第10話『スラム街の悪ガキ、最強と出会う』②
【小僧、小娘。奴の術式の正体が分かったぞ】
「マジか」
「流石です」
【良いか? 奴の術式は間接的にしか爆発させる代物だ】
「かん、せつ?」
【……良いか? 要するに】
オーガの爆発の術式には一定の法則があった。一見別物に見えた近距離と遠距離の爆破に間に何かしらのモノを通して対象を爆発させていた。
地面を爆発させる時は必ず鉄の棍棒で叩きつけ、遠距離の時には魔力振動を挟んで家屋を破壊していた。
【そして何より
術式を使う際には魔力が必要だ。しかし鉄の棍棒には魔力が通されていなかった。アレは武器以上に対象を爆発させる為の導火線としての役割を担っていた。
そして何よりイヴは直接殴られた為爆発せずに済んだ。さらにその時イヴは魔力を身に纏っていたので相手の魔力を間接物としてカウントできない事も分かった。
「つまり、アイツを倒すには――」
【喜べ小僧。貴様の得意分野だ】
「どうやらそうみてぇだな」
ニヤリと笑ってイヴは魔力を滾らせる。
遠距離爆破は魔王の指示で回避可能だ。
「さて、さっさと終わらせるぞ!」
「承知しました。今度は私も前に出ます。イーヴァルディ、指示を」
【安心して突っ込むが良い。この魔王が導いてくれる】
「「――応!」」
魔王の言葉に二人は揃って応えて駆け出した。
オーガは身の危険を感じたのだろう。必死に空気を殴り付けて爆発させようとしてくる。
しかし、カラクリの分かった手品程退屈な物はない。
【小娘、地面を斬り抜け! 小僧、その地面を殴り飛ばせ!】
「なるほどーー」
「それなら簡単だな!」
二人は魔王の指示に従い、地面を斬り抜いて、それを砲弾の様に発射させる。
すると彼らの前方で爆発が起き、粉塵が舞い、二人はその中を突き進んでさらに接近する。
『グ、グオオオ!!』
焦ったオーガは愚直に拳を突き出しーー。
「そら、くれてやるよ!」
イヴの投げた石が拳に触れる寸前に爆発を起こした。
オーガは閃光と爆発に怯み『グギャ!?』と悲鳴を上げた。
それが致命的な隙だと気付くのはーー彼らが懐に入り込んでいた時であった。
『――グオ』
「ようやく、この拳が届くぜ!」
「そして、私の剣も!」
『――グ……オオオオ!!』
感じる魔力は圧倒的に格下。術式すら獲得していない
怒りが爆発し、雄叫びを上げて鉄の棍棒を二人に向けて横から薙ぎ払った。
「――ウラァ!」
「――無駄です」
しかしイヴが鋭い拳で鉄の棍棒を弾いて止めて、ユーリの剣が半ばから斬り裂いた。
爆発は起きない。それよりも早く二人の攻撃が鉄の棍棒を打ち、裂いたからだ。
ならば、空気を殴って爆発を。
拳を握り締めて術式を発動させようとしたオーガはーーしかし、その拳を振り上げる前に地面に落ちていくのを視界で捉えた。
「もう爆破はさせません」
右手に持つ剣とは反対に、ユーリの左腕には魔力で作られた刃が生成されていた。彼女はそれを引っ込めると剣に魔力の刃を重ねる様にして研ぎ澄ます。
「ダメ押しだ。しっかりと喰らいな」
そしてイヴもまた拳をしっかりと握り締めて殺意を目の前の鬼に叩き込む。
『グ、グオオオ!!』
オーガは破れかぶれに反撃をしようとし――次の瞬間、拳と剣によるラッシュが全てを破壊する。
「ウララララララララララ!!!!」
「セイ、ハァァァァァアア!!!!」
減り込む拳が肉をミンチにし、斬り裂く剣は骨を断っていく。
オーガは悲鳴を上げ続け、再生が追い付かずその巨体はどんどん削られていき、そして最後には――
「――魔力、切れです」
「俺もだ」
そう言って二人はその場に座り込んだ。
初見の敵との戦いは思っていた以上に魔力を使っていた様で、彼らは
「そういえばさっきのアレ何だ? 腕から魔力のナイフみたいなのが出て来たけど……」
「あれは【魔力刃】です。
「そっか。魔法ってのは色々とあるんだなぁ」
いきなり隣でナイフを生やしたものだから、内心ギョッとしていたイヴ。
そして恐らく知っていたにも関わらず教えなかった魔王に、軽口のつもりで文句を言おうとしたその時――。
――ゴゴゴゴゴゴゴ!!
「……」
「……」
イブとユーリは二人揃って顔を見合わせて、お互いに勘違いでは無かったことに嫌な顔をした。
またアレと戦わなくてはならないのか? しかも発生地点が彼らが今居る場所を挟むように二ヶ所現れている。
「イヴ!」
「ああ。二手に別れよう。そして――」
「新型の特性を説明し助力を願う――良いんですね」
「……人の命に代えられる程、俺の恨みは重くねぇ!」
二人は
「ありがとうございます――ご武運を!」
「――さっき聞いた!」
イヴはユーリと別れて戦場へと赴いた。
オークやミノタウロス、さらにはキャスパリーグも現れたのか途中破壊された痕があり、特にスラム街の被害は甚大であった。避難誘導が迅速に行われていたのか、人的被害はない。
しかし、この先は分からなくなる。
――うわ、何だあれ!
――上見てみろ! なんかやべぇぞ!
――逃げろ! どけ、どけよ!
――落ち着いてください! 避難してください!
開いた
そこにさらに送り込まれるのは新型使徒オーガ。天から舞い降りたその数はーー10体。
【――フン。ようやくお出ましか】
「いや多過ぎだろ!? 何悠長に言っているんだ!?」
保有している術式は理解しているが、正直複数体を相手にはしたくないのが本音である。
先ほどユーリと共に倒したのは先行体か何かだったのだろうか?
とにかく状況は最悪と言える。魔力探知を使ってみると、どうやらユーリの元にも同数のオーガが現れているらしい。
正直絶望的――なのだが。
【そうではない。我が言ったのは―ー】
――次の瞬間、彼らの耳に届いたのは音と声だった。
「――術式【木霊】発動」
――ギュイーン!!
響き渡る異音と決して大きくないのにも関わらず届いた声は、現れたオーガ20体全てを斬り刻んで、殴り飛ばして、門を完膚なきまで破壊した。
さらに……。
「――術式魔装【音位転換】」
――キュルキュルギュイイイイイイン!!
掻き鳴らされた音は、
その光景をイヴは茫然と見る事しかできなかった。
「あれって……」
『……術式魔装だ』
「術式……魔装?」
『ああ。
そう言って魔王は魔力探知を使って術者の位置を特定する。
果たしてそこに居たのは――白亜の壁の上であった。戦場から何十キロも離れたその位置から、戦場を見下ろすのは一人の少女。
風に靡くのは背中を隠すほどの赤き長髪。病的なまでに白い肌に異彩を放つのはその避けた頬。右頬は歯茎を露出させ、その少女が本来持っている筈であろう美貌が薄れてしまっている。
しかし少女はそんな事など関心ないとばかりに、遠く離れた地に居るイヴに視線を……正確には耳を傾けていた。
魔響の奇行師 ローリン
保有術式『静寂』『木霊』 術式魔装『音位転換』
「――魔王」
彼女は、GUARD南支部所属の隊員であり――四大最強の一人、
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