第12話 公爵からの呼び出し

 足取りが重い。


 割り切ったつもりだったけれど、リリカちゃんの太陽スマイルが見られなくなるのはツラいな。


 カズに指定した時間となり、冒険者ギルドに帰る。


 あぁ、笑顔の眩しいリリカちゃんが見える。


 僕はもう幻が見えるまでになってしまったのか。


 幻であるリリカちゃんが、受付カウンターから抜け出して、僕にギュッと飛び付いてくる。


 幻に感触まで……行くところまで行ったな。


 今日はゆっくり休も――。


「良かったです。ノリさん、お帰りなさい。そして、朝はあんなひどいことを言って、申し訳ありませんでした!」


 あれ? 幻じゃない?

 リリカちゃんが僕から離れ、90度を越えて謝罪している。

 銀髪のロングヘアーが床に付いている。

 そこ替われよ、床。


 エイラもリリカの横に並び、深い礼をする。


「私も謝罪します。オババさんにはもう済ませたわ。本当に、ごめんなさい!」


 床に赤と白のロングヘアーがっ!?


 叩き壊して持って帰るぞ、この床めぇ!


 カズも出てきた。


「リリカ、エイラ共に心からの謝罪なのねん。どうか、私にも免じて許してやってほしいねん……」


 マジで? 何があったか知らんけど、神のお導きか?

 お祈りしよう。今だけは。

 神様サンクス、マジアーメン。


「謝罪を受け入れます。リリカさん、エイラさん、顔を上げてください」


 もちろん許す。

 しかし、顔を上げたリリカとエイラは、謝罪の前より泣きそうな顔をしていた。


 理由は分かる。

 2人の呼び方を変えていないからだろう。

 許していないと思っているのかもしれない。


 そんなことはない。ちゃんと許している。

 でも、僕は今回の事件を教訓に、公私混同しないようにと決めた。


 プライベートで会う時は、いつも通りだよ。


 と、これから説明しようとした時だった。


「こちらにノリ・ブラックシートはいるか!?」


 バンッと扉を開けたのは甲冑の騎士。ヘルムで顔まで隠れているが、声で男だとは分かる。


 カズが僕の腕を掴み、騎士の前まで進んで礼をする。


「私はギルドマスターのカズ。そしてこちらがノリ・ブラックシートねん。公爵閣下の近衛騎士とお見受けするねん」


 カズの目がギラリと光る。


「ギルドマスター直々の対応感謝する! ノリ・ブラックシート! レイヴァーン公爵閣下からの召喚状である! 今すぐ馳せ参じよ、とのこと! ご同行願いたい!」


 ついに来たか。

 しかも今すぐ?

 願いたいっていうけど、実質強制ですよね。


 カズの額には脂汗。僕の方をチラッと見る。


 僕は頷いた。


 そして日が沈みかけているにも関わらず、馬車に押し込められて出発した。


 城……というかもはや宮殿のような建物は、ウェスタリアのど真ん中にある。

 立地は丘の上であり、入口手前なのに、街が一望できる。

 日が沈んだ直後であり、まだ街はよく見えた。

 城の方で対空用大型バリスタがいくつも設置されているので、景観としては台無しだけどね。


 正門を潜れば橋。堀に水路もちゃんと整備されている。


 城塞都市というだけある。


 これだけ堅牢なら、敵が3倍の兵力を用意しても落ちることは無いだろう。

 大砲はあるが、ミサイルや機関銃は無いな。


 やっぱり時代は中世か。

 魔法があるから、運用次第では先進国の1つとなら張り合えるかな?

 アメリカとは絶対張り合えんけど。


 対現代地球を妄想していたら、あっという間に着いた。


 馬車を降りて、近衛騎士の後ろを歩く。

 早足で。


 騎士の反応を見る限り、相当急かされているな。


 そして、謁見の間の前に着く。

 でっかい大扉が目の前にある。


 僕の身長の3倍はあるぞ?

 誰がどうやって開けるの?


「本来なら、事前に礼や作法を叩き込むのだが、今回は特例である。レイヴァーン公爵閣下直々に、『そんなのどうでも良いから早くしろ』との御達しだ。礼だけは失してくれるなよ? 噂を聞く限り大丈夫だとは思うが」


 案内してくれた近衛騎士が心配そうに声を掛けてくれる。

 思ったより良き人……じゃなくて噂って何なのですかねぇ?


 聞こうとしたら、大扉が勝手に開き始めた。

 魔法の力で開くのか。


 甲冑騎士は、逃げるように去る。

 近衛騎士なのに公爵の側にいなくて良いのかな?


 僕は向こうが見えそうになる前に浅く礼をして、扉が開き切るのを待つ。

 そして顔を上げて、歩き始める。


 豪華絢爛な装飾にも、外の壮観美麗な景色にも、僕の目は向かない。


 玉座の前に立つ赤いドレスの女性がいた。

 その横にも桃髪の白ドレスの女性がいたが、目に入らない。

 腰まで伸びる真紅の艶髪。

 それに負けない深い紅の瞳が、形容し難いくらい美しくて――。


 僕は御前で自然と片膝を付き、頭を垂れた。


 一言よろしいでしょうか?


 公爵、めっちゃかわわいいい。


 危うく僕の脳みそがバグるところだったよ。

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