第118話 日上調印式典

 玖須田総理の記者会見を見終えた僕達は、クロス・ベル本部からウェスタリア西ギルドへの門を潜り、帰還する。


「及第点だ。国民感情はまだアレだが、国のトップがあのように言ったことは評価しよう。注視する必要はあるが、手を組むに値する」


 ベアは辛口評価だけど、ご満悦の顔である。


「調印式典の日取りはどうしようか? 日本側が提示した日取りで飲む?」


 マネージャー気取りで聞く僕に、ベアはにやりと笑った。


「スピード勝負であることは日本側も理解しているだろう? おそらく1週間後と提示してくるはずだ。切り捨てろ。半分だ」


 み、3日後ですか?


「こちらとしては明日でも構わんからな。なぁに、日本は予備日とやらを設ける国なのだろう? 3日もあればやってくれるに違いない」


 あ、日本の国民性バレてるわ。


 ベアでコレでしょ?


 このベアとやり合うダーキッシ王もバックに控えて日本は耐えられますかね?


 しかも国連からというか、世界からも相当な圧力を掛けられるだろうし、国民からもバッシング待ったナシ。


 これは厳しい政権運営になりそうですね。


 外務大臣を辞めて本当に良かった。


 そして翌日。


 文雄を通じ、西ギルド出張所のリリカちゃんを通じ、西ギルドのマスターであるカズを通じ、ベアの下へ親書が届けられる。


 ベアはソレを読み、返事をしたためる。


 ベアからの親書は再びカズに渡された。


「2日後に行くぞ、日本にな」


 ベアの発布が第十連合を通じ、世界規模で盛大に行われ、当日を迎える。


 こちらの都合で予定を早めたので、調印式典は総理官邸で執り行われることになった。


 予定通りだとどうなったか?


 皇居ですよ。


 天皇陛下直々に調印されるところだった。


 ベアもそれは畏れ多いと身震いしていたよ。


 ベアの権限的には総理大臣だからね。

 立場は外務大臣みたいなもんだよ。


 調印式のベアは正装。


 いつも僕の前でよく見せてくれる赤いドレス。

 豪華な軍服みたいな服は軍事関連の時だけらしい。


 映像伝播の珠魔石は持ち込んである。


 世界中のメディアも揃っている。


 つまり、この調印式典は、地球とヴァルファリアの全て人達が見守る史上初の行事。


 外務大臣が調印の内容を読み上げ、玖須田総理が先に署名する。

 そして、ベアトリクス公爵が次いで署名する。


 恙無つつがなく調印を終え、ベアトリクス公爵は登壇した。


「地球の皆様、初めまして。私はベアトリクス・フォン・レイヴァーン。自治領城塞都市ウェスタリアの主にして公爵である。此度、地球、ひいては日本の皆様と、こうして手を取り、友好条約を結べたこと、大変喜ばしく思う。これからも、どうぞよろしくお願いします」


 軽く会釈するベアに、猛烈なまでのフラッシュが焚かれた。

 顔を上げたベアのニッコリ笑顔……完全なる営業スマイルに、一部の男はシャッターを切るのも忘れている。いや、女性陣もウットリだ。

 さすベアである。


「これ程までに『科学』の発展した地球と、『魔法』の発展した我らヴァルファリアの民が手を取り合ったなら、どれ程の大厄災が待ち受けようとも、乗り切れると信じております。皆様には、我らが勇者達を紹介させていただこうと思う。アカネよ、こちらに」


 ん?


 そんな話あったっけ?


 まぁそのために【勇者の子】を全員調印式典の警護に呼んだのかな?


 ベアの他に参列しているヴァルファリアの民は、アカネ、レオ、リオ、フウカ、マリだけだから。


 僕を数に入れるかは悩ましいところだけど。


「ハッ! 私はアカネ・フォン・レイヴァーン。【第十二勇者】です! 母様と、そして父様と共に大厄災に立ち向かいます。よろしくお願いします」


 アカネは大きなお辞儀をして、ベアの後ろに控える。


「ボクは【第十三勇者】レオ・ミルフィード。母の住まうヴァルファリア、そして魂の故郷ニッポンを守るため、協力は惜しみません。みなさん、よろしくお願いします」


 レオくん。際どい発言はやめてくれたまへ。

 コッチ向いてニコッ、じゃないのよ?


「【第十四勇者】リオ・ユーアインだ。地球、日本は良い。美味いモノが揃っている。他の国も是非見たい。仕事の合間に遊びに行く。よろしく頼む」


 こら、リオ。お子ちゃまのセリフじゃないか。

 みんなほっこりしているぞ。

 日本の閣僚なんてザワザワしているぞ。

 文雄が汗ダラダラだから、そういうの控えて。


「私は【第十五勇者】フウカ・モードレイズ。魔法もなしに、全ての学問をここまで昇華させたことは素晴らしい。手を取り合えば、宇宙開発も夢じゃない。声が掛かるのを楽しみにしている。よろしく」


 フウカ、呼びかけるんじゃない。

 宇宙政策担当大臣が早速秘書を呼び付けてるぞ。


「【第十六勇者】マリ・モードレイズ。母さんのいるヴァルファリアを守る。そして、私達【勇者の子】みんなの父さんの故郷、日本を守る」


 え!? ちょっとマリ!?


「私達の父親【第十勇者】は、不義理をしない限り、みんなを守る。ね、父さん」


 マリが後ろの端っこで控える僕を指差した。


 全世界の視線が僕を捉える。


 マリ達、そしてベアも例外ではない。


 ただ、その6人の目は真っ直ぐだった。


 ベアか誰かが仕込んだな?


 まぁいずれバレる話だし、最初に話しておく方が良いのは間違いないか。


 僕はベアの隣に立ち、マイクを取る。


「【勇者の子】達は、みんな母親が違う異母兄弟。ですが、父親は僕。経緯は色々とありましたが、これは事実です。前の家族も知っています。かと言って、やることは変わりませんので、きたる大厄災に向けて、手を取り合い、立ち向かっていく所存であります」


 僕の言葉が終わり、拍手する者はヴァルファリアの者達だけ。


 僕は今日この日から、地球世界で最も不義理な浮気野郎と、毎日罵られることとなった。

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