第117話 ようこそ異世界へ、地球の民よ

 頭が痛い。


 昨日は飲み過ぎた。


 ヒナと勇者の子達は20歳になっていないので飲酒厳禁。


 ウェスタリアでは成人したら飲めるけれど、日本にいる間は日本の法律を遵守してもらう。


 と言ったら、みんなからお酌されてしまった……。


 僕一人で何本の日本酒を空けただろうか?


 魔法が無ければ急性アル中で死んでたぞ絶対。


 まぁみんな美味しそうに飲み食いしてくれたし、文雄やレンやヒナと、ウェスタリア組も通訳を挟んで結構色々話して盛り上がっていたようなのでヨシとしよう。


 文雄とベアとリリカちゃんは3人で込み入った話もしていたようだしね。


 ベロンベロンになった大人達みんなを、僕と勇者の子たちでちゃんと回収し、クロス・ベル本部の大広間で雑魚寝させる。


 文雄だけは自室のベッドに寝かせてきた。


 残りのメンツは……まぁ大丈夫だろうね。


 でも、文雄は朝から呼び出されたらしく、僕が起きた時にはもういなかった。


「フミオっちは総理官邸だって~」


 重役執務室にはレンだけが居た。


「おはよ、レン。頭痛くない? 気分とか大丈夫?」

「へーき〜。あーし、お酒強いみたいだから」


 そう言いつつも、フラフラと僕に寄り掛かってくる。


「それがわざとなことくらい、僕に分かるよ?」

「えへへ〜。今だけぇ〜」


 頭をスリスリと僕の胸に擦り付けてくる。


 マーキングかな?


 僕はレンの頭を撫でつつ、テレビのリモコンを手に取る。


 このタイミングで文雄が総理官邸に呼び出されたということは、何かニュースになるのかな?


 そう思ってテレビをつけたら、総理の緊急記者会見が開かれようとしていた。


 僕は慌ててみんなに【大魔弓参式・ハーヴェスト】をぶちかまし、叩き起こす。


「んん……どうされたのですか? ノリ様」


 さすが医者をやっているだけあって、カノンさんの目覚めが一番早い。


「みんな起きて。どうやら、もうヴァルファリアがお披露目されるようだ」


 僕の言葉に、ベアとメリルちゃん、エイラ、アカネとフウカが頬を叩いて目を覚ます。


 そこから先は流れるようにみんなを目覚めさせていった。


 ベアとエイラがリリカちゃんをひん剥いて起こしたり、カノンさんがスズを薬で起こそうとしてマリが先に飛び起きたり……まぁ詳細はそれぞれの名誉のため割愛しよう。


 それでも3分で執務室に集合できる能力は高く評価したい。


「さて、どういうことか、簡単に説明してもらおうか、ノリ。もう少し落ち着いてから公表する流れではなかったか?」


 ベアの言う通り、まだ口約束でしか友好条約を結べていない中での公表とはどういうことかと総理を問い詰めたいところ。


「……まぁ日本も一枚岩じゃないってことだよ。誰かがうっかり喋って、それが週刊誌か何かに載る可能性があったとみた。正式じゃないけれど先出しで公表をされる方が国益を損なうと思ったんでしょ」


 ベアだけでなく、みんな全く納得していない。


 僕は呆れた口調で言ったよ。


「マスコミの印象操作……ベアとメリルちゃん……アカネも分からない?」


「そういうことか」

「それなら分かりますわ」

「分かりますが、なぜ国益に反することを国民が?」


「日本はそういう国だからね。言論の自由と、国民の知る権利をおいそれと抑えられない。これが民主主義国家だ。よく見ておくと良い」


 アカネはゾワゾワと鳥肌を立てていた。


「良き統治者が上に立つ限り民主主義は悪なんだよ。でも最悪にはならない。昔のダーキッシ王の悪政下なら、民主主義の方がマシって思えるよ」


 僕の言葉に唸って考え込むアカネ。思うところがあったらしい。


 そしてだいぶ遅れて会見が開かれる。


 開口一番、挨拶も無しに、総理は言った。


『明日発売の某週刊誌に【閣僚達、美女達との謎の夜会】と称した大変失礼なタイトルに関して言わせていただきます。大した裏取りもせず国益を大きく害する行為は慎んでいただきたい!』


 総理がブチ切れている。


『総理! それは言論弾圧とも取れる発言では!?』


 早速言われてますよ総理。


『裏取りされているなら結構! 先程も言いましたが、国益を大きく害する行為には、厳粛に対応させていただく! この度は、相手方も含め、包み隠さず説明させていただくため、この緊急記者会見の場を設けました。それでは、改めて説明させていただきます』


 鬼気迫る顔の総理に、記者達も思わず黙る。

 それはそうだろう。


 こんな総理の顔、宣戦布告された時ですら見ることなかったもの。


『【勇者】により【魔法】の存在が明らかとなりました。それは周知の出来事と思います。この度、地球と【勇者】の存在した異世界、ヴァルファリアが繋がりました。先日の会合は、ヴァルファリアにおける自治領城塞都市ウェスタリアよりいらしたベアトリクス・フォン・レイヴァーン公爵閣下との極秘会談です。立場は対地球外交官。国益の意味を皆さんで考えていたたきたい!』


 なるほどね。


 すでに日本国民は僕に対してまぁまぁやらかしているので、ソレを利用して政府は悪くない戦法を取ってきたか。


 でも脇が甘過ぎますよ。


 マスコミにバラしたの新外務大臣の秘書ですもの。


 別の出版社に勤務させてる精霊から流出経路のメールが来たよ。たった今。


 ともあれだ。


 ようこそ異世界へ、地球の皆さん。

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