手に取って、魔力を流し強化する。


「ほい」

「ぐがぁぁあああああ!!」


 適当に一振りしたら、キングの右腕が吹っ飛んだ。

 奴の体から血が滝のように流れ出る。


「それで二百ね」


 と言うとまた周りのレッドキャップ達を食べ始めた。

 そのおかげで数が千から二十ぐらまで減ったのでありがたいが。

 流石に食い過ぎだろ。


「いっ.........今の....ワレ.....は....五百.........バ......い」


 もはや限界を留めていないがまあこれくらいでいっか。

 

 俺は斧を奴に向かって構える。

 そして一言、


「スキル発動」


 《アルティメットユニークスキル 魔王クロム=クロシュバルツ発動


  固有能力 無限上昇インフィニティを自動使用


  敵のステータスを確認し自身のステータスがその十倍に上昇》


 これで俺のステータスは五千倍か。

 今回あの魔法パクるやつが出ていないのは、キングが魔法を使っていないからなのか?

 よく分かんないけど、今は色々考える前に目の前の肉塊を倒すとしよう。


「グォ.......グォぉおおおお!!」

「あの世で後悔しろよ。命を軽く扱った事を」


 奴はただひたすらに俺へと向かって来る。

 そして俺はただゆっくりと斧を掲げて、


「じゃあな」


 振り下ろした。


 直後、空を切る音が耳に入ったと思ったら、それは大きな爆発音へと変化する。

 光が辺りを包み込み、何もかもが爆ぜた。


 地面も、木々も、あの肉塊も。


 風が大地を揺らし、俺も飛ばされそうになるのを必死に耐えた。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



 全てが収まり、俺は目の前を見た。

 クロム様の力を使ったら、これは毎回思うのかもしれない。

 いや思うのだろう。

 絶対に。


「これはやり過ぎだな」


 既に日が落ち夜になっている。

 空には雲一つなく、満月が森を照らしていた。

 そんな景色の中に、俺の独り言が小さく溢れたのだった。

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