〜Side カーズゥ〜

 我が名はカーズゥ・グッドビートなのねん。


 朝っぱらから大事件なのねん……。


 最初から最後まで聞いた訳ではないのねん。


「今日、特別な依頼を用意しておきました。これで死んできてください……この犯罪者」


 これは聞こえたのねん。


 看過できる訳が無いのねん。


 事情を知っていそうなエイラも連行するのねん。


 話を聞く。


 ノリが仮に犯罪者だった場合、問題がある。


「ノリが娼館の一室で暮らしていました」

「ノリが娼館の女の、その娘を自分の部屋に呼んでヤッてたわ」


 ソレどういう状況ねん……うらやまけしからんねん。


「その娘とやらは、嫌がっていなのねん?」


「私も詳しい状況までは……エイラ」

「その娘は、自分でノリの部屋に入って、自分でベッドに入っていたわ……」


 娘の年齢が不明ではあるが、あのオババが不法行為を犯すとは考えにくいねん。

 住み込みなら成人年齢に達しているはずねん。


 聞く限り、娘も行ってるねん。


 そもそも、ディークの行きつけの娼館で、犯罪行為が見過ごされる訳が無いのねん。


 ディークに話を聞く必要はあるねん。


 だが、現状は圧倒的なのねん。


「ノリが娼館の一室で暮らしていると言うことは、侵入したのねん?」


 ……エイラは黙って頷く。

 我、頭を抱えるねん。


「リリカ、先程の発言は職務放棄であり、ハラスメント処罰対象になることは理解しているねん?」


 ……リリカは頷く。


「現状、ノリは一つも悪いことをしてないねん。リリカは処罰対象、エイラは犯罪行為ねん。どの口でノリを侮辱するかぁあああ!!!!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 ビクリと震える2人。


 監督責任は我にあるねん。


「少なくとも、謝罪するねん。エイラは後で一緒に娼館に行くねん。一緒に謝るねん。オババも話の分からん方じゃないねん。逆に謝罪に行かないなら、法的処罰だけじゃ済まないことになりかねない」


 冗談抜きの大真面目ねん……。


 エイラは震えた声で言った。


「……ご、ごめんなさい……」

「私も、すみませんでした」


 リリカも謝罪してくるねん。


「謝罪する相手が違うねん。ノリに謝りに行くねん」


 そう言うと、2人の顔付きが不満に変わる。


 あからさまに不機嫌な顔になりやがったのねん。


 ……男に変な夢見てるっぽい2人ねん……。


 ノリには悪いが、2人のためにも、その幻想はぶち壊すに限るねん。


 2人の首根っこを掴んで、ノリの前に立たせたねん。


 だが、どうして、ノリが退会するねん。


 ノリの言い分は、まさにこの西ギルドを想ってのことねん。

 リリカとエイラは、事情が事情だけに辞めさせられないし、謹慎も厳しいねん。


 だから、ノリの選択は、西ギルドの運営にとっては最上の行動なのねん。

 

 退会届は、法的に怪しいが一時預りにしたのねん。


 ノリは最後に、2人に礼を言い、去ったねん。


 2人に悪びれる様子は無いねん。

 むしろ、せいせいしたと言わんばかりねん。


「あーあー! せっかくの相棒が辞めちまったなぁ! だぁれのせいだぁ!?」


 ディークが2人に迫るねん。

 ただ、それは我が阻止するねん。


「どの口が言ってるねんディーク! お前のせいで辞めた冒険者、1から言ってやろうかねん!?」

「ぐぅ……」


 良いグゥの音が聞けたねん。

 少しは反省するが良いねん。

 ただし――。


「ディーク、ノリの話を聞かせるねん」

「ここで良いな?」


 ディークは、ギルドロビーの真ん中に、椅子を4つ並べたねん。


 全員に聞かせるつもりかねん?


 ……時と場所は弁える男ねん。


 乗ってやるねん。


 リリカとエイラも座らせる。


 そして、事の顛末を聞いたねん。


 リリカとエイラは、顔を青くして、俯いてしまった。


 ノリが『呪いの薔薇』で壊滅寸前だった娼館を救い、命の危機に瀕した親子を救った話を聞いて。


「ディーク、そんな重要な話、どうして黙ってたねん……」

「いや、『呪いの薔薇』だぜ? ノリ曰く、薬を量産してオババ経由で他の娼館にも配ってるって話だ」


 ……待つねん。それは――。


「公爵閣下の耳にも入ってんだろ。ノリはそれを承知で、少しでも実績の方を上げるつもりだ。『呪いの薔薇』含む他の呪い性病をもこのウェスタリアから撲滅させる気らしいぜ、本気でな」


 不治の病の一種である『呪いの薔薇』を打ち払うだけでなく、それ以外も?


「待つねん、ノリにメリットが無いねん。それで金を稼ごうという訳でも無いねん?」


 ディークは組んだ足をテーブルに乗せ、天井を見上げて言ったねん。


「大厄災【魔王の檻】に対処するには、冒険者だけじゃなく、騎士団、そして街に生きる全ての者が健康であるべきだ、それが『僕のメリット』だとよ」


「……まるで【勇者】の思考ねん。まさか――」

「ノリは勇者じゃねぇ。今はな」


 ……そういうことにするねん。


「はぁ、忙しくなるねん……」

「だな」


 我の溜息にディークもやれやれと言う顔をするねん。

 最後に、ディークが体を起こして言う。


「だからオババのところへ行くなら今すぐに行け。そして、これは俺として、とてつもなく不本意な話ではあるが――」


 まだ何かあるねん?

 ん?


 リリカとエイラに顔を近付けて……何言うねん?


「娼館暮らしを始めて1か月、ノリは未だにどのお嬢も抱いてねぇ」


 ……ウッソねん、ノリ。それはウソねん……。


 リリカ、エイラ、なんで食付き気味に復活するねん。


「ついでに言っておく。ノリに対し、オババからお嬢共へは、いつでも無料で1発オッケーと言われている。だが、誰にも手を出していない。お嬢どもは忙しい中でもノリに怒りを覚え始めている」


 ん? なんか不穏な空気なのねん?


「『タダで抱かせてやると言っているのに来ない? そんなに魅力が無いのか』ってな。お嬢共はプライド高ぇからな」


 ぉん? ノリ、実はモテモテなのねん?

 まぁそりゃモテるねん。

 男側から見てもノリは優良物件ねん。


「ま、言いたいことはアレよ。ノリが女に襲われ……ゲフンゲフン、女を作るのも時間の問題。ノリに惚れてる嬢が……悔しいことだがマジで多い。ま、正直、お前らじゃ勝てないかもなぁ?」


 うらやましっ! が、煽り過ぎねんディーク!


 リリカとエイラの頬がプックプクに膨れ――。


 良いぞディーク、もっと煽るねん!


 リリカとエイラは同時に立ち上がった。


「マスター。大変お手数ですが、娼館へ案内をお願いします」

「マスター、私が全面的に悪かったです。心から謝罪します。ノリにも、娼館の主にも、謝りたいと思います」


 明らかに目付きが変わったねん……。


 不純な動機な気もするねん……。あとは、やることやるだけねん。


 オババか……久しぶりに会うねん。

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