〜Side ディーク〜

 このF級……大物だった。


 A級冒険者になって久しいが、これだけ動けるA級なんて数える程いねぇ。


 それこそ、【勇者】くらいなもんだ。

 まぁ勇者はこんなもんじゃねぇが。


 森の中を全力で走って俺についてこれるだけで立派なのに、そこからほとんど休憩無しでダンジョンに入りやがった。


 俺は行くと言ったが、休憩の後に入るつもりだった。


 本来なら、止めていた。


 だが、すでに息を整えてやがった。


 だから、俺は後ろをついて入った。


 ……特殊ダンジョンだった。


 奥に部屋が1つだけあるタイプだ。


 閉じ込められて、全ての魔物を倒さねぇと出られねぇ。


 俺だけなら何とかなるが、コイツを守りながらだと、ちと厳しい。

 まぁ冒険者の運命だと、最悪割り切る覚悟をした。


 だが、なんだよコイツは?


 角みたいなでかい槍を、片手で突いて振り回して、ほぼ一撃で魔物を塵に変える。


 そんな芸当、俺にだって出来ねぇ。

 両手剣で、オークの首に上手く当たりゃ一撃ってのにだ。


 俺は完全に立ち回りを変える。


 俺の背中を、昨日からマークしていたとは言え他人に預ける。


 ふっ、体が軽くなったように感じたぜ。


 特殊ダンジョンを無傷でクリアしたのは初めてだ。


 生成してからそんなに日が経ってないことも幸いしたか。

 放っておけば、魔物が溢れ返る災害……スタンピードだ。


 街も近い。被害は両手じゃ数え切れねぇことになっただろう。


 しかしなぁ、俺の相棒は……未来の勇者様だとはな。


 迷ったが、ノリには真実を話すことにした。


 王命だが、公爵閣下の命令でもあるからな。


 俺はどっちかってーと、公爵寄りだ。


 ダーキッシ王のことは……言っちゃ悪いが、そんなに信用してねぇ。


 だからノリには【隠蔽付与】をかける。


 これで俺以上に強い奴の【看破】でしか見抜けなくなった。


 半年探し回って全然見つかんねぇのに、諦めて戻ろうとした途端に見つかるたぁな。ホーンラビット巨大種を一撃で屠る男を。


 世の中、上手くできてると思うぜ。


 さ、金もたんまり手に入った。


 久々に飲んで食って、女で遊ぶぜ。


 閣下への報告は……もう少し先で良いな。

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