第114話 地球と異世界を繋ぐ者

 大使館の話もまとまり、城塞都市ウェスタリアと宗教法人クロス・ベルとの契約は秘密裏に交わされた。


「はい、これで契約完了。お疲れ様、ベア、文雄」

「うむ。良き調印だった」

「だっは〜、疲れた……。どこの世界も書類ばっかじゃねぇか。異世界なら魔法でポンとかねぇのかぁ?」


 椅子に凭れて天井を仰ぐ文雄に、フフフと微笑む僕とベア。


「フミオよ。神前契約というのがあるぞ? ちょっと血を垂らし、魔法でポンだ」

「約束破ったら大厄災級の不幸が一族に及ぶらしいけどね」

「だぁれがするかぁ!」


 ですよねー。

 まぁ僕も聞いた話だけだから、どこのまで真実かは知らないけれど。


「リッヒヴァルド帝国の前身が確か……その契約で縛られていて大変だったと聞き及んでおりますわ」


 僕の心を読んだメリルちゃんが教えてくれた。


「あの神様一応仕事やってるんだね」


 僕の恨み節にベアとメリルちゃんが引き攣る。


「ノリよ。神をそんな邪険にするな」

「そうですわ。バチが当たりますわよ」

「そうは言ってもなぁ……絶対に僕らが四苦八苦するこの光景を見て楽しんでるんだよ? まるでドラマを観るように」


 でも、僕以外のみんなの感情は違うようだ。


「俺ぁ感謝してるぜ。色々あったが、結果的に、こうして全員笑っていられる。ノリにしかできねぇ。神はそんなノリを生き返らせた。話聞いてりゃ、ここにいる全員ノリに命救ってもらってんだろ? じゃあ感謝しかねぇよ。せっかくの宗教法人だ。神への感謝イベントでもやるか?」


 文雄の言葉にみんなして大きく頷き、手を合わせて祈りのポーズ。


 気持ちは分かる。


 でも、だからと言って許すかどうかと言われれば違うだろう。


 なぜなら【大厄災】を引き起こしているのは他ならぬ神だ。

 神々の暇潰しを僕が盛り上げて潰しているに過ぎない。


 なぜ神が私達に試練を与えるのか?


 と、よく聞く話だけれど、僕個人的な解釈としては、試練を乗り越える様をエンタメとして楽しんでいる……これに尽きると思うんだ。


 メリルちゃんからは、それは言ってはいけないと首をブルブルと横に震わせた。


 分かってるよ。

 口は災いの元とはよく言ったものだから。


 僕は話を本線に戻す。


「それで、大使館要員についてなんだけど、ここから先はリリカちゃんにお願いするよ」


 リリカちゃんは待ってましたと言わんばかりの太陽スマイルを振り撒く。


 文雄が思わず目を覆う程の眩しさスマイル。

 ヒナやレンは目をキラッキラさせている。


「ノリさん、やっと私、紹介してクレマしたネ! こほん、ウェスタリア大使館兼西ギルド出張所マスター代理リリカ・ミルフィードです。ノリさんの側室である私、ソシテ、同じく側室のエイラと共に、コチラに常駐させてもらイマス!」


「いや側室って……」


 文雄、レン、ヒナの視線が突き刺さる。

 

 誰かタスケテ。


「ツキマシテは、ノリさんに、このクロス・ベルと西ギルドを繋ぐ門を設置してほしいのですガ、デキます?」


 僕はリリカちゃんからの疑問を受け取り、逃げるように魔力探知を起動する。


 数日前には亀裂の気配すら無かった。

 かと言って今日ここに亀裂が存在する、というのはあまりにもご都合主義。


 しかしながら、第十勇者の力はインチキチート。


 亀裂を作ることはできないけれど、この前ここに来た時に、魔力溜まりを作っておいたのだ。


 亀裂が生まれる条件に、異常な程の魔力滞留が発生する……という共通点がある。

 第十連合の対策本部が見つけてくれた。


 それを実証するため、クロス・ベルのエントランスと西ギルドの裏庭に魔力溜まりを意図的に作っておいたのだ。


「ノリよ、どうだ?」

「ふふ、ベア。成功だ」


 僕はみんなを引き連れ、エントランスホールへ降りる。


 そしてウサランスを出し、魔力を込めて一突き。


 ショッピングモールの自動ドアくらいの大きさの門が開いた。


 その向こうには、驚く顔のエイラと、レオとリオが居た。


「ノリ……成功したのよね?」


 エイラに言われ、僕は手を広げる。


「うん。おいで、エイラ。ようこそ、日本へ」


 エイラは僕に飛び込んできた。


 何か言われると思ったけれど、エイラは何も言わず、ただ僕の胸に顔を擦り続けた。


 周りからも何か言われると思ったけれど、みんなしてニヤニヤしているだけ。


 僕もちょっと混乱していたが、みんながこうしろと言っている気がしたので、エイラの頭をヨシヨシと撫でてやることにした。


「べ、別に寂しかったとか、リリカが羨ましいとか、早く会いたかったとか、危うく泣きそうだったとか、そんなこと1つも思ってないんだからね!」


 久々に僕は感動している。

 メリルちゃんが通訳してくれている間に、僕は叫ぶ。


「レン、ヒナ! これが天然のツンデレだ! 文雄も覚えておけ! 天然記念物……いや、絶滅危惧種だがリアルに存在するということを!」


「だぁれが珍生物よぉっ!?」


「これはっ! 言葉が分からなくても解る! たまらんのであります!」

「あーし、異世界ツンデレ初めて見たぁ」

「てぇてぇ……ハッ! やっぱノリはノリだなぁ!」


 耳を真っ赤にするエイラは縮こまってしまい、僕のヨシヨシでさらに頭をボンッと爆発させるのだった。

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