第18話 スズ、冒険者になる
みんなは、出て行ったスズについていく僕に何も言ってこなかった。
むしろ、頼んだぞ的な視線を感じた。
僕も背中で語る。任せろってね。
「……ノリくんは、スズと同じところに行くの?」
「スズの目的地次第かな」
「獣人用の職業案内所ってところだよ。そこならハーフでも仕事くれるって。オババの紹介状もあるから」
そして紙を見せてくれる。
なるほど、保険もちゃんとあるじゃないか。
素晴らしい。
「残念だけど、僕とは違うね。でも、せっかくだからさ、僕と一緒に冒険者やってみない?」
「ふぇ?」
スズは足を止めて固まってしまった。
そう、スズを冒険者にスカウトである。
「ダメ! オババや、ママから絶対にダメだって言われた!」
だろうね。
だって命の保証無いし。
「スズは、1人で冒険者をするのはダメって言われたと思うんだ。でも、僕は言ったよ? 『僕と一緒に』って」
一緒なら命の危機は無い。これは100%と言い切れる。師匠についてって依頼をやるというのは命の危機しか無いが、街周囲の森で薬草等を採取するだけなら、命の危機は絶対に無い。
Cランクまで育て上げれば、街周囲で単独行動するのも問題無くなるだろう。
僕の目標設定はソコだ。
そしてなによりも、この問題が解決する。
「スズが冒険者をやってくれると、アーニィ・マリィルートの経営に必要な素材集めが、すごく捗るし、お給金は少なくとも僕が出せるんだよね」
そう、僕がスズに指名依頼を出せるのだ。
最終的には、アーニィ・マリィルートがスズに依頼を出す形となる。
いつか僕が地球に帰った時、素材を集める者がいなくては造るモノも造れない。
それにだ。
「その紹介状の期限はしばらくあるんだよね?」
さっき渡した時、すぐ書いたように見えなかったからね。
「うん、あと半年は大丈夫って」
じゃあ行けるな。
「スズ、冒険者が無理だと思ったら、それで辞めて良い。改めてその紹介状を持って職を探せば良い。しばらくは、僕と一緒にアーニィ・マリィルートのために、冒険者にならないか?」
「……うん! ちょっとだけだよ! 本当に、ちょっとだけだからね」
心の中のヤバい僕がニチャァと笑う。
僕はすぐさまヤバい僕を心の中でぶん殴った。
スズが純粋過ぎるのですよ。
こんな状態で世間に放り出したら、エサとして食い散らかされる未来しか見えんわ。
僕はニッコニコで腕を組んでくるスズと共に、西の冒険者ギルドへと向かった。
扉を開けるなり、太陽のようなリリカの笑顔が一瞬にして魔氷の顔に変容する。
デジャヴュ!?
しかし、スズが僕の腕を離れ、リリカに向かった。
朝一番ということもあり、それなりに人もいる中でのリリカ魔氷モードのため、他の冒険者どころか他の受付嬢ですら一時停止している。
そんな中、スズだけが歩いていれば、誰だって視線を向けるだろう。
リリカだって、呆気に取られている。
「リリちゃーん! おーはよっ!」
そして元気なスズの声が響いた。
「おはよぇ!? スズちゃん!? どうして!? 大きくなって!? ええ!?」
大混乱のリリカちゃん。分かるよ。僕も寝起きはそうだった。
エイラも騒ぎを遠くで見ていたようで、一瞬にして距離を詰めてくる。
「え? スズなの!? 何があったの!? ノリ! 教えなさい!」
「あ、エイちゃんもいた! おはよっ!」
「おはよ……私より大きいじゃない!」
「エイちゃんくすぐったいよぉ」
エイラはスズに構わずペタペタと体を触って確認している。
「獣人や獣人のハーフは10歳で大人の姿に変わるそうだよ。元々病気のせいで遅れていた。それが治ったから、時間はだいぶ経ったけど、大人になれた……ってことらしいよ」
リリカとエイラは納得したように頷く。
知識としてはあったようだが、実物を見たのは初めてらしい。
ついでに事情も説明した。
「大人になったらすぐ追い出すって、何か薄情よね。あ、もちろんカノンやオババさんが薄情って言う訳じゃないのよ!」
エイラは思わず慌てる。
文句がある訳じゃなく、その風習そのものがなんたかなぁ、って感じなんだよね。
「それでノリさんと冒険者をするんですね……良いと思います! 陰ながら母を支える……私を泣かせるつもりですか? 良いでしょう。懇切丁寧に、手厚く柔軟にサポートさせていただきます!」
リリカが燃えている。
それにしても美少女だらけの空間は素晴らしいですな。
え? 僕、邪魔?
残念だが、僕はスズの保護者だ。ここを離れる訳にはいかんのだよ。
「では、スズちゃんは、この書類をお願いします。ここに名前を書いて……そうそう。はい、これでスズちゃんは冒険者です! 西のギルド専属です!」
今、リリカちゃんの黒い笑みが見えたよ? 一瞬だけね。
遠くでカズがガッツポーズをしている。
そして後ろに戻ったエイラとハイタッチ。
実に楽しそうである。
後で僕にもご褒美くれないかな?
「それじゃ、冒険者について説明するね」
「よろしくお願いします!」
リリカちゃんも悪いやっちゃで。
重要事項説明を後からするんですから。
「冒険者は、Fランクからスタートです。依頼書の仕事をする。終わったら報告する。それで報酬金が渡されます。簡単に言うと、これだけです」
「なるほど! ノリくんは何ランクなの?」
そういや僕は何ランクなんだろ……。
「今はBランクですが、ディークさんと一緒にAランクやら特Aランクの仕事もやってもらっているので、実質Aランクですね。その内正式にAランクの通達が来ると思います」
異世界に来て3ヶ月経たずに冒険者最高のAランクになりそうだな……。
インチキだと言われてもごめんなさいと言うしか無い。
「ノリくん、すごーい……」
スズに褒められると鼻が伸びてしまうわ。
「でも、スズちゃんにそんな危ない依頼書は渡せません。まずは薬草集めや配達を頑張りましょう。配達依頼なら、私達も同行できるから、一緒に行こうね」
「うん! やったぁ!」
あ〜、天使と天使が微笑み合ってるんじゃ!
話の区切りが着いたところで、奥からエイラがやってくる。
「スズって、追い出されてきたのよね? 住むところどうするのよ?」
「もし行く先が無いなら、私達の家に住みますか?」
「え? 良いの? やったぁ!」
なるほど。それはそれで悪くないな。
「じゃあスズ、僕からも提案だ」
しかし、僕にも考えがあるのだよ。
さぁ、どっちを選ぶ?
スズは迷わず、僕の提案を選んだ。
「それはしょうがないですね」
「それズルくない? ノリ」
何とでも言うが良い。
「むしろどうにも、ならない時はお願いすることになるかも」
リリカもエイラも快く頷いてくれた。
さぁ、スズ。さっそく冒険に出発だ。
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