第3話 冒険者ギルド

 新しい朝が来た。

 僕の朝は早い。


 日が昇ると同時に目を覚ます。


 なんだかんだ、森の生活に慣れてしまった。


 ただ、街に近いせいか魔物がとても少ない。


 今日は寝覚めもスッキリだ。


 近くの水場でホーンバッファローの群れが居た。


 六匹の群れだ。


 僕は勢い良く走り出し、ウサランスを前に出して突進する。


 僕に気付き、逃げ始めるホーンバッファロー。

 普通のバッファローと何が違うのかって?

 真ん中に長い角が生えているだけだよ。


 肉は美味い。


 だから、きっと朝市で高く売れるはずだ。


 僕は2頭を貫いて仕留め、血抜きする。そして両肩で担ぎ、街へと戻る。


 STR99の僕に、これくらいは造作もない事。


 門番はビビってたけどね。


 解体屋に持って行って換金。


 肉は解体屋でそのまま売れることは確認済みだ。


 これで600ゼミー。通貨単位は、ドルに近いな。


 安宿なら10日は泊まれる。ご飯代のことを考えると7日が限度か。


 やっぱり、異世界に来たなら冒険者ギルドには行かないとね。


 森でしっかりシャワーして、髪も風魔法で乾かしたし、ヒゲも錬金術で髭剃り作って剃ったし、身嗜みは完璧……じゃない。


 服屋で安物の服を揃える。中世の庶民になった。


 麻の服が如何にも庶民だ。


 これにボロボロだけど皮の防具を装備して……如何にもな初心者冒険者だ。


 よし、これで先輩冒険者達に優しくしてもらおう。


 いや、かわいがりが始まるかな?


 その時はぶっ飛ばそう。こういう世界では、ナメられたら終わりだ。


 問題があるとすれば、僕が弱いのか強いのか……それが全く分からないということだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだか寂れた場所に来た。


 色んな人に聞いた。


 西の冒険者ギルドはここである、と。


 看板、ナナメになっておりますが?


 中も……暗そう。


 リリカとエイラが居ると知らなければ、絶対に入らない場所だ。


 ……本当に居るのかな?


 僕はウェスタンの映画でありそうな両開きのドアを押して入った。


「あ、ノリさーん! 来てくれたんですねー!」


 リリカの笑顔が眩し過ぎて、僕は光に包まれて消えたかと思った。マジで。

 奥にいたエイラが僕に気付いた。


「ゲッ、本当に来た。マスター! 昨日話してた見窄らしいボス討伐者が来ましたぁ!」


 そして大声で誰かを呼ぶ。


 ドタドタと大きな足音を立てて降りてきたのは……やや痩せ型のメガネ男だった。苦労しているのか、デコが広い。


「君かねん! 君が、救世主かねんっ!? ホーンラビット巨大種! 討伐してくれて本当にッ! ありがとう! これで、みんなに給料払えるねぇん!」


 僕の手を握って大きく振りながらオイオイと泣く……ギルマス?


「ハッ! 申し遅れたねん。我が名はカーズゥ・グッドビート、嘗てはA級冒険者だったのだがねん。歳には勝てないねん。私のことはカズと呼びたまえ。皆が、そう呼ぶのでねん」


 佇まいを正したカズは、情けない中年の姿ではなく、強さを感じる佇まいだった。

 元A級冒険者というのは、ダテじゃないらしい。


 だけど、訂正は必要だろう。


「僕は、討伐していない」


 そう、本体は取り逃がしている。見逃したと言っても良い。


「討伐ということで問題ないねん。できれば、背中の槍を見せてもらいたいがねん」


 僕はウサランスを見せる。


 カズは水晶にレンズが付いた魔導具を向けてくる。


 写真みたいなものかな。


 それで撮影し、満足そうに頷いた。


「角さえ無くなれば、という話はリリカかエイラから聞いたと思うねん。これで追加報酬を貰えるねん。ノリ、君にも報酬を払いたいところだが、まだ上から現金が下りてきていないのねん。預金の処理で構わないかねん?」


