第119話 地球の悪意を身に受けて

 連日ニュースですけこまし野郎と罵られる僕。


 SNSは見ない。


 誹謗中傷とかいうレベルではないからだ。


 見たら心の根本から折られると思う。


「ノリ……そろそろ機嫌を直してくれ……」


 僕はプンスカしている。


 そりゃそうだろう。


 わざわざ調印式典で、大した説明もできない中で、事実だけを述べるなら僕は批判されて当然なのだから。


「父様、これは父様のためなんだ」


 今日はアカネが僕に謝りに来る当番だ。

 予め打ち合わせをしていたらしい。


 口では謝ってくるが、みーんな揃ってニコニコ笑顔。


 そんなに僕と一緒に過ごすのが嬉しいのか?


 やめてほしい。危うく許しそうになる。


「僕を地球側に置かせたくないって思惑が丸見え過ぎるんだよ。はぁ~ぁ……」


「え? 父様……そこまで分かって……」


 アカネがベアを見る。ベアは謁見の間の椅子に座り、僕から思いっ切り目を逸らした。


「母様が申し訳無さそうに困惑している……明日は嵐か?」


 娘に言われておりますよ、ベア様。


「こほん、まぁそういうことだ。ヴァルファリアでノリを歓迎し、地球ではそうではなくさせる。これも外交の1つ……。すまんな、ノリ。もうノリを手放したくないのだ。ノリと最期まで添い遂げる。そのためなら、手段を選ばん」


「僕の気持ちに反しても?」


 僕はまぁまぁ怒っているぞ。

 でも、ベアは僕を見て言った。


「基本的にはノリを尊重する。だが、日本や地球の対応、反応はどう見てもおかしい。それに合わせようとするノリもだ。罵詈雑言を浴びせてくる連中を守ってどうする? 守る度に心にも無い言葉を投げ付けられてどうする? ノリはそれで保つのか?」


 言い返せない程に、ベアの言葉が僕に刺さった。


 正直キツい。


 なぜこんな人達を守らなければならないのかと、考えない訳ではない。


 でも、それは――。


「朱乃達は自力で生きていける。そのようにノリがやったのだろう? もう日本にはノリが守るべき者はいないのではないか?」


「……そんなことはない。両親だって、親戚だって、友達だっている……」


「精霊達が何とかしてくれるのだろう?」


 ベアは何でもお見通しか。

 メリルちゃんは居ないんだけどなぁ。


「どの道、僕の居場所はヴァルファリアにしかないんだ。それは無意味では?」


「本当にそう思うのか?」

「……いいえ」


 ベアが何枚も上手である。

 そりゃ冷遇されるより厚遇される方が好印象に決まっている。

 地球はとんでもない世界を敵に回してしまったな。


 対勇者の初動を地球人は間違えた。


 それでも僕は――。


 守れるものなら、少しでも多くを守りたいと考えてしまうのだった。



ーーーーーーー 松本 瑠花 ーーーーーーー


 パパとママが離婚した。


 だから、苗字がママの旧姓になった。


 パパは、ベアトリクスに盗られた。


 ううん、私が差し出したようなもの。


 全部、私のせいなのかな?


「これ、第十一勇者、サボらず働くのじゃ。朱乃と萃花を見習え」


 ナナエ公に扇子で頭を叩かれた。


 今、私達はママに連れられ、ナナエ公のいるサウスバーンでお世話になっている。


 ナナエ公は快く受け入れてくれた。


 扱き使われているけれど、一文無しで、衣食住をくれるんだもの。


 贅沢は言わないわ。


 萃花は何だか楽しそうだし。


 ママは笑顔だけど、作ってるのは子供の私でも分かる。


 全部、私のせいなのかな?


 親友だと思っていたヒカリに裏切られた。


 これも全部、私のせい?


 もう、頭がごちゃごちゃにな――。


「瑠花よ、今は何も考えず、身体を動かすのじゃ。落ち着く時間、それが今お主に必要なモノじゃ。しっかり身体を動かし、しっかり食べ、しっかり寝る。それができるようになってから考えても良いじゃろう」


 ナナエ公が、涙でボロボロの私の頭を撫でながら、そう言った。


 私は、従うことにした。


 ナナエ公の言われる通りに、仕事をやり続けた。

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