第4話 森のダンジョン

 街を出るなり、いきなり走らされた。


 何とかついていける速度だ。


 ディークが定期的にチラ見してくる。


 僕がちゃんと付いてきているか確認しているようだ。


 親切心ではない。


 逃げるなよ? という鋭い視線だ。


 正直、逃げようと思えば逃げられる……。


 でもダンジョンには興味がある。


 A級冒険者と一緒なら、多分死ぬことは無い。


 と、僕は必死に走りながら甘いことを考えていた。


 3時間、森の中を走って、そこに着いた。


 大きな木で組まれた門と、下へと続く階段があった。


 甲冑を着た騎士の方々が周囲に陣を張っていた。


 その中の一人が、ディークに駆け寄る。


「A級のディークさんですね。騎士団の詰所より連絡は受けています。そちらは……同行者ですか?」


 僕は軽く頭を下げる。


「おうよ。街からここまでぶっ通しで走れるくらいの実力はある。新ダンジョンなら、まだ育ってねぇだろ。一緒でも問題ねぇ」


「ホーンフォレストを走り抜ける……分かりました。同行を許可します。中の様子はまだほとんど分かっておりませんので、お気を付けください」


「問題ねぇ。それも込みで依頼だ。行くぞ、新入り」


 ディークの言葉に、僕は溜め息を吐きながらも、心を踊らせてダンジョンに足を踏み入れるのだった。


 ディークは両手剣を肩に担ぎ、僕の後ろから階段を降りてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 いや、死ぬ!


 骸骨やらゾンビやら、ゴブリンからオークまで、1時間くらいずっと戦っている。


「気合い入れろ新入り! ここを生きて出られたら、奢りで娼館に連れてってやる!」


 変なフラグを立てるなよ!


 というかダンジョンってさ、もっと迷路みたいな感じでさ、宝箱とか、罠とか、色々あるイメージじゃん?


 階段を降りた先には、体育館みたいな大部屋しか無かったの。


 しかも入ったら扉がガッシャーンって落ちてきて閉じ込められるし。


 入ってきた場所以外の3方向の扉が開いたと思ったらモンスターハウスですよ。


 僕はウサランスを薙いでスケルトンを吹っ飛ばす。


 二メートルくらいのオークには、頭に一発ウサランス。


 ゴブリンがウサランスを掻い潜ってくるけれど、槍を持っていない左手で軽くグーパン。それでゴブリンは塵になって消える。


 ここの魔物を屠っても死体は残らない。

 残るのは核となる魔石だけだ。


 ダンジョン仕様みたいだね。


 ディークも両手剣を振り回してモンスターを圧倒している。


「ハッ、新入り。俺の背中を任せられるヤツは久々だ。名前を、聞いてやる」


 上から目線なのは腹が立つけれど、最初は強そうなモンスターを受け持つような立ち回りを見せていた。


 A級というのも納得の強さだし、何となく気遣いも見えた。

 口と態度だけが悪いヤツなのかもね。


「ノリ・ブラックシートだよ」

「よし、ノリ。お前には俺を『師匠』と呼ぶ権利をやろう。喜べ、貴重な権利だぞ?」


 僕は一瞬迷ったが、ディークのことを師匠と呼ぶことにした。


「はいはい、師匠師匠」

「師匠は1回で良いだろ!」


 ディークから学ぶべきことはそれなりにある。

 何より、いつかディークより強くなって、僕より弱くてまだ『師匠』で良いんですか? と煽り散らしてやる。


 不純な動機くらい混ぜても良いでしょ?

 だって今後の面倒事を考えればやってらんねーもの。


「ノリ……何か悪いこと考えてねぇか?」

「そんなことはないですよ、師匠。そんなことより、次も来てます。あと1時間くらいで、終わってくれるとありがたいですね!」


 僕はウサランスでゴブリンを3体まとめて突き刺して屠る。


「言うじゃねぇか。へばるなよ! ノリ!」


 そうして……2時間後、全てのモンスターを狩り尽くし、ようやく外へ脱出できたのだった。


 宝箱?


 そんなものは無かったよ!

 僕の希望を返せ!


 でも、レベルが39まで上がったくらいかな?


