第七話 エルフの村と印結び
「エルフの村?」
「そうよ。あの村なら貴方の望む武力になると思うわ」
そう言いながら、ダイヤは目の前の草を払い除ける。
「まあ仲良く出来たら嬉しいや」
俺達は今、城を出てすぐの森を東に進んでいる。
何でも、人口数百人程のエルフの村があるらしい。
エルフと聞いてかなりエロい妄想をした俺だが、勿論そんな理由で村を目指している訳じゃない。
現在の俺の目標、村作りの為である。
「それにしても案外静かなんだな」
「何が?」
「森だよ。魔界って言うぐらいだから、そこら中に魔物とかいるもんだと思ってた」
「たしかに、言われてみればそうね。静かだわ」
立ち止まり、辺りに耳を傾けるダイヤ。
「まあ貴方の存在のせいね」
なるほどな。
あんなビームを放った奴が近くを歩いていたら、目を付けられないよう静かになるのも納得がいく。
みんなをビビらせてしまっているって訳だ。
申し訳ない気持ちはするが、厄介事に巻き込まれないしよしとしよう。
「そろそろよ」
ダイヤがそう言ったタイミングで、数人の話し声が耳に入った。
顔を上げると、細い灰色の煙が立ち昇っているのが分かる。
エルフの村はもうすぐそこのようだ。
「身嗜みとか大丈夫そうか?」
「何を心配しているの。貴方は魔王よ」
「それもそうだけど............」
「それに見た目はクロム様なんだから、
「へいへい」
見た目のところを強調する辺り、ダイヤはまだ俺の事を認めていないらしい。
まあ人はいきなり変われないしな。
ゆっくりとクロム様らしくして、ダイヤにも認めて貰えるようになろう。
ではでは。
準備は大丈夫だしそろそろ行くかと、草むらを抜けてエルフの村の前まで来た時だ。
まず目に入ったのは、ボロ布を身に付けた弱々しいエルフ達の大量の視線。
そして次に、エルフ達全員が気絶してぶっ倒れるという、何ともホラーな光景だった。
◽️◆◽️◆◽️◆
「えっと、何この状況」
村で一番大きな場所に案内された俺は、木で雑に作られた大きな椅子に座り、両側を女性のエルフ二人に挟まれている。
しかもこの二人かなり大きい.........。
当たっている。
何とは言わんが柔らかくハリのあるぉパァイが当たっている。
凄い凄いぞこの状況。
前世の妄想が現実になっている。
そして俺は勃っている。
あとダイヤお前は露骨に引くな。
俺は仕方なくこの状況に従っているだけだ。
望んでなった訳じゃない。
「あの〜クロム様。お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いや大丈夫だ。話を始めよう」
俺はナニが勃っているのを隠すように前屈みになって話を始めた。
「まず俺とダイヤがここに来た理由についてだが、ここを俺の領地の拠点としたいと思ってな。その頼みに来たんだ」
「そ.........そうですか」
ビクビクと怯え、ゆっくりと言葉を選びながら発言する村長。
別に虐殺に来た訳じゃないから、そんなに怯えなくていいのだが。
「駄目か?」
「そんな滅相もないことでございます。ただ............」
「ただ?」
「我々のような貧弱なエルフが数百人、貴方様の力になれるとは到底思えません。それにクロム様はたしかクロノワ王国が———」
「それはもう滅びました」
ピシッと言い切るダイヤだが、もうちょい優しく言ってあげて欲しい。
ほら見てみろ周りのエルフ達を。
村長はただでさえヨボヨボなのに、失言したと思ったのか震度七ぐらいの揺れを起こしている。
もう死ぬぞあの人。
それに両側のエルフさんの震えも凄い。
胸の先が強さ強の電マぐらい震えている。
腕が気持ち良過ぎて擦ってもないのに出ちゃいそうだ。
そしてダイヤ、その目はやめろ。
俺は何一つ悪くないぞ。
お前のせいだからな。
「まあそんな訳で新しい国を作ろうと思ってまずは村からって訳だ。あっ、戦いとか気にしなくていいぞ。サポートとかしてくれるだけでいいから、どっかの知らん国が攻めてきてもお前らは俺が全力で守る」
「それは............」
「無理矢理従う必要もないよ」
「いえ引き受けさせて頂きます」
「いいのか!」
よしゃー!
これで村作りの第一歩が踏み出せた。
かなり順調な滑り出しだぞ。
「それでは、印を結びましょう」
「ダイヤ何それ?」
尋ねると、そんな事も知らないのかと呆れられた。
いいだろ別に。
この世界に来たばかりなんだし。
◽️◆◽️◆◽️◆
印とは、民と王の絆みたい物で、それを結ぶ事でエルフの村は正式に俺の領地となるらしい。
そんなダイヤの解説を挟んで、俺はエルフの村の中心部へと移動した。
ちょっとした高台に登って、集められたエルフ達を眺める。
「みんな! 今日からこの村は俺の領地となる。不束者だがよろしく頼むぞ!」
声を張り上げ、みんなをビビらせないように口調は明るくする。
しかし、それでもみんなの顔色は不安の一色だ。
まあいきなり話進みすぎだもんな。
不安な気持ちも分からなくない。
「みんなにはオレのサポートを頼む。そして変な奴が来たら俺を頼ってくれ。この村には一切手出しさせない」
そう言うと少しみんなの顔色が明るくなる。
「それじゃあもう一度言うが、みんなよろしくな」
そうして俺はみんなに向けて右手を伸ばした。
印の結び方。
それは印を結ぶ対象の頭に手を置いて、自身の魔力の片鱗を流す。
そうすると流した者の魔力と俺の魔力が混ざり合い、印として体に残る。
それが俺との関係の証明となるとダイヤが教えてくれた。
本来なら一人一人を相手にやらないとだが、一々一人づつやるのは面倒くさかったのでみんなが集まっているこの場所でパーと魔力を撒き散らかした。
けどそれが失敗だった。
突然体が重くなり、ぐらっと倒れそうになる。
俺はこの感じを本で読んだ事がある。
もしかしてだが、魔力のキャパを超えたのか?
視界が軽く暗くなる。
「やっと死期が来たのかしら」
俺の最後の光景は、ニヤリと笑みを浮かべるダイヤがこちらを見ているシーンだった。
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