第19話 冒険者のお供

 まだ午前中なので、下見がてら西門から街の外に出る。

 スズのお供が僕である。


「ノリくん……久しぶりに、外に出たよ……」


 スズが少し震えている。

 そんなに良い思い出は無さそうだな。


「西門を出て、すぐ右にある森。ここが僕とスズが入る職場になる。魔物はいるけど、しばらくは僕が一緒だから心配しなくて良い。まずは近くの薬草群生地に行ってみよう」

「うん!」


 スズの元気な声と共に、ホーンフォレストへと入る。


 近くの小さな薬草群生地で、何をどれくらい採るか説明する。


「採り過ぎると、ここが使えなくなるから注意してね」

「うん、わかったよ」


 スズは僕の言う事をしっかりと聞き、真面目に採取していた。


 周囲の警戒を怠らないようにと言おうとしたけれど、スズの耳がピクピクと動く。


 風で葉が擦れる音や、虫、鳥の鳴き声をちゃんと聞けているようだ。


「もう少し奥まで行ってみる?」

「うん! でもちょっと待ってね」


 僕の提案に頷いたスズは、近くの高そうな木を走るように登る……。さすが獣人ハーフ、身軽だ。

 すぐに飛んで降りてきた。


「すごいね、ずっと森だね!」

「そう。だから道に迷わないように、最初の内は街が見える範囲でしか森に入ったらダメだよ」

「分かった!」


 元気な返事でよろしい。

 

 そこから、僕とスズは転々と薬草の群生地を回る。

 たまに他の冒険者を見かける。

 スズはしっかり挨拶をする。偉いぞ、スズ。


 軽く話をして情報交換。


 魔物の出現度合いを聞く。


 どうもホーンラビットの異変以降、凶暴な魔物の数が激減しているらしい。

 代わりに草食獣が増えているとのこと。


 うむ、肉が安くなりそうだ。


「お肉、いっぱい食べられるようになるの?」


 スズが目をキラキラさせている。


 何か初依頼を片付けたら、焼肉でお祝いしてあげよう。


 少し日が傾き始めたので帰る。


 その帰り道だった。


「ノリくん……何かいる」


 スズに付き添って歩いていたので、いつもと少しだけ帰り道が違う。

 迷う程でない。


 ただ、大きな斜めの穴というか、地下に続く洞窟のようなものがあった。


 僕より少しだけ小さい穴。スズならしゃがむこと無く入れるだろう。 


「ブッブッブッブッ……ブブブブ!」

「マズい、ホーンラビットだ!」


 僕はスズに言うと、飛び退くように穴から離れる。


 スズの前に出て構えた。


 しかし、しばらく経っても、何も出てこない。


「スズはそこに居て。様子を見てくる」

「……うん、気を付けて、ノリくん」


 待ち伏せの可能性もあるので、穴の正面には立たない。


 穴の横から、手鏡を出して中を窺う。


「暗いな。光魔法発動」


 僕は光魔法Lv3を発動して、フラッシュライトで中を照らす。


 奥に真っ白な巨大毛玉がいた……。


 討伐情報どころか目撃情報すら無かったので、どこに行ったかと思えば……。


 僕はウサランスを穴の中心に構えて、中を覗く。


 ボスラビットは、僕を見るなりプルプルと震えていた。


「ノリくん? 大丈夫?」


 スズに軽く話しておくか。


「いつか僕が仕留め損なったボスラビットだよ」

「リリちゃんとエイちゃんが言ってたヤツだね!」


 なんだ知ってるのか。


「僕のことを怖がっているから害は無いと思うんだけど、ボスだしなぁ」


 僕がトドメを刺すかどうか迷っていたら、ボスラビットの方からやってきた。

 僕の持つ槍……元はボスラビットの角に、頬擦りしている。

 見れば体も痩せ細っており、毛並みもよろしくない……。

 不遇の扱いを受けているというのは本当だったのか。


「ねぇ、ノリくん。この子『もうニンゲン襲わないからユルシテ』って言ってるよ?」


「スズさん、魔物とお喋りできるんですか?」


「ううん、この子がとても頭良いだけ」


 マジかよボスラビット。


 でも魔物の言う事なんて信用できるか?


「えっとね、『体が大きいだけで、ボスにされた。もうナカマいない。ボッチ……もうツカレタ』だって。ノリくん、何とかできないかな?」


 嘘ではないのは衰弱した体を見れば分かる……。

 うーん、うーん。


 僕は悩んだ末に結論を出した。


「スズに変なことしたら挽き肉ミンチだからな?」


 ボスラビットは震えた。


「ほれ、穴の中に木の実やら野菜やら置いといてやるから。あと【ヒール】【リカバリー】」


 僕はボスラビットを助けることにした。


 ボスラビットは、涙しながら僕に擦り寄ってくる。

 よく見ると、新しい角がちょっと生えてきてるな。


「また明日来るから、ここで大人しくしてろよ? 他の冒険者に見つかったら、それこそお肉にされるんだからな?」


 僕は水魔法と風魔法でボスラビットを洗濯乾燥してやる。


 だいぶ毛並みがマシになった。


 ボスラビットは、ぴょんこぴょんこ跳ねながら、僕らを見送ってくれた。


「えへへ。ノリくん、ラビちゃん助けてくれてありがとね」


 ラビちゃんとは、スズが勝手に付けた名前である。

 文句はない。


 だって――。


「ラビの面倒は、ちゃんとスズが見るように」

「いえっさー!」


 スズのお供に、ラビを据えるつもりだから。

 しばらくは僕が調教してやるとしよう。

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