いつか勇者となる君は

〜Side 異世界会見〜

　後に異世界会見と呼ばれるこの記者会見は、日本だけではなく、世界中に緊急ライブ放送として流されていた。

「改めて申し上げます。地球と、異世界ヴァルファリアが繋がりました。原因は不明。ヴァルファリアにおいて、国際連合と同等の機関【第十連合】によれば、これは大厄災【異界の門】であるとのこと。与野党で今後協議しますが、激甚災害に指定される可能性が非常に高い案件となっております」

　玖須田総理は、秘書にホワイトボードを持ってこさせ、板書のように書かせていく。

「簡潔に説明しますが、大厄災【異界の門】により、地球とヴァルファリアが繋がりました。問題は、いつどこでこの【異界の門】が開かれるか分からないということです。海に門が発生し、それが街に繋がれば大洪水。火山噴火口で発生すれば街に火砕流。ゾウの群れが突如としてスクランブル交差点に現れることも有り得ます」

「そのような大厄災に、地球と異世界ヴァルファリアが手を取り合い、対応していく。異世界間交流を実現するための非公式会談を先日行いました。具体的対応策は……」

　玖須田総理は１度深呼吸し、意を決するようにして言った。

「【第十勇者　観月紀臣】のみが、この大厄災【異界の門】に対処できるとのこと」

　会場はざわついた。

「【異界の門】のサイズによるようですが、小さな門であれば閉じるのは可能とのこと。巨大な門に関しては、彼でもどうしようもないと聞いていおります。そして【異界の門】の数は指数関数的に増加する恐れがあるとのこと。現在は亀裂状態、もしくはほぼ全てが塞げる小さな門であること。数が増え続ければ彼だけでの対応は不可能であること。現時点で判明している事実は以上となります。では、質疑応答に移ります」

　玖須田総理は最後に大きく息を吐いて締め括った。

　矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

　総理はそれらを制し、１つずつ対応する。

「また【勇者】のせいで……今回は地球の危機ですか！？　完全なる敵対行為だと思わないのですか！？」

「２点お伝えする。１点目、日本の危機は【第十勇者】によって救われた。２点目、彼はヴァルファリアで他多数の大厄災に対処している英雄だ。彼を悪く言うと、ヴァルファリアが我らをどう思うか。よく考えて発言していただきたい」

「総理こそ何を言っているのですか！？　そもそも【勇者】をすぐに何とかしていれば、戦争も何も起こらなかったのではありませんか！？　他国のように！」

　玖須田総理は大きな溜息を吐いた。

「何度も言っております。人権を重んじ、そして憲法を重んじる日本において、誰であろうと見捨てはしない。当たり前のことではないのですか？」

「裏切り者！　詐欺師！　犯罪者には法に則った罰を与えるのが法治国家だ！　【第十勇者】は犯罪者！　これは事実ですよね！？　総理！　お答えを！」

　玖須田総理は首を振った。

「【第十勇者】の彼は、誰よりも日本のことを心配してくれている。彼の肩を持つ訳ではない。よく考えてほしい。彼の力だけで、先の戦争から、日本を救った。全ての核から、日本を守った」

　玖須田総理は、遠くを見ていた。

「彼の家族は自衛の手段を得ている。人質になどできない。彼は、悪口を言うあなた達の日常をも守ろうと動いてくれている。彼が犯罪者？　断じて違う。そもそも刑事事件で刑が確定していないなら推定無罪の原則により、犯罪者扱いできるものではない。法治国家の住民なら分かるだろう？　もう彼を悪者扱いするのはやめましょう。我らもだ。傍から見ていて情けないにも程がある。そもそも、彼も巻き込まれた側であることを失念されていないだろうか？」

　そして、目に力を宿し、総理は言った。

「全面的に彼【第十勇者　観月紀臣】を支援し、ヴァルファリアとも手を取り合い、大厄災【異界の門】に対処する。これは本日、つい先程閣議決定された！　つきまして、日程を調整次第、速やかに日本にて調印式を行いたい旨、お伝えしたい！　日程が判明次第、国民の皆さんにも共有致します。しばらくお待ちいただきたい」

　会見は終わった。

　総理自ら説明し、その足は再び総理官邸へと向かう。

　官房長官がその場に残り、人事の変更を伝えた。

　日向八重総務大臣及び園田文雄文科大臣を、ヴァルファリア担当大臣、副大臣に任命。

　このニュースは世界中のニュース、SNSを埋め尽くした。