第11話 冒険者ギルド退会届
リトルマイエンジェルというか、僕の最推しだったリリカから、開口一番に言われたこと。
「人間のクズ、キモいです。どんな顔してここに来たのですか? 半径250cm以内に近寄ってこないでくださいますか?」
え? 昨日の今日でどうしたんですか?
と、聞く間も無くである。
「今日、特別な依頼を用意しておきました。これで死んできてください」
そしてグシャグシャに丸められた依頼書を投げ付けられる。
そしてボソッと言われた。
「この犯罪者」
怒りとか絶望とかの感情の前に、なんで? という疑問で頭がいっぱいになる。
あまりの剣幕に、みんなの時が止まる。
エイラだけである。普通に動いているのは。
僕のことは存在していないかのような扱いだけれども。
ギルドマスターであるカズの耳にも当然入り、呼び出しを食らうリリカ。
エイラも付き添いで奥に消えた。
そして一斉に始まるヒソヒソ話。
僕は何のこっちゃとなりながら、グシャグシャに丸められた依頼書を広げてみる。
森で1年間、穴を掘っては埋めてを繰り返す依頼書だった。罪人かな?
下にメモ書きもあった。
『ロリコン犯罪者様へ。ギルドがお世話になったので通報だけは勘弁してあげます。早々に自首してくださいね』
何の事か、少しだけ分かった気がしたぞ……。
そこに、バァンと扉を叩き開ける師匠がやって来た。
「……手遅れだったか……すまねぇ、寝坊した」
師匠が謝るなんて、今日は槍でも降るんですかね?
まぁ、僕の天使は堕天しましたが。
「本当は昨日の内に言っときたかったんだが、オタノシミだったみたいだしな」
「いや全然お楽しみじゃなかったですが」
「親子丼じゃねぇのか?」
「してないからぁ! 待ってコッチってそれ普通の考えなんですか師匠!?」
「……カノンからも何も聞いてねぇのか?」
「起こすもの悪いと思いまして……」
カノンさんも事情知ってたのか……。確かに朝起きたら隣のベッドで寝ていたけれども。
でも、まずはだ。
「師匠、知ってる事情教えてもらって良いですか?」
「おうよ」
そして聞いた。
防犯カメラの内容も聞いた。
エイラが僕を追って娼館に不法侵入したようだ。
それで僕の部屋の表札と、スズが入っていったところと、ニーアの【影見絵】で――。
「そりゃ誤解が誤解を生む最悪の展開ですわぁん!」
とりあえずニーアはお仕置き確定だ。
オババも許してくれるはず。
「俺からも説明は入れるが……厳しそうだな……」
師匠は奥の暗黒オーラの漂う部屋を見る。
僕は溜め息を1つ。
「はぁ〜。まぁ僕も娼館暮らしになっている事情を伝えなかったですし」
「それは違ぇだ――」
僕は師匠を手で制する。
多分、師匠が口添えをしたらエイラとリリカに処分が
こう見えて、僕は説明書をしっかり読む派である。
ギルド規約や法律も大雑把ではあるが勉強済だ。
この国の法律では獣人は10歳、人間は15歳、エルフは18歳等など、種族によって成人年齢が定められている。ハーフは年齢の低い方に定められる。クォーターからは血の濃い方だ。
……あれ? カノンさんもハーフ、スズもハーフだよな? クォーターじゃない……。ハーフ同士の子供か?
ともかく、スズもハーフと聞いているし、スズもアーニィ・マリィルートの従業員だ。そうでなければ、そもそも娼館に住み着いたら犯罪になる。
住み込みで働けるのは成人年齢に達した従業員だけだから。
まぁつまるところ、仮に僕が手を出したところで犯罪ではなく、問題になるのはエイラの行動とリリカの言動となる。
不法侵入と、ハラスメント……というか職務放棄だ。
「ノリ、何か考えてんのか?」
「一応は。師匠。師匠は、いつまでも師匠ですからね」
「いきなりなんだよ……お前、まさか」
ポッと頬を染めんな気持ち悪い。
僕はテーブルでサラサラっと3通の手紙を書く。
2通は破られる覚悟でリリカとエイラに謝罪と感謝の手紙を、もう1通は――。
ソレを書き終えたところで、恐ろしい剣幕のカズが、喧嘩で負けた猫みたいになっているリリカとエイラの首根っこを掴んでやってきて、僕の前に立たせる。
「先程は言い過ぎました。申し訳ありません。今後、職務中にこのような発言は控えます」
「余計な真似をして申し訳ありませんでした。なんで私まで……」
リリカはともかく、エイラはとばっちりだしね。
文句を言いたくなる気持ちも分かる。
だから、僕は手紙を差し出した。
「謝罪は受け取ります。そしてリリカさん、エイラさん、2人には感謝と謝罪の手紙を書きました。後で破り捨てていただいて構いません。今は懐にお納めください」
ますば2人に渡した。
受け取りたくないと顔に書いてあるが、状況が状況なだけに受け取らざるを得ないだろう。
そしてカズにも渡す。
「カズ、今までお世話になりました。『冒険者ギルド退会届』となります」
僕の言葉に、ディーク以外の面々は驚きの反応を起こす。
「ま、待つのねんノリ! この件、悪いのはリリカとエイラだけでノリは全く悪くないのねん!」
「それでも二人がいなくなる損失の方が大きいでしょう?」
「それよりノリがいなくなる方が――」
僕はカズの口を塞ぐ。
「師匠と共に依頼は続けます。他の冒険者ギルドに所属して、同時に依頼を受けます。師匠が依頼を受ければ、僕の依頼のついでに師匠の依頼を手伝っても問題ないですよね?」
つまり、所属を変えるだけである。
いわゆる配置転換と言うやつだ。
人間関係のトラブルがあった時、これが1番よく効く。
「確かにそれで損失は無くなるのねん……でもっ! ……分かったのねん……但し、この退会届は一時預かりにするのねん! しばらく様子を見させてもらうねん!」
「それで構いません。ではこちらも、しばらくは受付嬢にリリカさんとエイラさん以外をあててもらっても良いですか? 僕は基本的に人の嫌がることはしたくないので」
「……分かったのねん。でも、時間的に難しい場合があるのねん」
「朝8時から10分、及び夕方5時から10分だけ。それでも厳しいですか?」
「……できるねん……対応するねん」
ふぅ。これで問題はほぼクリアかな。
あとはそうだ。
僕は
そして、リリカとエイラに90度の礼をする。
その後、顔を上げて言った。
「今までありがとうございました。リリカさん、エイラさん、さようなら」
そして、僕は去った。
師匠の怒鳴り声が聞こえた気がしたが、カズがおさめてくれるだろう。
娼館暮らしなんだから、こういうトラブルは遅かれ早かれ起こるとは思っていた。
僕も妻になんて説明しようかと迷う。
殴られようがナニされようが、話を聞いてもらうしかないんだよなぁ。
話を聞いてもらえる状況に持って行けるかが鍵。
話すら聞いてもらえなければ、それまで。
残念ながら、リリカとエイラのあの顔はダメだろう。
僕のことを、生理的に受け付けなくなったというヤツだろうから。
男の僕にはあまり共感できない感覚だけれど『そうなってしまったら基本的に二度と感情はプラスに戻らないと知れ』というのが妻からの教えだ。
悲しいことだが、仕方ないと思える僕がいる。
なぜ?
後悔していないからだ。
カノンさんとスズを助けた。
それだけは、絶対に後悔しない。
そう思って、今日も西門から素材集めに奔走した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます