第八章 二大厄災襲来【八龍の宴】【異界の門】

第120話 開く亀裂と塞げぬ門

 調印式典から1週間。


 地球で僕に対する誹謗中傷が止む気配は無く、むしろ過熱する一方で、ヴァルファリアでもまた別の問題が発生していた。


 いや、想定通り最悪の事態になりつつあると言った方が良いかな?


「くっ……だめだ。ここも僕の力で塞ぐ事ができない」


 大厄災【異界の門】を開く亀裂が、どんどん開き始めているのだ。


 僕が塞げない門はこれで10ヶ所目。

 ここは僕の背丈くらいある。


 地球のどこに繋がっているかと言えば大抵が海洋上。

 これも覗き込むと海の上だった。


 街中で発生した亀裂や、街中に繋がる門を優先的に潰していたので、他が疎かになった。


 亀裂自体はもう1万ヶ所を超えている。

 認知しているだけでコレなので、亀裂の場所が10万を超えていても驚きは無い。


 僕は【ゲート】でウェスタリアの城に戻った。


 ちょうどベアとダーキッシ王がビデオ通話的魔導具で話をしていたところだった。


『ノリオミよ、首尾はどうじゃ? ……いや、良い。顔を見れば分かるわぃ』


 ダーキッシ王には、アランを頼る時に同席してもらっている。


 アランはさすが【第一勇者】と言わんばかりに活躍してくれている。

 なんと小さな門ならちゃんと消せるのだ。

 手の指の太さの穴くらいが限界だけども、それでも僕以外が【異界の門】に対応できることは大きい。


 だからウェスタリア以外のバンダルギア王国をアランに対応してもらっている。

 アランで対応不可能なモノは僕がヤる。

 それでも無理なら諦める。

 と言った方針だ。


「塞げぬ門はこれで10ヶ所目か……。いよいよ瀬戸際作戦に移行するしかなくなるな」


 ベアの言葉に頷く僕。


 瀬戸際作戦とは、街内部の亀裂や門にのみ対応する作戦ということ。


 バンダルギア王国だけならいざ知らず、僕の対応範囲はヴァルファリア全土である。


 いくら【ゲート】で世界中を行き来できるとは言え、さすがに無理だ。


 このことは第十連合でも承認されている。


 むしろ僕ら勇者は、この【異界の門】によって確実に刺激されるであろう【八龍の宴】に対応しなければならない。

 【炎龍】がそうであったようにだ。


 ヴァルファリア全土にある【異界の門】からあっちこっちに龍が移動する。


 もう想像しただけで頭が痛くなる。


 なぜいずれ塞げない門が出てくると分かっていても門を塞ぎ、亀裂を潰すのか?


 それはもちろん、時間稼ぎのためだ。


 地球に対して協力要請という名の不戦条約を結ぶことに成功した今、何の時間稼ぎが必要というのか?


「お姉ちゃ……んんっ! お姉様! 【八龍の宴】の最新資料が上がりましたわ!」


 メリルちゃんが紙束を持って謁見の間にやってくる。


 僕は二部ある資料の束を【ゲート】でダーキッシ王に送る。

 ダーキッシ王は小さな丸メガネを掛け、目を通す。


 僕もベアの持つ資料を覗き込む。


 そう、最新の【八龍】の情報収集のために、時間が必要だったのだ。


「【炎龍】の情報は無いようじゃのぅ」

「無茶を仰るなダーキッシ王。先日討伐されたばかりでまだ成ったかどうか。見つけられていない可能性の方が大きいことだろう」


 ヴァルファリア中の冒険者を総動員して【八龍】の情報を集めた結果がコレだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


炎龍、確認できず。


水龍、渦眼の海底龍スパイラル アイズ アトランティス ドラゴン。ナミューダ海底国旧首都。


雷龍、電眼の超臨界龍エレクトリック アイズ プラズマ ドラゴン。旧魔王領天空。


地龍、金剛眼の不砕龍ダイヤモンド アイズ アダマンタイト ドラゴン。ミリスワリア奥地の裂け目。


風龍、静眼の凪龍サイレント アイズ カーム ドラゴン。リッヒヴァルド帝国ローザ山脈。


光龍、天眼の超常龍ヘブン アイズ ミスティック ドラゴン。オルザバリア共和国神殿遺跡。


闇龍、呪眼の反闇龍カース・ザ・ミヤ。リッヒヴァルド帝国旧首都アルストロメリア遺跡。


金龍、金眼の不定形龍ゴールデン アイズ アモルファス ドラゴン。リッヒヴァルド帝国リリィ草原奥地洞窟。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うっへー。


 というのが僕の感想だ。

 言いたいことは色々ある。

 でもまず何よりも先にコレを言う。


「帝国ヤバくない?」


 素直にベアに聞いてみる。


「あぁ、ヤバいな。これは」

『さすがにヤバいのぅ……』


 ベアもダーキッシ王も思わず退くヤバさということだ。


 つまり?


「ノリ、リッヒヴァルド帝国に行って来い」

『それが良いじゃろう』

「でっすよねー」


 僕は新たな【風龍】が確認され、3体の龍を抱えることになったリッヒヴァルド帝国へと向かうことになった。


 ベアとダーキッシ王の親書と、メリルちゃんが新たに持ってきた【八龍の宴】の資料を携えて。

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