第121話 いざ、リッヒヴァルド帝国へ

 明早朝、早速リッヒヴァルド帝国へと向かう。


 僕には【ゲート】があるので、わざわざ空を飛んでいく必要は無い。


 リッヒヴァルド帝国は地球で言うところの北アメリカだ。

 首都はギガンティア。

 大工業地帯、鋼鉄の首都と称されるだけあって、とてつもなく空気が煙たい。

 早く日本の防煙フィルターを導入してあげたい。


 ゲートは首都の外側に設置していたので、ギガンティア皇城の正門前までは飛んでいく。


 降りた僕は、出迎えてくれた宰相に挨拶する。


「ミュナ宰相、出迎え恐れ入ります」

「いえいえ、わざわざご足労いただきありがとうございます」


 緑色のミドルヘアーを揺らしながら顔を上げ、笑顔を見せてくれた。

 

 宰相ミュナ・ホーク。ガルム皇帝の右腕。


 そして超絶美人。おっとり系に見えてやり手。


 ガルム皇帝がベアとの論戦に押されると必ず出てくる人。

 その際、よく僕やガルム皇帝の愚痴話になり、盛り上がって話を有耶無耶にしてくる。


「申し訳ありません。今ガルム皇帝は朝食中でして……少々お待ちいただけますか?」


「もちろんです。先にこちらを」

「親書は後程ガルム皇帝に……。むむ? 八龍の報告書ですか。フィト軍務卿をお呼びして」


 僕が報告書を渡すと、ミュナさんは軍部のトップ、フィト・サニアレイを呼ぶよう兵士に言い付けた。


 僕は絢爛な来賓室で待たされる。


 ミュナさんも一緒だ。


「勇者様も何か食べられますか?」

「軽食なら持ち合わせていますよ。ここで食べてもよろしいですか?」

「どうぞどうぞ」


 そう言っていただけたので、僕はアイテムボックスからコンビニ幕の内弁当を取り出す。

 風魔法と火魔法で『あたためモード』、割り箸を用意し、紙コップを出してペットボトルのお茶を注ぐ。


「くんくん、美味しそうな匂い……。ハッ、勇者ノリ、それは何だ? 飯テロか?」


 軍務卿フィト・サニアレイがやってきた。


「ご無沙汰してますフィトさん。僕も朝食がまだなので、ちょっといただいてます」


 白髪のクールビューティー……に見えて大人ぶっているだけのお子ちゃま。


 史上最年少での軍務卿。実力は折り紙付き。


 ただし――。


「お子様ランチならありますが、いります?」


 実はこうなることを見越してお子様用弁当も買っておいたのだ。


「じゅるり……じゃないわ! お子様扱いするなぁ!」

「ヨシヨシ」

「撫でるなぁ!」

「うふふふ」

「ミュナも笑っていないで止めろ! まさか私をイジるためだけに呼んだのではあるまいな!?」


 ぷんぷんしているフィトに、ミュナさんは八龍報告書を渡す。


「……八龍報告書か。帝国ギルドからも連絡があった。わざわざ取りに行く手間が省けたな。ミュナはもう見たのか?」

「【炎龍】がまだ見つかっていないところまでしか見ておりませんわ」

「【炎龍】はそうだろうな。少し目を通すぞ」


 僕はその間に食べるとジェスチャーし、2人に資料を読むよう促した。


 僕が朝食を食べ終える頃には、ミュナさんもフィトも額に手を当てる程度には事態を理解したようだった。


「火急の勇者案件であることは理解しましたわ。フィト軍務卿」

「分かっている。ガルム皇帝を急かしてくる。待っていろ。勇者ノリもな」


 そう言ってフィトは出て行った。


 ミュナさんも立つ。


「勇者様、参りますよ?」

「ん? ここでフィト軍務卿を待つのでは?」

「うふふふ、圧を掛けに行くに決まっているじゃないですか」


 僕は黙ってミュナさんについて行った。


 向かったのは長いテーブルに彩りの食材の乗ったお皿が所狭しと並んでいる食堂。


 その上座に座るのは、ガルム・シュバルツァー皇帝陛下その1人である。


 皇帝陛下を笑顔で見守るのはミュナさん、フィト、そして秘書のリサ・ルーライン。紫髪の長髪を微動だにさせない笑顔。


 僕のことはチラッと見て会釈しただけで、あとはずっと皇帝を見つめている。


 ガルム皇帝陛下は、一心不乱に朝食を食べている。


 鬼気迫る顔だ。


 とても朝食の風景とは思えない。


「ほら、第十勇者様がお待ちですよ? 健康のため、残さずお食べくださいませ」


 ガルム皇帝が手を止めて僕を見てくる。


 すみません。さっき食べたばかりなんです。


「陛下、他所見している場合ですか?」


 リサさんの言葉が刺さっているように見える。


 何も言うまい。いや、何も言えない。


 ガルム皇帝とは、なんだか仲良くできそうだ。


 僕はガルム皇帝が食事を終えるのをちゃんと待った。

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