〜Side リリカ〜
私はエルフの女の子、リリカです。
エルフですが、まだ18歳です。
長命なので、よく外の方からは桁違いの年齢を言われることがあります。
でも、成人したばかりのピチピチ18歳です。
公爵閣下がクォーターエルフという縁もあって、人間の都市がどういうものかを実地で勉強させてもらうことになりました。
馬車に揺られてゆーらゆら。
付き人として幼馴染のエイラが一緒なので旅行気分です。
エイラは気が気じゃないみたいですが。
私がモテモテらしいので、苦労するとのこと。
男性経験が皆無なことは認めますが、当然抗議しました。
だって、エイラの方が私より可愛いからです。
言葉はちょっとキツめですが、思い遣りのある元気で優しい子なんですよ?
ちょっとした事件もありました。
もうすぐ街だというところで、馬車が急停止します。
ホーンラビットの巨大種と人が戦っています。
1対1? パーティーの方は、どこでしょうか?
ふぇ!? 蹴り上げた。落ちてきたところに、一撃。
ホーンラビットの角を折った!?
きょ、巨大種を撃退してしまいました。
B級の複数パーティーで討伐にあたるレベルと聞いたことがありますが……単独で……。
すごく強いお方。
でも、服がボロボロで顔には大怪我。
どれだけ激しい戦いだったのでしょう。
心配で思わず馬車から出てしまいましたが、自分でヒールを使えたようです。良かった。
馬車で少しお話しました。
男の方が苦手なエイラですら興味津々です。
最初に失礼なことを言っていたエイラは、後でこってり絞ります。
お話を聞くと、魔王の影響により森に飛ばされ、記憶も混濁しているとか。
まさにお伽噺の魔王です。
大厄災【魔王の檻】はもう始まっているのですね。
お金も無いということで、街への入場許可証料金を立替えました。
綺麗な布のタイです。
500ゼミーは安かったかもしれません。
そして、何より想いが込められています。
そんな大事な物を差し出すのですか? と聞きたい気持ちに駆られましたが、優しく力強いその微笑みを見て、無粋なことを聞くのは止めました。
大事にさせていただきますね。
お別れの間際、やっとお名前を伺えました。
ノリ・ブラックシート。
生涯忘れることの無いお名前です。
初めての街の景色より、貴方様の微笑みの方が鮮明に私の記憶に焼き付いていることは、しばらく私だけの秘密です。
それにしても、こんなオンボ……少し建付の悪そうな建物が、冒険者ギルドなのでしょうか?
ギルドマスター、カーズゥ・グッドビート氏は、全て緑マリモのせいと言っていました。
私達、上手くやっていけるでしょうか?
……ノリさん、早く来ないかなぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、ギルドに閑古鳥が鳴きました。
冒険者ギルドって朝が1番賑わうと聞いていましたから。
受付嬢として、私は一人でポツンと座っています。
他の方々もいるのですが、暇なのでと、長年溜まった書類の整頓を行っているようです。
エイラもキビキビと働いています。
私も体を動かしたい……。
でも却下されました。
んもう。お姫様扱いはしないでほしいです。
はぁ、早くノリさん来ないかな……。
あ、来た。
私は過去一番の笑顔でお迎えします。
一瞬、ノリさんの足が止まりました。なぜです?
エイラがいち早く気付いてマスターを呼びます。
私の役目を奪うとは、後でじっくりお話を聞かせてもらいましょう。
なぜ、しょっちゅう表を覗きに来ていたのか、その理由も含めて。
マスターは大喜びです。
そして……ギルド加入書類にサインを……。重要事項説明を全くしていません……。
本来なら契約違反。当然クーリングオフが適用されるのですが、公爵命令により期間限定で適用外とされています。
それだけ、今は冒険者が足りないのです。
大厄災【魔王の檻】のための緊急措置と、すでに通知がされているようなので、知らなかった……では済まされません。
ただ、ノリさんは昨日ウェスタリアに入ったばかり。
少し酷な気がしますが、私も暇潰し……いや、お仕事を頑張りたいのです。
ノリさんと一緒ならいっぱい頑張れる気がします。
依頼書も山のようにあります。
簡単な依頼書なら、案内がてら同伴もできますしね。
ノリさんと同伴……でへへ。
ハッ、ちゃんとお仕事の顔をしておきましょう。
どんな依頼なら一緒に行けるか思案している時、緑の頭の……まさか……。
マスターがディークと叫びました。
噂の『孤高』、別名『冒険者潰し』です。実力はA級。ですが、理想の相方を探すため、手当り次第冒険者を連れ回しては、トラウマを植え付けて辞めさせていく……マスターも頭を抱えていました。
え?
ノリさんを連れて行く?
私がノリさんと一緒に……と言いたいけれど言えませんでした。
ノリさんはもう引き摺られて行ってしまったので。
……ノリさん、ご無事に帰ってきてくださいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます