第116話 ラビからの手紙

 手紙の封は僕が切った。


 裏には汚い字で『ラビより』と書かれていた。


 ラビが自分で書いたのか?


 どれだけハイスペックな魔物なんだろうか……。


 ただ、中身は代筆だ。


 達筆で全然読めない……。


 僕は観念してベアに渡した。


「では私が読もう。代筆者は『S』? これは……地球の文字ではないか?」


 ベアは僕に見せてくる。


「本当だ。アルファベットの『S』だ。イニシャル? 誰だ……。結構多いぞ?」

「いや、ノリの世界の言語を伝えたのは3日前。しかも要人にしか公開しない事を前提としている。かなり地位の高い者のはずだ」

「……シド大統領? ダーキッシ・センテンス王? ガルム・シュバルツァー皇帝? 要人で知ってるのはこれくらいだよ?」


 オルザバリア共和国の大統領、バンダルギア王国国王、リッヒヴァルド帝国皇帝、この3人しか僕は知らないぞ?


「可能性があるとすればシドだな。どうやら今、ラビはオルザバリアにいるようだ」


 え?


「ええ!? ラビ、なんでぇ!?」


 地図的に言えばとんでもなく遠いぞ?


 ウェスタリアは地球で言うところのカザフスタン西端にある。ウクライナのちょい東と言えば分かるかな?


 対してオルザバリア共和国は南アメリカ大陸……ブラジルをイメージしてくれれば良い。


「オルザバリアの最速レターバードでなければこんなに速く届く訳がないからな。とにかく1度読む」


 手紙の内容はこうだ。


 ◇   ◇   ◇


 ボス、スズを生き返らせてくれて、ありがとう。


 ラビは何もできなかった。

 だから鍛えてくる。


 オルザバリアに知ってる人がいる。

 だいぶ前からスカウトされていた。

 

 良い機会。

 だから、強くなる。すごく、強くなる。

 それまで、待ってて。

 

 スズ、大好きなスズ。

 生き返ってくれて、とても嬉しい。


 スズより強くなって、必ず帰る。


 だから、待ってて。


 ありがとう、ごめん。


 みんなにヨロシク。


 スズより。代筆者『S』


  ◇  ◇  ◇



 みんなウルウルである。


 僕もちょっとだけうるっと来た。


「良かった……良かったよぉ!」


 スズなんてへたり込む程に安心している。


 カノンさんやマリ、フウカも一緒になって抱き合っていた。


 僕はベアに寄る。


「オルザバリア、知人、だいぶ前から、偉い人、イニシャル『S』。偉い人かどうかは分からないけど、思い当たる節がある……」


「奇遇だな。私もだ。ノリの思う人物だとして、地位は高い」


「え? そうなの?」


 地位高いの?

 高いのにあんなところで働いてたの?


「ノリさん。各国ともに色々と事情があるのですわ」


 メリルちゃんが割り込んできた。


「あんまり詮索しちゃいけないヤツ?」


 僕の言葉に、ベアは眉間にシワを寄せる。


「う〜ん……うむ。しばらく先送りだ。正直、下手に突いて関係を拗らせたくはない。もう少し安定してから……ノリを送り込むとしよう」


 ぼくぅ!?


「ノリの来訪はどの国も待ち侘びているからな? 当然護衛には【勇者の子】を充てる。安心しろ、ノリ」


 それ安心材料なんですかね?


「各国の腹の内が全然読めないのですわ。私の力を以てしてもです」


 心を読むメリルちゃんでも読めないって、やばー。


 そこにリリカちゃんもやって来た。


「特殊なスキルを持つ密偵はどこにでもいますから。ウェスタリアは特に密偵が少ないです。ベアとメリルのおかげですね」


 にっこりリリカちゃんとニンマリベアとふんすメリルちゃんである。


「密偵ですら特殊なスキルあるんだから要人なんて特に……ってことだよね。まぁなんと魑魅魍魎の世界だこと……」


 こればっかりは地球と一緒だね。


 外務大臣を経験させてもらってよく分かったよ。


「おいノリ。そんな世界に俺達を巻き込むんだ。そぉれなりに責任ってもんがあんだろぉ?」


 やっべ。文雄が僕に掴みかかってくる勢いでメンチ切ってくる。


「ノリィ、さすがに、あーしらにもご褒美ないとー、ねぇ〜?」


 目以外笑顔のレンに瞳を覗き込まれる。


「マスター。どうすれば良いか、試されるのでありますよ? パーフェクトコミュニケーション以外は……ふふふのふ……」


 ヒナは何かを僕にやらそうとしている。


 これはマズい。


 選択肢を間違えたら、第二、第三の瑠花を発生させることになりかねない……。


 僕は必死に考える。


 ウェスタリア組は誰も助けてくれない。


 ならば、これしかあるまいて。


「文雄……ここに文雄名義で連絡を。予算は一本だ」


 文雄は僕のメモを見る。


「はっはー! さっすがノリだぜぇ! 喜べやぁ! 全員、これから、最高級料亭で貸し切り飲み食い放題! もちろん、ノリの奢りでなぁ!」


「さっすがノリィ。あーしクロマグロ〜」

「まぁギリギリパーフェクトでありますじゅるり」

「くくく、全員か。日本の最高級料理、アカネも呼ぼう」

「予算……1千万? 一食で? ノリさん? さすがですわ」

「やったっ! ノリさん、ごちそうになりますね!」

「レオ、リオ、遠慮は要らないわ! 食べ尽くしなさい!」

「日本の料亭! 父とご飯! リオと共にいただきます!」

「ふんっ、レオ、負けんからな!」

「父の財布は大丈夫なのか? スズ姉」

「ノリくんお金持ちだから大丈夫っ!」

「マリ、遠慮しない」

「ノリ様……本当に大丈夫なのですか?」

 

 僕入れて14名。

 ここにアカネが入って15名。


 本気で心配してくれるのはカノンさんだけ。


「今回だけなら、多分、きっと、大丈夫……のはず」


 僕も腹を括ろう。


 お金を稼ぐ手段なら無くは無いから。


「カノンさんも遠慮無く食べてよ。もしかしたらこんな機会、最初で最後かもしれないからさ」


 僕がカノンさんの頬に手を当てると――。


「はい! ノリ様、ありがとうございます」


 カノンさんの笑顔を、僕は久しぶりに見た気がしたよ。


 お金で笑顔が買えるなら、喜んで出そうとも。


 アカネも呼び付け、懇親会という名の宴会は大いに盛り上がった。


 羽目を外した者から順番に眠らせたのは言うまでもあるまいて。

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