第一章 ニートが魔王になったので.........
第一話 復活した魔王と落ちこぼれ魔王 その1
取り敢えず、脳内に二通りの考えを思い浮かべた。
まず一つ目は、俺が眠ってしまい夢を見ているというもの。
この場合だと、かなりキモい格好で寝てしまったという事になる。
そして二つ目、俺が気絶して幻覚を———っと一つ目とそんなに変わらないか。
とにかく、俺が西洋風の豪華な装飾のある部屋の中で玉座に座っており、目の前に甲冑姿の金髪ボブ美女がいるという今の状況は夢って事だな。
意識がある夢、つまりは明晰夢。
よし。
ちょっと、いやかなりエッチな事をしても、犯罪にはならないわけだ。
それじゃあちょいと失礼失礼。
まずはその堅苦しい甲冑を外してやるとしよう。
「クロム様、お身体は大丈夫ですか?」
彼女はまじまじと俺の体を見ながら、心配そうに声を掛けた。
「もちろん大丈夫。俺は何発やろうが平気な体質なんだ」
「そう......ですか」
おっと、今一凄さが伝わっていないようだ。
まあ女の子相手なら仕方がないか。
さてとそれではその甲冑を———
「クロム様、蘇って下さり感謝します」
「うん?」
彼女はいきなり膝を付いて、俺に向かって頭を下げる。
ほう。奴隷とご主人様的なプレイか。
俺はMだが、中々悪くないチョイスだ。
「それでは、あの勇者たちに復讐をしましょう。この恨みあのカス共に死を持って償わせてやる」
ゆっくりと顔を上げると、突如として口の悪くなる金髪ボブ美女。
なんだなんだ罵倒系か?
俺は根っからのMだから、最高のチョイスだ。
「早速行きましょうクロムさ——」
「ってちょいと待て」
俺は踵を返そうとする彼女の肩に手を置いて引き止める。
そして先程から思っていた事を口にした。
「クロム様って誰? そしてここ何処?」
久しぶりに人と話す為声が出るか心配だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
まあ今はそこじゃない。
「あんた誰!」
俺の精一杯の大声が、辺りに木霊したのだった。
◽️◆◽️◆◽️◆
クロム=クロシュバルツ。
それがクロム様の本名で、どうやら俺の事らしい。
ダイヤこと、あの金髪ボブ美女曰く、クロム様は魔界を統べる魔王の内の一人でとにかく強いらしい。
ちなみに魔王は俺含め三人。
数ある魔族の中でもトップの魔王族として生まれ、若くして魔王として君臨。
強さを追い求め、世界を滅ぼそうとした矢先に、勇者一行に敗れて死亡。
愛するクロム様を甦らそうと、禁忌である死者蘇生の魔法を発動させるダイヤ。
魔法は上手く成功。
ゆっくりと玉座で目覚めるクロム様。
そして———
「俺が生まれたってわけか」
「死ねえー!!」
話を終えた直後、ダイヤが俺目掛けて巨大な焔の塊を放った。
いやおいおい。
たしかに俺はMだから嬉しいが、この体は愛するクロム様の筈だろ?
手加減のない奴だ。
「熱いて」
「黙れ」
何故俺がクロム様の体なのか。
理由は一つ、偶々で偶然だ。
クロム様が死んだタイミングで、俺も死んだ。
あの状況から考えるにテクノブレイクといったところ。
迷える俺の魂が偶然ダイヤの死者蘇生の魔法に反応して、クロム様の魂の代わりに体に入ったってわけ。
つまり俺は、魔王として異世界に転生したのだ。
「おいお前。いい加減その体から出ろ」
「いや方法が分からないんだって」
「そうか。じゃあ死ね」
再度放たれる焔の塊を逃げ惑いながら躱す。
全く、何故こんな理不尽な目に遭っているのだろうか。
だってクロム様って、世界を滅ぼそうとして亡くなったんだろ?
他者の命を奪おうとしてやられたなら自業自得じゃないか。
銃を撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけ。
命を奪えるのは、逆に自分がやられるかもという覚悟がある奴だけだ。
クロム様の死はしゃーなしで済む話で、俺がクロム様の中にいるのもまた同じ。
それなのに、気が済まない奴が目の前にいる。
「ダイヤ止めてくれ!」
「気安く私の名を呼ぶな!」
「じゃあ金髪貧乳ボブ美女!!」
「貧乳じゃない! そして名前で呼べ!!」
「面倒くさっ」
「死ね!!」
彼女はチクチク言葉というのを幼い頃に教えて貰っていないのか?
口から出るのは悪口ばかり。
これじゃあせっかくの美人が台無しだ。
「落ち着いてくれ!」
「落ち着いてられるか!」
数分経ってやっとダイヤの攻撃が止まった。
ダイヤはかなり息を切らしており、それは俺——も?
あれ? あんだけ動いたのに、息切れは起こしてないし、汗も一つもかいていない。
心臓に手をやるが鼓動もそのまま。
十五年もニートをやってた俺には、勿論の如くそんな体力はない。
まさかとは思うが、これもクロム様の体だからなのか?
すげえな魔王様。
「まあいい。取り敢えず勇者一行を殺しに行くぞ。さっさと着いて来いこのカス」
っておいおい。
中身は俺でも見た目は愛しのクロム様だろ。
よくそんな悪口言えるな。
「どうした早く来い」
「普通行かんでしょ」
「は?」
俺が刃向かうと、途轍もない形相で圧を掛けてくるダイヤ。
「俺はよっぽどじゃない限り人を殺したくない」
「何を甘ったれた事を」
ダイヤにはそう呆れられるが、甘ったれた事だとしてもだ。
復讐は何も生まない。
仮に俺が勇者一行を殺したとして、その数年後には勇者遠殺した恨み! って顔も知らん奴に襲われるのだろう。
そして俺が死んだら、また誰かがその恨みで誰かを殺す。
それが続くというなんとも醜い連鎖。
これだけは止めるべきだ。
じゃあどうすればいいのか。
答えは一つ。
この世界に来たばかりで、右も左も人の恨み辛みも分からない俺が止める。
なんせ復讐の渦中にいるのだから。
「綺麗事ね。気持ち悪い」
ポツリと吐き捨てたダイヤは、そのまま何処かへと行ってしまった。
勇者一行を殺しに行ったのか、はたまた別の用事か。
「.........いや置いてくなよ」
よく分からん場所に一人残された俺。
先程まで争っていたせいか、辺りは黒焦げ。
せっかく異世界に来たと言うのに、かなり酷い仕打ちだ。
理不尽に殺されかけ、結局この世界について教えて貰っていない。
「どうしよう」
この場合、前世の知識で無双! とかするのだろうが、生憎俺は高校中退ニートだ。
最低限の知識以外何もない。というか最低限すら怪しい。
それでもそんな俺が今だからこそできる事。
最高な事にこの世界にはあのカス共はいない。
「勉強頑張るか」
取り敢えず、本の一つでも見つけるとしよう。
高校時代のやり直しだ。
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