第125話 大厄災【八龍の宴】         三龍、大西洋海戦

 100kmを数秒で詰められ、雷龍と僕はぶつかり合う。


 初撃こそ押されたけれど、雷龍も僕が今の一撃を防ぐとは思っていなかったようで、ウサランスを振り上げて雷龍をカチ上げる。


 仰け反った雷龍は、そのまま後退しつつ、雷撃魔法をマシンガンのように放ってきた。


 僕は同じく雷魔法【連槍】を放ち、相殺しながら追う。


 さらに雷魔法【雷砲】を放つ。


 雷龍は翼を閉じ、開くようにして雷魔法を弾き飛ばす。


 そして待ってましたと言わんばかりに、肩のコブからプラズマレーザーを発射してくる。


「撃ち合いなら、負けるもんか!」


 むしろ僕は逃げたら負けだ……というか死ぬ。


 だから、僕は退かない!


「【クリエイト・スキル】【大魔弓はち式・愚地家ぐちゃ】」


 すでに引き絞っていた光の弦を離す。


 光は大蛇を象り、雷龍のプラズマレーザーを飲み込み、その力に応じて首を増やす。


 その数、全部で八首。


 八方から光の大蛇が雷龍を襲う。


 雷速で逃げる雷龍だが、八首大蛇も雷属性だ。

 なにせ雷龍の技を喰ったからね。


 逃げ切れないと悟った雷龍は、プラズマレーザーを全方位照射し、八首大蛇を消し飛ばした。


「ウッソでしょ? ……なーんてな!」


 八首大蛇も強力だが、これで捌式は終わらない。


 八首大蛇が霧散した直後、その力を雷龍の直上に一点集束させる。


 集束した力は、大きな雷柱となる。


 それがハンマーのように打ち下ろされた。


 雷龍は全方位照射の影響か、全く動けずに雷柱ハンマーの直撃を受け、海表面に叩きつけられた。


 僕は文雄に確認する。


「文雄! 状況は!? 見える!?」


『お、おう! カメラは追い付いてる! すげぇ……すげぇよノリィ! 【雷龍】もヤベェが、ノリもヤベェなぁ!』


 ハイテンションの文雄。それアカンやつや!


 …………。


 お? 雷龍が海面にプカプカ浮かんでる?


 倒し……いや、海中から!?


 巨大な水柱が2本立ち昇り、雷龍と僕を飲み込んだ。


「【大魔弓伍式・青龍門〘海〙】」


 僕は即座に伍式を起動する。

 僕の真下に水の弓矢を放つ。

 水の門が現れ、海龍を象ったモノが水柱を下に押し戻す。


 そこから、水龍の首が伸びてきた。


 バクン、と、僕の足のすぐ下で顎を閉じ、水龍は海へと再び潜った。


「あっぶない! 少しでも遅れてたら死ぬとこだった!」


 いやマジで勘弁してくださいよ。


 二龍でコレでしょ?


 三龍は覚醒した僕でも無茶ですって。


 それでも、諦めないけれども!


 向こうの水柱も引いた。


 地龍が雷龍を背に乗せていた。


 淡い緑の光が雷龍を包み込む。


 雷龍はまるで朝の目覚めと言わんばかりに羽を伸ばし、復活した。


 回復持ちかよ……。


『ノリ! さすがにヤベェだろ! 一旦退け! こっちに【勇者の子】全員とベアトリクス閣下も来てっぞ!』


「正直に言う! 退きたい! でもここで退いたら、間違いなく大勢死ぬ! だから退けない!」


『だったら【ゲート】開けやノリィ!』


 …………。出来ない。


 水龍のフィールドである海上で、しかも雷龍の速度に対応できる勇者なんて誰がいる?


 瑠花でもムリだ。


「陸地に誘導する! 水龍のいる海上で【ゲート】は開けない!」


『おいノリテメェ! うわなにをするベアト――ノリ! 言うからにはできるのであろうな!?』


 インカムをベアに奪われたようだ。


「できるできないじゃなく、やるしか――」


 突然、三龍が嘶く。


 雷龍は見えない程に天高く飛び、水龍が僕に背を向け泳ぎ出す。

 地龍は水龍の背に乗り、僕に顔を向けていた。


「……逃げる……訳じゃないのか?」


 進路は南……ちょっと東寄りか?


 キューバに向かっているように見える。


 とてつもない速度だ。


 僕は追う。


『ノリ! どうした!? なぜ三龍は退く!?』


「分からない! でも、何か目的があるようにも見える! キューバとハイチの間を抜けるのか? ジャマイカに向かう……いや、進路がズレている?」


 飛行しながら天空を見上げる。


 雷龍が水龍に指示を出しているのか?


 ええい、分からん!


 この先に何がある?


 陸に上るのか? 海は途切れ――。


「パナマ運河か!?」


 僕は【ゲート】でクロス・ベルの本部へと戻った。


「ノリ!? よくぞ無事だった!」


 ベアに抱き締められる。


 僕もベアの頭を強く抱く。

 でも、それは一瞬だけだ。

 すぐ離す。


「勇者全員、パナマ運河のガトゥン閘門こうもんに行く! そこで水龍と地龍を叩く!」


 僕はパナマ運河に【ゲート】を開く。


 水龍はもう遠くに見えていた。


 でも、一般人が多過ぎる。


「僕は障壁を展開する! みんなで水龍と地龍を叩くんだ! 僕は市民を守る! 【大魔弓ろく式・玄武門〘塊〙】」


 土弓を引き絞り、岩の矢を放つ。


 そこには核すら防ぐ透明な障壁が並んだ。


 核すら防ぐと言っても、核以上の可能性がある三龍にどこまで通じるかだけど……。


 市民の避難誘導をしていたら、複数の爆発音。


 水龍がガトゥン閘門こうもんに突撃した……のか?


 飛行し、確認する。


 勇者全員の攻撃をもろともせず、水龍と地龍はパナマ運河を真っ直ぐに……閘門を破壊し、抉りながら突き進んでいった。

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