〜Side エイラ〜

 ノリ・ブラックシート。


 二十代半ばに見えるけれど、詳細は不明。


 リリカさ……じゃなくて、リリカのお気に入り。


 あんな鼻伸ばしてるヤツのどこが良いんだか。


 まぁ確かに、依頼はサクサク片付けるし、こっちが忙しい時は手短に用件済ませてくれるし、お世辞とは言え会う度に褒めてくるのも忘れないし、しつこくないし、他の男よりマシに見えるのは間違いないわ。


 ただ、あくまで見えるだけ。


 男なんて、しょーもない生命体なのは真理よ。


 それを暴いてやることにしたわ。


 ディークに連行されて娼館に行ったことくらいは知ってるわ。


 リリカも、付き合い程度なら普通、とは言った。

 目がピクピクしていたけど。


 これはチャンスと思い、張り込んだわ。

 この1か月。

 娼館アーニィ・マリィルートにね。


 私、こう見えて、火と光魔法が得意なのよ。


 高位光魔法を発動する。それは【光視】よ。


 闇魔法を見破る魔法。これを取得している者は中々見ないわね。間者を見抜けるから、お偉方が囲うそうよ。


 改装工事中から、やたらと出入りするノリ……。


 工事が終わっても出入りするノリ。


 行列ができる娼館なんて初めて聞いたし、初めて見たわ。


 ノリが絡んでるの?

 というか、ノリってここに住んでるの?


 本当はやりたくないんだけれど、私は意を決して侵入する。

 確証が欲しかったから。


 ノリは娼館の裏口から入った。

 1時間待っても出てこない。


 その裏口から入る。

 認識阻害魔法が掛かっていたわ。

 ノリを見ていたから気付いた。【光視】が無かったら分からなかったかもね。


 誰もいない部屋……。

 そこからロビーを覗く。

 むさ苦しい男共が、ウジャウジャ。虫酸が走るわ。


 隙を見て階段を上る。

 人の気配がほぼ無い5階から階下を見下ろす。


 改めて内装を見る。


「綺麗な場所ね。宮殿みたい……」


 お世辞じゃなくて、本当にそう思った。


 下から声が聞こえるわ。


「ママ。ノリのところ。いってくるね!」

「ノリ様の言う事をちゃんと聞くのよ?」

「はいはーい」

「返事は1回!」

「はーい」


 親子の会話?

 なんで子供が娼館に?

 それに、なんでノリ?


 いや、そんなまさか。


 さすがにソレは無いと思う。

 思わせて。

 大丈夫……よね?


 黒い犬耳と尻尾を大きく振りながら、少女は5階の部屋に入る。

 私には、気付かなかった。


 5階の部屋の前に立つ。


 表札があった。


「なんで、ここに『ノリ・ブラックシート』って表札があるのよ? ん? この表札……細工がしてある」


 光魔法の【光視】を発動したままの私は、表札の裏に細工がしてあるのを見つけてしまった。


〘おニューの【影見絵】を設置したにゃ。好評価、レビュー、お待ちしているにゃ〙


 …………。覗きスキル? なんで?


 偽物かもしれないと思い、覗き込む。


 先程の少女の影絵が、キョロキョロして……ベッドに潜った? なんで?


 ハッ、階段を急いで上ってくる音がした。


 私は階段の裏手まで戻って隠れる。


 ノリが慌てた様子で駆けてくる。そして、部屋に入った。


 ……嘘でしょ?


 ノリ、ちょっとでも、私はあんたを信じたの。


 リリカだって、あんたを信じてた。


 私は、ダメだと思っていても、体が勝手に動いていた。


 表札の【影見絵】を起動する。


 そこには、ベッドにいる少女に襲い掛かるノリがいた。


 私は階段を駆け下りた。


 誰かに見られて、声をかけられた気がした。


 ディークもいやがったわ。


 でも、あんまり覚えていない。


 そして、私はリリカの前に居た。


 全部喋った後、ハッと我に返った。


 歯の根が合わない。カチカチと、私は震える。


 笑ったリリカの笑顔。


 誰が見ても怒ってるって、分かるから。

 

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