第7話『スラム街の悪ガキ、精神的に童◯だとバレる』①
「……ん?」
また知らない
これまでの経験からイヴは不安と恐怖、そしてちょっぴりの好奇心を抱きながらそっと隣を見る。するとそこには膨らんだシーツがあり一つのベッドを二人で使っている事が伺えて、またヤりやがったなあのクソ魔王とイヴは苛立ちを覚える。
これでまたスラム街で「ヤり捨てイヴ」の名が広まるんだろうな、と落ち込む。少し前までキラキラした目を向けていた年下の子どもの目が冷たくなっている事実も思い出しさらに泣いた。
とりあえず隣の女性を追い出した後に、魔王に抗議をしなければならない。今日こそはビシッと言うのだとイヴは心に決めた。
ばさっとシーツを剥いだイヴはなるべく女性の裸体をみないように気を付けようとして──息を呑んだ。
そこにあったのはとても白い、陶器の様に純白な肌。あどけない寝顔にさらさらの茶色の髪。呼吸を忘れて見惚れる程の美少女が──全裸でイヴの隣で寝ていた。
イヴはそっとシーツを掛け直してベッドから脱出し、顔を真っ赤にさせてうるさく自己主張する心臓を落ち着かせようと必死だった。もしかしたらこの音で彼女を起こしてしまうかもしれないから、と。
いや、それよりも、だ。
(忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ)
イヴは網膜に焼き付けられた光景を忘れようと目を閉じて、しかし早々に忘れられそうにない光景に悶え苦しむ。
今まで魔王が抱いていた女性は皆年上だった。20代後半が好みなのか、毎回そういう人間と寝ており……スラム街出身故にお世辞にも身綺麗ではなかった。生きるので必死で仕方のない事である。大人の色気はあったが。
だが、今回の少女は違う。イヴと同年代で汚れを知らなそうな少女。
そんな少女と魔王が自分が寝ている間に致していたと思うと……脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだった。
『……む? 目覚めたか小僧』
「魔王!! お前!!」
『何だ朝から元気だな。よほどスッキリしたと見える』
「スッキリしたのはテメェだろうが……! 今日と言う今日は許さねぇ」
『……なんだ? 今回は随分と気が荒いな』
だいたいイヴが意識を失うと体を勝手に使うため、起き抜けに怒られるのは日常の一部と化しているのだが……それにしては今日は一段とうるさいと魔王は感じる。
「お前があんな綺麗な子に手を出している事に腹が立って仕方がねぇんだよ!」
『……うん? 何の事だ』
「惚けるな……! 隣に俺と同じくらいの女の子がっ」
魔王に対する文句で配慮が欠けたのか、イヴの声はまぁまぁ大きかった。
そうなると何が起きるのかは火を見るよりも明らかで……。
「んん……うるさいですね」
騒音で起こされた少女は眠たそうにしながら起き上がり、すると掛けられたシーツがシュルリと落ちて──振り返ったイヴと目が合った。その裸体を惜しげもなく晒した状態で。
「……き──」
しばらく見つめ合い、そしてお互いの状況を理解したのだろう。我慢の限界が来たのか顔を徐々に真っ赤にさせて……。
「きゃああああああ!?」
恥ずかしさのあまり悲鳴を上げてしまった……イヴが。
『……そこは普通、逆ではないか?』
魔王の呆れた声は誰にも届かなかった。
「すみません。普段から全裸で就寝している為、無意識に衣類を脱ぎ捨ててしまった様です。お見苦しい物を見せてしまいました」
そう言ってペコリとお辞儀をするのは先日助けたユーリ。
魔王が言うには、あの場で撒けないと思ったので連れて来たらしい。魔王は撒くつもり自体無かったようだが。
それとイヴが寝ている間に情報交換も行ったとの事。ちゃっかりしてやがるとイヴは呆れた。自分がGUARDと関わりたくない心情を顧みての事だろう……と。
「改めて自己紹介を。GUARD南支部所属のユーリと申します。以後お見知りおきを」
「……」
丁寧に挨拶をするユーリだが、イヴは顔を逸らして顔を顰めたままだ。
その様子に不思議そうに首を傾げるユーリだったが、彼が起きる前に魔王から聞いた情報から、イヴの反応の理由を察する。
イヴはGUARDに対して不信感を抱いている。故に頑なに自分と接触しない様に逃げ続けていた……と。
そうなると、GUARDの
【おい小娘】
「む。聞いたことのない声ですが、この己に絶対の自信がある口調……イーヴァルディですか。しかし脳内に直接声が聞こえるとは何とも奇々怪々な……」
【念話という。魔力探知と魔力放出の応用技だ。尤も、我以外に扱えた者は居ないが】
「そんな事できたのかお前」
ユーリもイヴも魔王の魔法に何処か達観に似た感情を抱いていた。
「なるほど。それで、わざわざその念話とやらを用いて私にコンタクトを取ったその意味は?」
【いやなに。どうやら勘違いしているようだから訂正しておこうと思ってな】
「というと……?」
【そこの小僧が顔を背けているのは貴様がGUARDだからというよりも、見た目麗しい異性だからだ】
「おま!?」
イヴと融合している魔王は、彼が何を考えているのか、何を感じているのかを把握できている。故に彼がユーリに対して嫌悪感ではなく気恥ずかしさを抱いていたのを知っていたし、それを悟られたくないと思っていたのも知っていた。
なので嬉々としてそれをユーリに教えたのである。魔王酷い。
「それは、その……悪い気はしませんが些か羞恥心が刺激されてしまいますね」
【コイツは童貞だからな。女の扱いを全く心得ておらん。見るに堪えないと思うが容赦してくれ】
「なるほど、委細承知いたしました」
「いやなるほどじゃなくてさ! 魔王! お前、余計な事を言うな!」
【何が余計だ。全て事実ではないか。否定したいのなら礼には礼で返さんか愚か者】
「ぐぬ……」
ピシャリと叱咤を受けて押し黙るイヴ。
魔王の言葉には色々と反論したいところだが、名を名乗られたにも関わらず無視する行為はGUARDに対する不信感を抜きにしても失礼なのは確か。
その事については言い返せなかったイヴは、渋々……というのも失礼なので深呼吸をして己を落ち着かせてからユーリに向き合った。……さっきの事もあり、まだ恥ずかしそうだが。
「……俺は、イヴ。魔王を名乗る変な鍵に寄生されて先日
「はい。その事はイーヴァルディから伺っております」
「そうか……」
「ええ。そして貴方がGUARDにどのような思いを抱いているかも知っております」
「……」
「それを踏まえた上で……どうか感謝の言葉を受け取って頂けませんか?」
彼女の言葉に思わずイヴは「え?」と素っ頓狂な声を出す。
彼の中のGUARDのイメージは、
戦えない者は、弱者は、力のある人間に守られていれば良い、と。
悪意の有る無し関係なく見下しているその目が嫌いだった。
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