第五話 一方その頃的なやつ

 これは、ニートがクロム様として《死を望む火の光ザ・ニュークリア》を放った時の話だ。

 世界中の朝空に、太陽と共に現れた淡い紫色の光。

 それを綺麗、美しい、神秘的と思う人や、そもそも寝ていて気付いていない人。

 朝から眩しいなクソと思う人。

 そして中には———



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「こっ......こここ......国王様!! 大変な事態でございます!!」


 カゴク王国城内。

 朝方から、王の寝室の扉が勢いよく開いた。


「むっ、なんじゃ」

「アッ.......王様........そこぉ」


 王がまた見知らぬ女性とギシアンしているのにも関わらず、そんな事すら眼中に入っていないカゴク王国の防衛大臣。

 彼は王が視界に入ると早口で捲し立てた。


「やっ.....ややや奴が! 奴が!」

「奴だと?」

「そうです奴です! あの魔王クロム=クロシュバルツが復活しました!!」

「何!?」


 王は先程まで抱いていた女性をベッド上へ投げ飛ばす。

 普段の王ならもうちょっと優しく扱っているが、今はそんな事に頭を使っている暇はない。

 王はずっと、防衛大臣であるマモッタールの言葉を頭の中で繰り返していた。


「奴が復活したと?」

「はい! 間違いございません」


 たしかに魔王クロム=クロシュバルツが近々復活するという噂はあった。

 でも、その噂が広まってから実には経っている。

 それは最早噂ではなく伝承、御伽話の域だ。


「とにかく各大臣を謁見の間に呼んだ後にギルド上層部への連絡。そして———」

「そして?」

「勇者も呼べ」



 ◽️◆◽️◆◽️◆



「おかえりなさいませ、クリスタル御坊ちゃま」

「ただいまコスモス」


 今日も今日とてゴミみたいな人生だったと呟くクリスタル。

 彼は勇者だ。

 今日も勇者としてとある国に派遣された。

 ギルドの冒険者達では倒せない魔物をクリスタルが退治する。

 報酬も悪くない。


 なら何故ゴミなのか。

 それは勇者が生まれるシステムにある。


 孤児を国の研究所に集めて、ひたすらに魔力を体内に流し込む。

 体が耐えきれなくなり、内側から爆ぜるようにして何人もの孤児が亡くなっていく。

 そして稀にそれに耐え、常人とは比べ物にならない力を獲る者が勇者として国に使われる。


 クリスタルは自身の古傷を撫でながら自室へと篭った。


「僕、何で生きてるんだろ」


 現在のクリスタルの歳は十五。

 本来なら、想い人との色恋にうつつを抜かしたり、学校で勉強に励んだり。


 クリスタルは鏡の前に立ち、自身の理想の姿と現実を重ねていた。

 右の頬にある大きな切り傷や身体中にある白い肌には似合わない火傷のような痕。

 何よりこの鎧を着た姿。

 全てが理想とは程遠かった。


 死にたい。


 勇者は国に逆らえない。

 逆らうと死を望む程の痛みが体に走る魔法が刻まれている。

 そして勇者は不死なのだ。

 死にたくても死なない。


 もうクリスタルの心は折れていた。

 とっくのとうに。ずっと昔に。


「会いたいよ...........クロム」


 ポツリとそう溢した時だった。


「クリスタル御坊ちゃま、少しいいですか?」


 コスモスにより扉が叩かれた。


「いいよ。要件は手短に」

「はい。王様から連絡が入り———」


 ここだけでクリスタルの心は曇り空だ。

 しかし、コスモスが放った次の一言で心の中の雲が晴れ、頭の中は彼でいっぱいになった。


「奴が、魔王クロム=クロシュバルツが復活しました」

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