第四話 復活した魔王と落ちこぼれ魔王 その4

「クロ——じゃなかった。なんであんたがここに居るの? 目障り」

「いや俺助けたんだが!?」

「だから何? その程度の事で威張らないで頂戴。貴方は誰のおかげでここにいるのかしら?」


 それを言われてしまうとぐうの音も出ない。


「とにかく、私に助けは無用よ」

「いいから無理すんな」


 ここは俺に任せろと伝えて、俺は目の前へ向き直った。

 目の前に居るのはトラウマの塊。

 見れば見るほどあいつらに似ている。


「足震えてるじゃない」

「武者震いだ」


 なんてダイヤに言うが、内心じゃ心臓バクバクだ。

 頭の中ではさっきからずっと、あの虐めの光景が流れている。

 服を無理矢理脱がされ、殴られ蹴られる。

 痛い、苦しい、なんで俺がこんな目に。


 だがそれは過去のこと。

 今の俺は変わったのだ。

 もう逃げないし、言い訳はない。 

 やるんだ。今ここで。


「おい........なんでお前が居るんだよ。死んだだろお前」


 突如として語気強める金髪。


「まさかな.........五百年掛けてあの魔法が成功したって言うのか?」


 五百年だと?

 どういう事だ?


「ダイヤ答えろよ! 落ちこぼれの腐れ阿婆擦れが!」


 金髪がそう叫んだ瞬間に途轍もない怒りを覚えた。

 そして俺の中で全てが繋がる音が聞こえる。


 ダイヤは五百年掛けてあの魔法を発動させた。

 何故そこまでしたのかは明白。

 それ程までに、ダイヤの中のクロム様という存在は大きなものだったのだ。

 魔法が成功した時のダイヤの喜びは計り知れない。

 そして、それが俺だった時の絶望もまた等しく計り知れない。


「.......れよ」

「落ちこぼれの雌ぶ——」

「黙れよクソ野郎! それ以上ダイヤを侮辱するな!」


 ダイヤの気持ちはダイヤにしか分からない。

 だからって無視する訳にもいかない。

 俺はダイヤの気持ち寄り添う。

 出来る限りの全てをする。


 きっとクロム様も同じ事を思ったのかもしれない。

 ダイヤの為に出来る限りを尽くしたのかもしれない。

 俺も今から同じ事をする。

 ニートなりに考えて、ニートなり頑張って生きていく。

 ダイヤの為に魔王として。


「お前に彼女を侮辱する権利はない。そしてそれ以上は、俺がとしてお前を許さない」

「うっ........うるせえ!!」


 ブツブツと何かを唱え出した金髪。

 魔法を撃つつもりなんだろう。

 対抗したいが俺は魔法の撃ち方を知らない。

 じゃあただ突っ立って攻撃を受けるのか?

 

 いや違う。

 何故かは知らないが負ける気がしない。

 魔王として負けるわけがない。


『よく言った!!』

「へ?」


《アルティメットユニークスキル 魔王クロム=クロシュバルツ発動


 固有能力 無限上昇インフィニティを自動使用


 敵ステータスを確認し自身のステータスがその十倍に上昇


 固有能力 無限上昇インフィニティ模倣コピーを自動使用


 敵の発動魔法を確認しその三段階上の魔法を発動》


「死ね、超炎スーパーファイヤー!!」


 当たれば即死。

 そう思わせる程の炎の塊が目の前まで迫って来たいるのに、俺は全く気にならなかった。

 俺の脳内は、先程の声と頭に流れたあのチート級の能力たちでいっぱいだ。

 

死を望む火の光ザ・ニュークリア


 突如、俺とあの金髪の間に紫に光る魔法陣が出現する。

 なんだ? と思った矢先に超高熱のビームが金髪を襲った。

 

「あがぁぁああ」


 奴の断末魔が耳に入る。

 それでも、ビームは止まる事をなかった。



◽️◆◽️◆◽️◆



 一分弱程経ってようやくビームが止まり、俺は目の前の変わり様に驚愕した。

 俺の足元より数歩先からは何もなく、ドロドロと溶けていたり、最早存在すらない。

 金髪の死体も見当たらない。

 

 そして外の世界も酷い事になっていた。

 壁を貫通したあのビームは、目の前にある全ての物を手当たり次第に消して行ったようだ。

 視界の先にある山は一部がなくなり、頂上が三日月上に変化している。


「クロム様強すぎないか?」


 こんな魔法を使えるのに負けたクロム様。

 取り敢えず、勇者はこれを超える化け物というのが分かった。


「まあ一件落着って事で」


 そうして後ろを振り向く。

 するとダイヤの寝顔が目に入った。


「クロム.........さま」


 彼女からすれば、今日は色々とあり過ぎた。

 五百年掛けた魔法が成功して、その結果が俺で、突然金髪に襲われて。

 本当に大変な思いを五百年も前からしていたのだ。


 勝手な想像だが、あの玉座の場所が綺麗だったのは、クロム様が帰ってきた時の為なんじゃないだろうか。

 

「一人で五百年。お前本当にすげえよ」


 俺はゆっくりとダイヤの横に座り込み、あの三日月の山を眺めた。

 見れば見るほど思うが、やっぱりあれはやり過ぎたな。

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