第5話 いつか勇者となるオマエ

 師匠、ディークからこの世界『ヴァルファリア』について説明を受ける。


 僕は今『ヴァルファリア』の『バンダルギア王国』にある西端の『城塞都市ウェスタリア』にいる。


 何となく理解する。


「その様子だと大厄災も知らねぇな?」


 僕はすぐに答える。


「神様から【魔王の檻】だけは聞きました。【魔王の檻】より出てくる魔王を倒せと」


 ディークは驚いた顔をした。


「【神託】まで受けてんのか……」


 神託? まぁ自称神様だったから、神託と言えば神託なのか……うーん。


「とりあえず他の大厄災だ。【魔神の足】【八龍の宴】は最低限の犠牲こそあるが、抑え込めている。それこそ嫌でも耳に入ってくんだろ。知りたきゃ自分で調べろ」


 説明せんのかい!

 いや、説明されて変なフラグを建ててもらっても困るか。

 敢えてツッコまないでおこう。


 だから、別のことを聞く。


「これから、僕はどうなるんです?」


 師匠は黙る。

 悩んでいる様子だ。

 

「ダーキッシ王からの密命では、勇者候補を見つけたら即座に報告しねぇとダメなんだが、一旦公爵閣下に上げる」


 ん? 大丈夫かな? それ、命令違反では?


 僕がそんな顔をしていたんだろうね。


「王命では即報告なんだが、公爵閣下からはまず閣下に上げろって命令が来てんだよ……」


 んん? なんでそんな不思議なことに?


「公爵閣下、怖ぇんだよ……」


 マジで?

 師匠も十分おっかないけど、その師匠が恐れ慄くってどんだけ?


「……失礼なこと考えてる顔だなぁおぃ?」

「いえいえそんな滅相もない……」


 心を読まれた?

 いや、顔に出ないように鍛えなきゃ。


「とりあえず【看破】持ちには今のままだとバレるからな。【隠蔽付与】をする。それでバレるこたぁねぇだろ。俺より強いヤツなんて早々いねぇ」


 師匠より強い奴に【看破】を使われるとアウトらしい。


「しばらくは俺と同行する形で依頼をこなせ。簡単なやつなら一人でやっても良い。冒険者ランクを上げた方が、俺と一緒に動いても不自然じゃねぇからな……付与が終わった。見てみな」


 師匠に言われてステータスを見る。


ノリ・ブラックシートLv39

STR99、AGI27、INT50、VIT1、DEX1。

火魔法Lv3、水魔法Lv3、土魔法Lv3、風魔法Lv3、錬金術Lv3、光魔法Lv3、闇魔法Lv3、雷魔法Lv3、【ヒール】【リカバリー】アイテムBOX(保冷無)、薬師、【隠蔽付与】【異界からの導き手】【??勇者】


 逆に視えちゃってませんかねぇ?


 とはさすがに言えない。


 僕だけにしか見えなくなったんだろう。


「つー訳だ。これからヨロシク頼むぜ。アイテムBOX係、いや、弟子よ」


 こんのやろー!

 荷物持ちとしか見てないなぁ!?


「冗談だ。いつか勇者となるオマエには、俺を軽く飛び越えてもらわねぇとな。厳しくいくぜ?」


 ……どうあがいてもスローライフは無い。


 まぁ、僕としても魔王を討伐して、地球に帰る。


 それが目的なのだから、問題ない。


 僕は手を差し出した。


「これから、よろしくお願いします。師匠」

「おうよ、ノリ」


 固い握手を交わした。


 そこまでは良かった。


 でもさ、真夜中に街へ帰って来るなり、これだよ。


 騎士団の詰め所でアホみたいな報酬を貰った直後である。


「さぁノリ! 娼館に行くぜぇ!」

「いやいきなり娼館て……ぐえっ」


 残念だが、僕は逃げられなかった。


 ごめんねと、妻と娘に、呟きながら、僕は首根っこを掴まれて、引き摺られていった。

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