 STR99、AGI27、INT50、VIT1、DEX1。


 ここからは敏捷さに振っていく。


 師匠が騎士団の方々と話している間にスキルもゲットだ。


 ヒールに次いでリカバリー取得。これで状態異常も大丈夫。

 今まではどうしてたって?

 錬金術で薬合成。

 薬も効くんだけど、効果が遅いからね。


 薬の知識はあるのかって?


 こう見えて、僕は薬剤師だったのだよ。

 主要な抗生物質くらいなら、構造式も頭に入ってるさ。


 でもでも、そんなことよりも!


 全属性魔法をレベル3まで取ったら『アイテムBOX(保冷無)』が取得可能になっていた。


 迷わず取る。即決だ!

 異世界転生ド定番の『鑑定』はもうあるからね。

 だって鑑定無しじゃ森に生えるキノコとか木の実とか食べられないじゃん?


 僕は早速周囲の草花を鑑定でチェックし、ポーションや薬の材料を掻き集める。


 アイテムBOX……軽トラックくらいの容量だな。


 レベルが上がれば増えそうだし、保冷機能も付けば野営が楽になるぞ。


 いや、ちょっと待って。


 ……なんで森で生活する前提のスキル構成になってるんですかね?


 まぁキャンプは好きだけどさ。


「ノリ、ナニやってんだ?」


 師匠に毒キノコでも食ったのか的な心配をさせてしまった。

 師匠に心配をかけるなんて弟子失格。今度毒キノコでも盛ってやろう。


「師匠、もう良いんですか?」

「あぁ、帰るぞ。少し南に行けば街道に出る。騎士団様の馬車で凱旋だ」


 ウェスタリアの西門から出て、無我夢中で走っていたから方向感覚が狂っているんだよね。


 今、この場所が地図上のどこかも分かっていない。


 だから、帰りが馬車と聞いてホッとした。


 豪華とは言えないが、八人を収容できる馬車に、師匠と二人で乗る。

 広く使えるのはありがたい。


 馬車が動き始める。

 そして、師匠は口を開いた。


「ノリ。俺にだけは真実を話せ」


「な、なんのことですか?」


 いきなり過ぎて、何のことだか本当に分からない。


「『魔王のせいで、故郷を消され、散り散りにされた』ってな。聞くやつが聞けば嘘だって分かる」


 ……いや、嘘を見抜かれたことはまだ良い。良くないけど。


 それより問題は、なんで師匠がそれ知ってんの? である。


 リリカとエイラにしか話していない内容だし、ギルマスであるカズの耳に入っていても不思議ではない。


 でも、久しぶりに戻ってきて大した会話もしていない師匠が知っているのは、流石に辻褄が合わない。


 師匠は頭を掻きながら言った。


「本当は密命なんだが、どうもノリは関係者らしいからな。俺には【看破】のスキルがある。相手のスキルや称号が見えるんだ。『鑑定』じゃ見えねぇ。『鑑定』の強力なヤツだと思え」


 嫌な予感しかしない。

 僕はステータスオープンする。


 でも、そこにはレベルと各種ステータスと魔法レベルと取得したスキルしか表示されていない。


 こんな感じだ。


ノリ・ブラックシートLv39

STR99、AGI27、INT50、VIT1、DEX1。

火魔法Lv3、水魔法Lv3、土魔法Lv3、風魔法Lv3、錬金術Lv3、光魔法Lv3、闇魔法Lv3、雷魔法Lv3、ヒール、リカバリー、アイテムBOX(保冷無)、薬師。


 お、薬師が追加されている。

 これは薬の合成が捗りますなぁ。


「……やっぱり視えてねぇのか……」


 師匠が頭を抱えている。

 何か、僕は見落としているのか?


「いや、それだけでも情報になる。今後は見つけやすくなるだろ」


 いや、なんか一人で納得されても困るんですが。


「【看破】でな、恐らくだが……ノリが視えてねぇ称号も、俺には視える。【異界からの導き手】と【??勇者】の二つがな」


 は?


 さすがの僕も、頭が真っ白になった。


 でも、師匠はやっぱり師匠で、師匠と呼ぶことにして良かったと、本当に思えたんだ。


 だって、僕のこれからの運命を、変えてくれた人だから。

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