第三話 復活した魔王と落ちこぼれ魔王 その3
私が怒りに身を任せて城内を歩きまわっていた時だ。
突如真横から響く爆発音。
急いで顔を向けると、そこには嫌いな奴の顔があった。
「ザハド.........」
「あれ? いきなりダイヤちゃんに会えたじゃん。ラッキー」
相変わらず似合っていない金色の髪を靡かせて、深い黒色の翼を動かす目の前キモい奴。
覚えたくもないそいつの名はザハドと言い、魔王ユノンが統べるユノン帝国に住んでいる。
魔王ユノンはクロム様と仲が悪く、クロム様が亡くなってからは、ここクロノワ王国に何度も攻めに来ていた。
そのせいでここは荒れ果ててしまった。
だから私はこいつらが大嫌いだ。
「また来たのか。今度こそ殺すぞ」
「ひゃー怖いねダイヤちゃん。そろそろ僕の嫁になろうよ! ほら首輪持ってきたからさ」
「二度と喋るな」
ただでさえイライラしていたのに、さらにイライラする要因が増えた事に私の脳がパンクしかける。
「怒った顔もエッチだよ」
「死ね」
両手で巨大な焔の塊を作り、ザハドに向かって投げる。
「おいおい、当たらないって知ってるだろ? 落ちこぼれ魔王さん」
「五月蝿い!!」
そうだ。
私は高潔な魔王族なのに、昔から魔法の扱いが下手くそ。
だから詠唱を必要としないこんな簡単な魔法しか使えない。
それでも、こんな誰もが落ちこぼれと指をさして笑う私をクロム様は決して見捨てなかった。
ずっと、俺よりすごい魔王になると励ましてくれて、私を鍛え、育ててくれた。
それはクロム様が亡くなる瞬間までも。
クロム様は私を庇い、最後まで私の心配をしてくれていた。
私はクロム様が大好きだ。心から愛している。
だから禁忌の魔法を使った。
城や国は守れなかったけど、彼が大切にしていたあの玉座のある場所だけは守り抜いた。
そこまで頑張っても、現実は無慈悲だったのだ。
「流石に熱いよダイヤちゃん」
「じゃあ帰ってくれる?」
「嫌だね」
ザハドが翼を広げて飛び上がり、何やらブツブツと詠唱を唱え出す。
「黒く醜い炎の貴方よ。我に力を貸し、かの者に醜さを分け与えたまえ。
「私が死んでもいいの?」
「丸焦げになるだけ、そしたら治癒魔法で治せばいい」
肌を焼くような熱さの塊が目の前までやって来る。
本来の私なら避ける事は造作もない。
でも今は難しい。
なんせ禁忌を発動させて、それから何発か焔の魔法を撃っている。
体中がダルい。
「それじゃあ、ちょっと燃やすねダイヤちゃん。まあダイヤちゃんが結婚してくれるなら焦げても治してあげるよ」
取り敢えず私の死は確定した。
恐怖はない。
なんせ死ねば、クロム様と同じ所に行ける。
これでもう寂しい思いはしなくて———
「うぉおおおお!!」
突然、そんな大声が私とザハドの間から聞こえた。
声の主は、今の私がストレスを抱え始めた原因。
クロム様の見た目をしたカス野郎だ。
◽️◆◽️◆◽️◆
ダイヤが城に入ってきた奴と交戦を始め、俺も行こうと足を動かした。
でも動かなかった。
理由は分かる。
怖いんだ、勇気がないんだ。
怖い要因。
それは相手が金髪だという事。
俺を虐めていた奴らの中に何人か金髪がいたから、完全にトラウマ化している。
昔を思い出してしまうのだ。
惨めな俺を、何も出来なかった勇気のない俺を。
変わりたくても、言い訳ばかりして変わる事すら恐怖したクソみたいな人生を。
「動けよ.........今こそ動けよ」
それでも、意識する度に足はどんどんと重くなる。
「最低過ぎるだろ.........」
そんな事、とうの昔に分かりきっている。
分かっているのに———
「落ちこぼれ魔王さん」
金髪の奴がダイヤに向かってそう言った声が聞こえた。
でも何故か、今の俺に言われてる気がしてならなかった。
「魔王クロム」
それが今の俺。
どんなにゴミカスでも、今の俺は魔王なんだと思うと、不思議と力が湧いて来るのを感じる。
そうだ。
今の俺は見た目だけだが変われているじゃないか。
俺はニートで魔王。
魔王クロム=クロシュバルツだ。
「うぉおおおお!! 熱いぃぃいい!」
なんだか不思議だ。
とてもテクノブレイクで死んだ奴とは思えない。
クズでカスで意気地なしな俺だけど、今は後ろに居る女の子の為に、根っこから変わってやろうじゃないか。
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19時にもう一話投稿します。
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