第十話 キャキャ?

「よっお目覚めか」

「............ここは?」

「俺の村だ」


 ゴブリンの少女はゆっくりと体を起こして辺りを見回した。

 まだ意識が覚醒していないのか、ボーっとした様子の少女と視線が合った。

 少女は一度目を逸らしてからもう一回俺を見る。

 それが五回ぐらい続いた後に、少女の叫び声が辺りに木霊したのだった。


「ちょ落ち着いてくれ。俺は君に何もしないよ」

「本当にそうかしら」


 ぐいっと俺の横からダイヤが前に出る。


「どういう意味だよ」

「さあ。取り敢えず、ここは私に任せなさい」


 ダイヤは俺の背中を押しながら俺をコテージから追い出した。

 ここからは女の時間よとだけ言い残して扉を閉めるダイヤ。


「なんだよいきなり」


 まああの子も男の俺より、同性のダイヤの方が気が楽になるのかもしれない。

 怯えていたしな。

 ダイヤはそこら辺に気が付いて俺を追い出したのだろう。

 俺には辛口だけど、周りをよく見て適切な判断を出来るのがダイヤのいいところだ。


「そんじゃ俺も出来る事をするか」


 そうして俺は、少女が倒れていたあの場所へと再度足を運んだのだった。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「さて状況を整理するか」


 辿り着き、地面に付いている少女の血痕を見る。

 ゆっくりと顔を前向けていくと、足跡と共に血痕が目の前の森へと続いているのが分かった。

 この森の先に少女を傷付けた何かがある、もしくは居るのは確実。


「行くか?」


 今すぐにでもあの子を傷付けた分のお返しをしてやりたいが、それはただの復讐。

 憎しみしか生まない最悪な行為だ。

 それに少女の言った言葉も気になる。


「みんな逃げて、ねえ」


 みんな逃げてという事は、何かがこの村を襲ってくると捉えれる。

 となると俺は村を離れられない。


「キキョウ、マーガレット居るか?」

「「ハッ」」


 声を揃え、俺の背後に突如現れる二人の胸のデカいエルフ。

 彼女らは何故か知らんが俺の下に仕えたいと五月蠅かったので、隠密系の魔法を覚えてもらって、俺の影として色々と秘密裏に活動してもらっている。

 まあ今までは村周辺のパトロールばかりだったから、今回はちゃんとした初陣といったところだろう。

 ちなみに二人は俺がこの村に来たばかりの頃、村長と話をしていた時に俺の両側にいたあの二人だ。


「何用なのですクロム様?」


 このふんわりというか、少しおバカっぽいのがキキョウ。


「仕事だ二人共。この血痕と足跡を追って、その先に何があるかを報告してくれ」

「了解しました」


 キキョウとは反対でシャキッとしているお姉さんがマーガレット。

 一見正反対な二人だが、実力はこの村でトップを争える程に高い。


「あと戦闘は極力避けてくれよ。二人共俺の大事な人だからな。お前らに傷一つでも付けた奴がいたら、俺がどうなるか分からん」


 俺が何も考えずにそう言うと、いきなり二人の体がビクビクと震え出した。

 どうしたんだろう? 足つった?


「我々には勿体無いお言葉、本当にありがとうございます」

「いいってそんな。んじゃ気を付けてな」

「「ハッ」」


 二人は体から黒い霧を出して消えて行った。

 あと数時間もすれば、帰って来た二人からそれなりの情報を得れるだろう。


「平和にいってくれんかね」


 多分無理であろう願望だが、口にするのはタダだしな。

 取り敢えず、村に結界の一つでも張っとくかと手を前に翳した時だ。


 ガサガサ


「うん?」


 目の前の木の葉が揺れ出した。


「キャキャ」

「キャキャ?」


 木の葉から顔を出す、赤い帽子? を被った斧を持った奴。

 体中が赤く、漂ってくる血生臭い香りが俺の鼻を刺激する。

 え誰こいつ。


「キャー!」


 木から飛び降りて、俺目掛けて斧を振るうが、


「ほれ」


 俺のちょっと強めのデコピンで斧が粉々に砕け散った。


「キャ?」

「いや三度見しても現実は変わらんよ」


 いきなりダラダラと汗をかいて、俺からゆっくりと遠ざかろうとする。

 マジで何がしたいんだこいつ。


「キャ」

「あっ逃げた」


 赤い奴はすみませんでしたと言わんばかりに頭を下げて猛ダッシュで逃げ出したが、勿論こんな怪しい奴を俺が見逃す訳がない。

 一瞬で追いついて、さっきの場所まで引き戻した。


「あのさ君、ちょっとこっちでしよっか」


 こいつの場合、怯えてようが関係ない。

 相手が俺だったからよかったが、斧を振るわれた相手がエルフ達だった擦り傷ぐらいしていただろう。

 そんなの許される訳がない。

 守るって約束したんだ。


「あっち行こっか」


 さあ楽しい楽しいお話し会の始まりだ。

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