第2話『スラム街の悪ガキ、GUARDに入隊する』①

100年前に、いやもしかしたらずっと前から蓋界がいかいはこの世界を狙っていたのかもしれない。

 その辺りは定かじゃないんだけど、取り敢えず確かに言えるのは直接攻めて来たのは100年前だと言う事。それは一般の人にも公開されている情報で、当時の人口半分が拉致されたのは本当だよ。


 その後、対策を講じたのが後に四大名家の家名の元となった魔鍵師ウォーロックスミス。私たちは始まりの4人って呼んでいる。

 ベルカラント。ミストラム。ミリアドネード。クレアスベイン。そう、私の家の名前と同じだね。別に血が繋がっている訳じゃなくて、私たちのご先祖様達が彼らの名前を引き継いでいるんだ。


 その4人の尽力でこの世界の人たちは辛うじて守られたんだけど──今度は別の問題が起きたんだ。

 今はもう絶滅している人間以外の生物、家畜って呼ばれる存在が根こそぎ殺されたの。ビックリしているね? そうなんだよ。この世界には人間以外の生物が居たんだよ。

 その生物はね、私たちにとって食材だったんだ。歴史書によると使徒はその家畜を真似て造られた可能性があるらしいよ。……気持ち悪い? そうだね。私も同じ気持ち。


 しかもね、今当たり前に吸っている空気も無くなり始めたらしいよ。空気を生み出すための植物っていうのも滅んだらしくて、大気汚染というのが起きた。つまり呼吸ができなくなるって訳ね。

 当たり前に飲める水も凄く汚くて、そのまま飲んだらお腹を壊しちゃうらしくて、とても飲めたモノじゃないって話だよ。

 世界の端にある水は辛くて飲めないしね。……え? 行った事ない? ああ、そうか。これは遠征部隊に選ばれないと行くことないもんね。いや、こっちの話だよ。また今度話すから。ごめんね? 


 それで、何処まで話したっけ。

 ああ、そうそう。食材と空気の話だね。

 私たちが生きる上で必要な物が一気に無くなって、たくさんの人が使徒の襲撃以外で死んじゃうって思われたその時にね、全部解決したのが始まりの4人が一人、ベルカラント様なんだ! 


 ……嬉しそう? うん、そうだね! だって人類を救った英雄と同じ名前を持っているから! 


 話を戻すね? ベルカラント様は【創造】の術式を持っていて、人類に必要な透明な空気と赤と黄色と緑の三食の食材、そして飲める水を作ったんだ! 

 流石に家畜の創造はできなかったみたいだけど、人間が生存していく為の食材をたくさん作ることに成功して今この瞬間もずっと創造しているんだよ? 


 え? 100年前の人間が生きている訳ない? 


 うん。そうだよ。でも死んでもいないんだよ。


 ……そう。ベルカラント様は己の肉体を捨てて術式を半永久的に持続できるようにしてくれたんだ。


 だからねイヴくん──人類の食材って限りがあるんだよ。

 何とか私たちが術式の出力を調整して増やす事ができるけど──あれって美味しくないよね? 人によっては食べられないし、食べたら死んじゃう人も居る。体に合わなくて。

 ご年配の人となると飲み込めなくなるし、子どもだと食べ辛いかもしれない。

 でもベルカラント様ができたのはそこまでだったんだ。


 ……じゃあ、これは何だって? 

 うん。そうだね。こういうのみたいに加工ができれば良いよね。


 所でイヴくん。他人の魔力を飲み込んだ事ある? 

 無い? そっか。

 えっとね、普通他人同士の魔力は受け入れる事ができないの。普通は拒絶反応が起きてダメージを受けてしまう。ゲートが開いていない人はそれが顕著で、でもベルカラント様はそうならない様に創造したの。

 イヴくんも何ともなかったでしょ? 


 じゃあこれカツドンはどうなんだって話なんだけど、ゲートが開いた人間ならベルカラント様の創造食材に干渉して、こういう料理を作って食べる事ができるんだ。

 そしてそれを食べる事ができるのは魔力に耐性ができた人間──つまりゲートを開く事ができた魔鍵師ウォーロックスミスだけなんだ。


 ここまで聞いて分かったよね? 私たちしか食べているんじゃなくて、私たちしか食べられないんだ。

 都の人たちも同様だよ。食事以外は確かに裕福になっているよ。それが戦場に向かう魔鍵師ウォーロックスミスの望みだからね。家族には良い暮らしをして欲しい。そう思っている。

 でもね、食事だけはダメなんだ。ゲートが開いていないのならあの食材しか食べられない。


 実際、美味しい物を食べたいと魔鍵師ウォーロックスミスになりたい人はたくさん居るよ。保護区で暮らすよりも都が良いって考える人がいる。

 逆に食べられない人の事を想ってあえて加工しない人を私は一人知っている。でも私は命がけで戦うのなら、しっかりとしたご飯を食べて欲しいって思っている。


 ……うん。仕方がない事なの。もし配っても魔力当たりを起こして死ぬ可能性があるから。


 それだけじゃないだろうって? 

 まだ肝心の事を話していないって? 


 うん、そうだね。話していなかったね。

 使徒がゲートを狙う理由。それもゲートが開いていない人間も狙う理由を。


 ねぇイヴくん。それを聞くって事は不思議に思ったんだよね? 

 ゲートが開いていない人間を捕縛タイプのミノタウロスとオークの存在。ああ、アレだよ。君が倒した……そうそうソレソレ。

 戦った君なら分かると思うけど、アイツら魔鍵師ウォーロックスミスにとっては弱くて、ゲートが開いていない人間とっては脅威なんだよね。


 つまり、さ。


 蓋界がいかいの奴らはそういう人間をたくさん捕まえる事を前提に動いているんだ。

 誘導装置で蓋門がいもんを壁の中に誘導しているけど、アレが無いと何処を狙うかは……今回の事と3年前の事件で察せるよね? 


 何故? 理由が分からない? 


 だったら魔鍵師ウォーロックスミスが狙われるなら分かる? 


 ……うん。そうだよね。分からないよね。


 うん? 別に勿体ぶっていないよ? ただちょっとだけ……ちょっとだけ、言い辛いんだ。

 私もこの事を知った時は凄くショックだったから。


 えっとね、使徒がゲートを狙うのはゲートを使う為なんだ。


 意味が分からないって顔だね。ユーリちゃんは……知っているよね。

 えっとねイヴくん。ゲートを開くためには鍵が必要っていうのは知っていると思うけど、実はそれ以外の方法を使徒が持っているみたいなんだ。


 使徒はね、開いていないゲートを無理やり開いて魔力を摘出する技術を持っている。その魔力を使って何かをするつもりだと始まりの4人が突き止めて──100年前からずっと狙われ続けているんだ。


 信じられないって顔だね。でもね区ってそういう意味なんだよ。

 ゲートを開いていない人間は使徒にとって格好の餌なんだ。だからなるべく蓋門がいもんから離れた場所にゲートが開いていない人間の為の生活圏を作って、なるべく多く配給して生きてもらう様にしていたんだ。


 イヴくん。


 今の話を聞いて君はどう思う? 

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