第九話 ゴブリンの女の子
俺がこの村に来てから一週間程経過した。
まずはそのまとめから。
その一、村が少し発展した。
具体的には、木造のテントみたいな家が主流だったのが小さなコテージへと変化したり、服装も布一枚を纏ったものからしっかりと服と呼べるものへと変化した。
まあ家に至ってはまだ全部が全部変わった訳じゃないし、ライフラインの整備もまだまだ先は長い。
何事も地道にだな。
そのニ、俺とダイヤが先生の学校が本格的に始まった。
まあ殆どダイヤ任せになっちゃったがな。
魔王になったからと言っても、俺の戦闘スキルが上がった訳じゃない。
たしかに前世のプロボクサー相手とかなら余裕で倒せるのは間違いないが、それは魔力と魔法込みの話。
その二つを抜いたら俺なんかただの素人同然。
魔王が素人とバレたら威厳が危ない。
よってボロが出ないよう、ダイヤに色々と教えて貰った事をエルフ相手に教えている。
本当にダイヤ様様だ。
「クロム様、お手合わせ願います」
俺の生徒は十人ちょっと。
他のエルフ達はダイヤの方で培った知識を活かして、村発展の作業に回っている。
だから生徒数は少なく、相手も作業を出来ない女の子だったり、サボっている男の子だったりする。
「いいぞティラミス」
この子は生徒の中でも最年長で、一番筋がいい。
スレンダーな体型の黒髪ショートヘア。
甘美な名前とは裏腹な鋭い目付き。
「手加減なしでお願いします」
「それじゃあこの村はおしまいだ」
クスクスと優しく笑って彼女が俺の目の前で構えた。
右手で短剣を持ち、どんどんと腰を低くしていく。
数秒間の間の後、彼女は力強く踏み込んで、俺の懐目掛けて飛び込んで来た。
「はぁぁあああ!!」
一瞬のうちにすぐそこまで来る彼女の短剣を軽くデコピンで弾く。
すると短剣は宙を舞って、彼女の背後にある木へと突き刺さった。
「な!?」
ティラミスの動きが少し停止する。
チラりと短剣の行方を追って背後を向いた彼女。
俺はその隙を見逃さず、彼女の肩をトントンと叩いた。
「隙あり」
ムギュッと、振り返った彼女の頬に俺の人差し指が沈んでいく。
あっ、すげえ柔らけえ。
「まだまだだな」
「酷いですクロム様。もっとちゃんとやって下さい」
頬を膨らませながら、俯くティラミス。
その指は俺の服をツンツンと指していた。
可愛い過ぎてこのままじゃロリコンになりそうだが、エルフは長寿だからティラミスは今四十近い。
まあ俺にはそんなの関係ねえ!!
合法ロリ最高!
「クロム様?」
「ああなんでもない。んじゃ魔法の訓練でもするか」
「はい」
そうして木陰で寝ている子や側で見ていた子達を集めて、俺は魔法についての授業を始めたのだった。
◽️◆◽️◆◽️◆
「「クロム様さようなら」」
元気な声でそう言う子供達。
俺の授業はお昼時で終わるので、子供達を各自の家へ返した。
「さてさて次に行きまっか」
俺は足を村の作業場へと向ける。
途中途中でエルフたちに挨拶されながら、薄い木の板を片手に持ったダイヤを見つけた。
「よっ元気してる?」
「まあまあね」
家造り、服作り、ライフライン作りのそれぞれの監督官に指示をしているダイヤ。
「様になってるな」
「貴方と違ってね」
嫌味たらしくダイヤは言った。
相変わらずの態度だ。
「そう言えば——」
「クロム様!!」
ダイヤが何かを言いかけた直後、一人の女性エルフが俺の元へとやって来た。
息を切らし、汗をいる様子から、相当急いで来たのが想像できる。
ただならぬ予感が俺の背中をゆっくりと撫でた。
「どうした?」
「村の東側の門に女の子が..........ゴブリンの女の子が倒れて..........」
それだけ聞いて、俺はすぐさま報告された場所へと移動する。
そこには、三人の女性エルフに囲まれた傷だらけの女の子が倒れていた。
緑色の肌をしたその子の元へ俺は歩みを進める。
「あっクロム様」
エルフ達が俺に気付き、軽く頭を下げた。
「容態は?」
「はい。今私達で
「なるほどな。なんでこうなったのかは分かるか?」
「いえ。彼女に話を聞かない限りは............」
うーん。まあそうくるよな。
「誰がこの子を発見したんだ?」
「私です」
「えっと.........」
「あっ、ユリと言います」
ぺこりと頭を下げて、再度女の子と向かい合うユリ。
いや胸デッ——じゃなかった。
「見つけた時の様子は?」
「血を流してとても辛そうでした。あと———」
「あと?」
「みんな逃げて、と」
その言葉で周りのエルフの体が少し強張ったように思えた。
傷付いた女の子にみんな逃げての一言。
取り敢えず、少しの間は平和に過ごせなそうだ。
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