 預金システムがあるのか。

 本当に地球と変わらないな。


「数日過ごせる現金はあるので大丈夫ですよ」

「3日もあれば用意できるねん。では、こちらにサインを――」


 そして出された書類は、西の冒険者ギルド所属加入書、と書いてある。

 冒険者にならないと預金システムが使えないってことなんだろうな。


 ……なんだか、すごく色んな視線を感じる……。


 僕はとりあえずサインした。


 名前は書ける。文字も読める。異世界転生の特典だろう。


 しかし、ここでカズが豹変した。


「ふはははは! やったねん! 有望な新人冒険者、確保なのねん! これで西の冒険者ギルドに希望が見えたのねん! もうオンボロギルドだの崖っぷちギルドだの言わせないのねぇん!」


 ……やっべ。

 僕は宣言する。


「クーリングオフ!」

「ギルド加入時には適用されないのねぇん!」


 くっ! クーリングオフ制度があることにも驚きだが、そもそも適用外だと!?


 頼みの綱であるリリカを見る。


 手を合わせてごめんなさいのポーズをしていた。


 美少女エルフまで使うとは何たる手腕。

 こんなの引っ掛からない男はいないだろう。


 良いさ良いさ。


 リリカの笑顔を見るために、これからは身を粉にして働こうじゃないか。


「溜まりに溜まった依頼書ねぇん♪ ぜぇんぶできたら? あっという間にC級ねぇん♪」


 山積みの書類。全部依頼書じゃん。

 ドブ攫いからペット探しまで、ド定番の初心者クエストもある。

 いつになったら終わるのかな?


 ギルマスにウサランスを刺したくなってきた……ズップリと。


「諦めなさいノリ……あんたには悪いけど、今いるA級が帰ってくるまでの繋ぎで良いから……」


 エイラも声色が申し訳無さに染まっている。


「訳ありなの?」


 一応聞いておく。事情も知らずに雑用をやらされるのは嫌だ。

 

「ディークっていうA級冒険者がいるんだけど、そいつが半年戻ってこないらしいのよ……そいつが帰ってくれば報酬の未払いなんて無くなるし、依頼もそれなりにこなせるから、臨時で冒険者を雇ってその書類も片付くって訳」


 なるほどね。でも、そうだとしてもおかしな点が1つある。


「なんで、僕しか冒険者がいないの?」


 みんな黙った。


 この雰囲気は、たまたま僕しかいないんじゃない。


 僕だけしかいない、と見る方が自然だ。


 僕からみんなが視線を逸らすということは、僕に言っていないことがあるということ。


 死んでしまったとかじゃない。それだったら暗い顔で俯くはずだ。


 じゃあなんだ?


 僕が考えようとした時、ドアから誰かが入ってきた。


「ぃよぉ、戻ったぜ。んぁ? 見ねぇ顔だな……新入りか?」


 緑短髪のツンツンヘアー……マリモヘッドと言った方が良いか?

 目の周囲に薄っすら傷のある歴戦の猛者……と紹介されれば僕は信じる。


 そんな厳つい人物。


 このタイミングで?


「ディーク!? 今帰ってくるのねん!? 待つねん! その子は有望な新人! お前に潰されてたまるかなのねん!」


 ふぁああああ! やっぱり誰もいない元凶コイツじゃん!


「有望な? 良いことじゃねぇか。俺の相棒を探してたんだよ、ちょうどな」


 舐め回すように見ないで!

 嫌な予感しかしないヤツゥ!


「まずは依頼の報告からするねぇん!」


 ディークは、紙切れをカズに差し出した。


 カズは、それを食い入るように見るなり、プルプルと震えていた。


「その報告書の通りだ。喜べ、カズ。報酬は公爵閣下からきっちり下りる。つー訳で、コイツ借りるわ」


 僕の首根っこを掴み、引き摺るディーク。


 僕は子猫のようにジッとするしか無かった。


「待つねんディーク! どこ行くねぇん!?」


「ホーンフォレストにダンジョンが出現した。公爵閣下からご指名の命令だ。潜ってくらぁ。この新人と一緒になぁ」


 今日くらいはベッドで眠れると思ったのにぃ!

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