第八話 やるならとことん最後まで

「——あぁクロム様、好き好き好き大好き。あぁこれがクロム様チン———」

「コラ何してんだダイヤ。そして残念だったな全部丸聞こえだ」

「殺して頂戴」


 自身の首を絞めながら本気で自害しようとしているダイヤをチョップして、俺はゆっくりと体を起こした。

 辺りを見回すが、俺はどうやらあの村で一番大きな場所で寝ていたようだ。

 記憶はある。

 印を結んだ後に倒れた俺を誰かが運んでくれたのだろう。


「よっとって何だか下半身が痛むな」

「知らないわ。ただ丸一日固い地面で寝たいからそのせいでしょ」


 何故か顔を背けて教えてくれるダイヤ。

 まあさっきあんな事があった訳だし、流石に顔を合わせるのは気まずいか。

 安心しろダイヤ。

 あれは誰にも言わないからな。

 ちょっとオナネタにするだけだ。


「丸一日も寝ていたのか」

「ええ。あのエルフ達も心配してたわ」


 どうやら変な心配を掛けてしまったようだ。

 後で謝った方がいいな。


「エルフ達は何処に?」

「それなら———」

「お疲れ様ですダイヤ様。クロム様の容態は.........」


 いきなり入って来た好青年と俺の視線が混ざり合った。

 体格もガッチリとしていていい筋肉をしている。

 エルフ達は皆痩せ型だったし、こんな青年は居なかったような............。


「クロム様! お目覚めになられたのですね」


 顔色を明るくさせて、俺の目の前で膝を付いて頭を下げる青年。

 その勢いに飲まれ、俺の返事がしどろもどろになってしまった。


「えっと、どちら様で?」


 正直に俺が尋ねると、青年はハッとした表情をして立ち上がる。


「名乗りが遅れてしまいましたね。私はこの村の村長、ガーベラと言う者です」


 うん?

 村長だって?

 村長ってあのヨボヨボの爺さんの事だよな?

 え? ちょは?


「クロム様、これから我々エルフ一同をよろしくお願いします」

「えっあ、よろしく」


 取り敢えず、目の前光景は夢かもしれないという考えが脳裏を過った為、ダイヤに頬を抓るよう頼んだ。

 二つ返事でオッケーしたダイヤは躊躇なく俺の体に火を付けた。


「間違えしてまったわ。テヘペロ」


 棒読みで謝罪するダイヤが許せなかったので奴の尻を揉みしだく。


 パチーン


 耳に残る甲高い音が辺りに響いたとさ。



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「あっクロム様だ!」

「クロム様おはよう御座います」

「クロム様やっほー」


 村を少し歩くと、辺りに居たエルフ達が俺の元へと次々にやって来た。

 エルフ達は皆痩せ型から健康体へと変化して、女性は出るとこ出てるし、男の方も皆がっしりとしている。

 子供達も元気いっぱいにかけっこをしてはしゃいでいた。

 そして何より、不安一色だったみんなの顔色は明るく安堵に満ちていた。


「何があったんだ?」


 すぐさま横にいるダイヤに尋ねた。


「クロム様の魔力と彼らのと混ざった結果、新たに生まれた魔力に耐え切れるように身体的に進化したのよ。今のエルフ達の種族はクロムエルフと言った感じね」

「マジかよ」

「マジ」

「マジのマジ?」

「マジもマジ。大マジよ」


 ダイヤとそんなやり取りをしながら、俺は再度周りのエルフ達を眺める。

 たった一日でここまで変化するのか。

 この変化がクロム様のおかげだとしたら、クロム様って本当にすげえ奴なんだなと俺は改めて思った。

 本当に何故負けたのかが気になってしまう。

 てか逆に勇者はどうやって勝ったんだ?


「どうかしたの?」

「いや、何でもない」


 誤魔化すようにそう言うと、目の前のエルフ達がいきなり道を開けるように捌け、その奥からガーベラがこちらに向かってやって来た。


「それではクロム様、そろそろお時間が」

「ああそうだったな」


 お時間というのは集会の事。

 前は印を結んだ後にがダウンして中途半端に終わってしまったが、目が覚め体力も魔力も準備オッケーになった今だからこそ、エルフ達を集めて話したい事がある。

 それは今後の村の方針についてだ。


 いつか来るであろう敵勢力にどう対処するのか、そして村をどう発展させていくのか。

 それが今、この集会によって議論される。

 もっとも、俺は側で聞いてるだけだけどね。


「それでは、今回皆さんに集まって頂いた理由を説明します」


 俺が印を結んだ時同様、ちょっとした高台に上がってスラスラと話を進めるダイヤ。

 何故ダイヤが仕切っているのか。

 理由は簡単。

 みんなは、高校中退のニート歴十五年の男が先頭立って村を発展させていけると思うか?

 つまりそゆこと。以上。


「以上が今回皆さんに集まって頂いた理由です。それでは議題を村の発展として、何か意見のある方はいますか?」

「はい!」

「どうぞ」


 元気良く手を上げてダイヤに指名されたのは、ボインボインの若い美女だ。

 まあエルフはみんな顔立ちがいいから、美男美女ばかりなんだがな。


 と危ない危ない。

 俺はゆっくりとアップしようとするナニを抑えながら、彼女の話に耳を傾けた。


「初めましてダイヤ様、そしてクロム様。私はカトレアと言います。以後お見知り置きを」


 ワンピースのような服を着ているカトレアは、裾を掴んでゆっくりと頭を下げた。


「クロム様にお尋ねしたいのですが、貴方様の思うこの村の発展にはまず何が必要だと思いますか?」


 おっと早速ピンチ! ってついさっきまでの俺ならなっていたところだが、質疑応答に関してはダイヤと色々話し合っていたからな。

 そのぐらいの質問なんかどうて事ない。


「俺が思っているのは、まず最初は技術面の強化かな。服とか家とかその他ライフラインとか、そこら辺をしっかりとしたものにしたいと考えてる。それに生活面だけでなく、戦闘面の技術が成長すれば、敵勢力が来ても取り敢えずの被害は抑えるからな」


 敵勢力という言葉にみんなの表情強張ったのを俺は見逃さなかった。


「もっとも、被害を抑えるのは俺の役目だがな。みんなに指一本触れさせないし、この村が壊されたりなんかも一切ない。って少し話は逸れてしまったが、こんな感じでいいかカトレア?」

「はい」


 みんなの表情が和らぎ、カトレアも満面の笑みで返事をしてくれた。

 よかった。何とか乗り切れたようだ。


「それでは他に何か意見は———」



 ◽️◆◽️◆◽️◆



 そんなこんなで議論は終わりを告げた。

 以下議論の結果まとめ。


 一つ、クロム様(俺)の魔法(前世)の知識を使い生活水準向上を目指す。


 二つ、クロム様主体の戦闘、ダイヤ主体の技術、学問面の教室を開く。


 三つ、他の村や国と関係を築き、互いの技術をシャアし合う。


 取り敢えずこんな感じになった。

 思う所は色々ある。

 とくに二つ目の戦闘教室が気になるところだが、なんかみんなやる気に満ちていたし俺が折れる形で決定となった。

 まあ俺は教え方とか知らないからそこは工夫するが.........。


「なんだか忙しくなってくるな」

「そうね。面倒くさい事この上ないわ」


 客人用に作られていたそこそこ大きいテントの中で、俺とダイヤはそんな会話を繰り広げていた。


「............何よ。私の顔に何か付いてる?」

「いいや」


 さっきは面倒くさいと言っていたダイヤだが、心なしかその表情には少しの笑みが溢れている。

 五百年も一人で城に籠っていたから、外に出て、そして頼られて嬉しいのかもしれない。

 案外可愛らしいじゃないか。


「さっ気を引き締めていくか」


 バチンと自身の頬を叩いて気合を入れる。

 ニート時代の俺じゃあ信じられない事が起きているのだ。

 生半可な覚悟じゃあ中途半端に終わってしまうだろう。

 それだけは絶対に駄目だ。


「やるならとことん最後まで、だな」

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