第123話 ドラゴンウォッチング
バードウォッチングならぬドラゴンウォッチング。
龍の生態観察なので間違いは無いだろう。
リッヒヴァルド帝国の首都、ギガンティアより北へ飛行し1時間。
ローザ山脈の高い山の中腹に、風龍の巣はあった。
魔法で覗こうとするけれど、消された。
「うーん、報告書の通りかぁ」
そう記載されていた。
対抗魔法とは魔法を打ち消す魔法のことである。
火魔法に対し、水魔法をぶつけることも一種の対抗魔法なので、一概に対抗魔法と言われても実物を見ない限りピンと来ない。
「いや、これガチモンの対抗魔法でしょ……。魔法無力化のスキルでも持ってるのか?」
僕はアイテムボックスから撮影用ドローンとWi-Fi送信機を取り出す。
そしてドローンに気配遮断の闇魔法を使用し、飛ばす。
問題無く巨大な蛇のような風龍を撮影することができた。
広域展開じゃなくて良かった。
山の中腹に穴を開け、ねぐらにしているようだ。
巣の外には牛のような魔物や木の実、果物がたくさん転がっている。
それを風魔法で細切れにし、木材を組み上げた箱のような物に入れ、風魔法で浮かして巣の奥へと運んでいた。
まるで買い物から帰ってきて食材を冷蔵庫に片付ける主婦である。
あ、ハゲワシみたいな魔物が凪龍の食材を狙っている。
凪龍もそれに気付き、風魔法を飛ばすが、ヒョイっと躱されている。
ギャーギャーとカラスのように鳴くハゲワシ。
誰がどう聞いても挑発。
凪龍も怒りのボルテージを上げている。
すると、ヘビの前側3分の1、後側3分の1の部分の皮が捲れて羽のような翼が現れた。
そして羽ばたいたと思ったら、ハゲワシは凪龍の口にいた。
はっや。
まるでハエ。
もし初見だったなら、気付けば僕は腹の中……なんてことも有り得るね。
僕はこの情報を持ち帰ることにした。
滞在時間は1時間も無い。
まぁ取材が足りないと言われたらまた来よう。
首都ギガンティアに戻ると、ちょうど宰相のミュナさんが紙束を抱えて歩いているところが見えたので、皇城のバルコニーに降り立つ。
「ミュナさん、それが例の資料ですか? ……すごい量ですね」
ミュナさんの頭が隠れるくらいの紙束である。
「ちょうど良かったです。これが【金龍】に差し出す資料になります。普段は2年分でこの半分なのですが、どこかの勇者様が八面六臂の大活躍をされるので」
僕は何も返事せず紙束をアイテムボックスへ片付けた。
「本当に【アイテムボックス】と【飛行】の力だけでも帝国では重用させてもらいますよ? 今なら皇帝にお手付きされていない美女100人もお付けしますが?」
なんて勧誘をしてくるのだろうか?
「ウェスタリアで事足りているので大丈夫です……」
こう言うしかない。
「ベアトリクス公だけならまだしも、【勇者の子】達が黙っていないでしょうからね〜。はぁ〜。羨ましい限りです、母君達が」
ウットリした視線を向けられても困りますよ。
「じゃあこのまま【金龍】のところに行ってきますね! ガルム皇帝にもそうお伝えください」
「分かりました。気を付けてくださいませ」
僕はミュナさんに見送られて飛び立った。
リリィ草原は首都ギガンティアより南にある。
僕は高度を上げた。
道中に【闇龍】のいる旧リリィ共和国首都アルストロメリアがあるからだ。
アルストロメリアを飛び越え、そこから十分程度飛行し、地図に記載された草原の洞窟手前に着いた。
光魔法で照らして叫ぶ。
「ごめんくださーい! 【金龍】さんはいらっしゃいますかぁ!?」
僕の声が洞窟の奥に響く。
…………。
んー、反応が無いぞ?
もしや留守か?
どうしよう? ちょっと待つか。
30分経過。
1時間経過。
昼食時経過。
お昼寝もした。目覚めてもまだ帰って来ていない。
というか、目覚めたら僕の周りにワイバーンが数匹眠っていた。
気配遮断の魔法のおかげで気付かれていないのだろう。多分。
僕は洞窟の入口に、箱を用意する。そこに資料を入れておき、貼り紙をする。
『ここに最新の資料を置いておきます。また近々来ます。第十勇者ノリ・ブラックシートより』
思わず観月紀臣と記載してしまったが、ちゃんと斜線を引いて消しておいた。
失礼かな?
まぁ龍相手だし……大丈夫と思いたい。
僕はギガンティア皇城に帰投した。
戻ったら、なんだか騒がしかった。
軍務卿フィトが城の前で隊列を組んでいた。
「何かあったの?」
「ええい! 今忙しいのだ! ノリが【金龍】偵察から戻らない! 至急軍を派遣し……ってノリィ!?」
僕のせいでした。
僕はガルム皇帝の前に突き出された。
もちろん、事情を説明する。
「そうか……【金龍】が留守で待っていたか……。確かに時期ではない。【金龍】も常にいる訳では無いだろう……。フィトよ、臨戦態勢を解け。我の早とちりだ。スマナイと皆に伝えよ」
「ハッ、良き動きだったと褒めておきます」
「それで良い」
そして【風龍】についても伝える。
「そうか。対抗魔法は本物か……」
「ですが、広域展開型ではなくて良かったですわ」
ガルム皇帝とミュナさんが溜息混じりに息を吐く。
「見た感じてすと、巣を突かない限りは大人しくしているかと」
僕の率直な感想に、ガルム皇帝も頷く。
「しばらくはこちらも偵察を定期的に派遣し、様子を見ることとしよう。大義であった。ノリ・ブラックシートよ。また落ち着いたら……な」
指をクイッとジェスチャー合図。
僕は笑顔で返しておいた。
僕もおこぼれをいただくのだ。
リサさんとミュナさんにジト目で見られるが、僕は笑顔を崩さない。
僕は笑顔を崩さないまま、【ゲート】でとんずらした。
ーーーーーーーーー ??? ーーーーーーーーー
今日もヤツの説得に赴いていた。
日に日に自我を失っている。
もう、ここまでなのだろうか?
2000数年、耐えたではないか?
……よくやったと、眠らせてやるべきだろうか。
だが、そうすれば新たな……私の力で、守ることはできるのか? いや、私にそんな力は残されていない。
それ程までに、ヤツは強大なのだ。
捨て身の覚悟で、やるしか……。
ん?
木箱?
貼り紙……今代の勇者か?
なぜ……中身は資料……何事だ?
もう一度、貼り紙を見る。
違和感があったからだ。
「これは……漢字!? 漢字だと!?」
知っている。
私はこの字を。
どうする?
恐らくはリッヒヴァルド帝国の使者。
押し掛けるか?
いや待て。まずは資料だ。
おいこら。
なんだこの資料の山は?
いつもの倍あるではないか。
まだ半年そこらだろう?
この半年で何があった?
私は読む。
読む程に歓喜した。
涙が止まらぬ感動を覚えたのは2000年ぶりかもしれぬ。
ヤツにも教えねば。
他にもだ。
黙って動くなと釘を刺さねばならんからな。
私は配下の竜を遣わせた。
これが大きな間違いであったことは、神すらも予想できなかったことだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます