〜Side メリル〜

 娼館アーニィの事前情報の入手は困難でしたわ。


 なにせお姉ちゃん直属の諜報部隊がありませんの。


 実質私がその役目となっておりますわ。


 守りにはめっぽう強いのですが、攻めには弱いのです……。


 ノリさんとディークが夜食会から帰る時、尾行させてもらいましたわ。


 護衛にお姉ちゃんを添えて。


「久し振りに、こういう外出をするな。ふふふ」


 やる気満々のお姉ちゃんですわ。


 不用心? お姉ちゃんはA級冒険者のディークと互角です。

 不覚は取りませんわ。


 ノリさんを走って追います。

 馬車帰りとは言え、そんなに速くはありませんので、私の足でも追えますわ。


 そして、例の娼館に辿り着きましたわ。


 5階建ての立派な建物ですわね。

 何かあった際にも使えそうな建物ですわ。


 昼間に何度か通ったことはあります。

 付近に娼館や酒場の多い地区のせいか、通行人くらいしかいなかった記憶しかありませんわ。


 当時は昼間ゆえしょうがなかったことですわ。


 ん? バレないのかと?


 町娘スタイルはお手の物ですわ。

 お姉ちゃんは男装です。イケイケの傭兵スタイルですわ。

 これで変な男も寄り付きません。


 初めて夜に訪れましたが、知っている景色とはまるで別物でしたわ。


 男達が、金を握り締めて列を作っております。


「見た顔がいるな……騎士団長だと? ……今日は非番だったか……」


 騎士団長だけではありませんわ。

 近衛騎士も数名居ます。

 早速【心の読み耳】を使います。


『騎士団長も好きだねぇ。奢りで連れてきてくださるとは。だぁれにしようかなぁ』

『ぬるぬる、ねっとり、ラミネちゅぁん、でへへへ』

『体も洗えてサービス満点……ニーア様、今日も……』

『今宵はセピア殿空いておられるか……私も常連と認定された今、今日こそはセピア殿に!』


 はぁ〜ぁ、男はどうしてこういう生き物なのでしょうか?

 おかげで税収もがっぽりですので特にダメとも言いませんが、妻子のいる騎士もいますわよね?

 夫婦関係が上手くいっていないのか……カウンセリングが必要ですわ。


「……どうだ? メリル。大方の想像は付く。辛かったらいつでも言え。すぐに帰ろう」


 お姉ちゃんは優し過ぎます。むしろ、私に対しては過保護と言っても良いですわ。


「もう少し頑張りますわ。思ったより、良い情報を得られそうですので」


 この時点では嘘も混ざっておりました。しかしながら、アーニィ・マリィルートにやってくる他の娼館のオーナーにより、ノリさんや娼館の主の功績が判明しましたわ。


 やはり、他の娼館で発生していた『呪い』も、ノリさんが解決してくださっていました。


 ますます、ノリさんには良い褒章を考えねばなりませんわ。


 翌日。


 満を持して乗り込みます。


 朝方なら迷惑は掛からないでしょう。


 視察の詳細は割愛しますが……その……とてもよかったですわ。

 文献や聞くだけよりも、実際見て体験すると違いますわね。


 セピアさんのファンになってしまいました。


 お姉ちゃんがカノンさんを指名したのは驚きましたが――。


「男でなくとも……ぉぉ……これは気持ち良いな……」


 御満悦でしたわ。


 ノリさんに関するお話も聞きましてよ。


 どうも……他にも仲の良い女子がおられるようで。


 女癖が悪い訳では無さそうですが、お姉ちゃんのためにも要チェックですわ。


 帰りの馬車にて。


「メリル、どうだ? 全体的にだ」


 私は考えます。お姉ちゃんが何を求めているかを。

 心を読んでも、お姉ちゃん自身が分かっていませんから意味が無いですわ。


 だから、考えて、口にします。


「印象としては、皆さん、幸せそうでしたわ」


 サービスを受けた後、上から少し下の様子を眺めていましたの。

 ここ1か月は、和気藹々として、皆さんの笑顔の時間が増えたのですって。


「娼館のイメージとは掛け離れている。全ては、ノリがやって来てからだろう」


 私は頷きますわ。


「このままだと本当に思っていた。だが、ノリが何かをやってくれる気がする……いや、ノリをキッカケに、ウェスタリアそのものが変わろうとしている」


 お姉ちゃんの目には、光が見えます。

 しばらく消えていた希望の光が。


「騎士団にノリを見張らせる。目的はノリを陰ながら支えること。特にちょっかいを出してくる奴らは締め上げねばならんからな」

「賛成ですわ。それにノリさんの危機は娼館の危機ですし。常連の騎士に当たらせますわ」

「それでゆくか」


 私もお姉ちゃんも、思わず悪い笑みをしてしまいます。


 ふふ、ノリさんが、これから何をしてくれるのか、本当に楽しみですわ。


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※次回、翌朝7:00予定

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