第一章 娼館暮らしの冒険者
第1話 目覚めは森の中で
いきなり森の中。
いわゆる転生と言うやつだろう。
鏡が無いから顔の作りは分からないが、肌艶がとても良い。
10代かな? 20代前半くらいであってほしいところだけど。
僕は木漏れ日の差す中、ステータスをオープンする。
ゲームのメニュー画面のようなものが出てきた。
なぜやり方が分かるのか?
この異世界に送り込む間に仕込まれたようだ。
僕は最初から知っていたかのように、ステータス画面を操作する。
【ステータスを振って下さい。バランス良く振ることをオススメします】
STR:1 力。攻撃力、物理攻撃力に影響。
AGI:1 敏捷さ。走行・攻撃・回避速度に影響。
VIT:1 体力。防御力、スタミナ、自然回復に影響。
INT:1 知能。魔法攻撃力、魔法使用回数に影響。
DEX:1 器用さ。命中率に補正が係る。
これだけが表示されていた。
追加の説明もある。
【特に、命中率となるDEXや、体力を増やすVITは重要です】
ふーん。
僕は初期102ポイントを使い、初振りでSTR99とINT5を振った。
極振りこそ正義。
力があれば何でもできる。
力こそパワーだ。
守備や命中なんて必要ない。
近付いて殴る。敵より先に殴る。至近距離で外すなんて有り得ないから。
【チュートリアルクリア、おめでとうございます。スキルポイントを10付与します】
これでチュートリアルクリア?
やけに簡単だな。
続いて説明が出た。
【魔法は全ての属性を取得しても、まともに攻撃できるようになりません。どれか1つ、もしくは2つを重点的に上げ、成長させましょう。残りは無属性スキルを上げて、スキルを取りましょう】
なるほど。
僕は火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、錬金術、光魔法、闇魔法、雷魔法の8属性を全てに1ポイントを振って取得する。
極振りこそが正義と言っておきつつ、全属性取得とは何事か。
僕だって、本当は火力重視の火か闇の魔法を重点的に取得したいんだ。
でも、よく考えてほしい。
ここはどこだ?
どことも知らない森の中だ。
僕は高そうな木を見つけて登る。
そこから見る景色は、見渡す限りの樹海だ。
そして出逢う魔物は、全て1つの角を生やしていた。
つまり何が言いたいって?
8属性の魔法を取得していなかったら、僕は初めての夜を越えられなかったってことだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日も新しい朝が来た。
大きな木の太い枝の上で目覚めた。
最初は絶望の朝だったが、2週間もサバイバルすれば慣れた。
慣れって怖い。
神様が僕を森に転生させた時は、前世の名残り? でカッターシャツにネクタイ、スラックスだったのだが、2週間もあれば摩り切れるに決まっている。
じゃあ今着ている穴の空いた皮の服はどうしたって?
……お亡くなりになっていた冒険者から頂戴しましたよ。
ちゃんと手を合わせた。
ここが夢ではなく現実なんだって、思い知らされたよ。
朝起きてやること。
それは火起こし。
全属性魔法を取得したおかげで、火種に困ることは無い。
飲み水も水魔法で用意する。がぶ飲みはできない。飲み過ぎると、なぜか腹を下すから。
火を起こしたら、昨日仕留めて下処理を済ませ、食べやすく切ったホーンラビットの肉を焼く。
キノコも焼く。『鑑定』を取得したので毒キノコとの区別は付く。
やはり『鑑定』は異世界で必須。
串は無い。代わりに、ホーンラビットの角を刺して焼いた。
片手で指と指がちょっと届かない程度の太さかな。
これがやたらと頑丈で、武器にもなる。
ホーンウルフやホーンブル、あとはサイとかバッファローとかウマ……いや、ユニコーンか……とかも、ホーンラビットの角で一撃だった。
角同士の硬度を測ってみたけど、ホーンラビットの角が1番硬かった。
ホーンラビットって、簡単に倒せるのかって?
1対1なら余裕だよ。
ホーンラビットとは、丸い毛玉のようにも見える真っ白なウサギだ。
角だけ生えている白い綿毛だ。
僕を見つけるなり、ブッブッて威嚇してきて、プルプル震えた後に、スッゴイ勢いで飛んでくるだけだから。
生きるため、拳一閃……フックで仕留め、お命いただきますだよ。
角はグリグリ……ポンって形で取れた。
味は良い。食べ応えのあるお肉。塩胡椒が欲しいところだけどね。
食事が終われば出発。
荷物はほぼ無い。
武器として使うためのホーンラビットの角だけを持ち、走り始めた。
この2週間、僕はひたすら東へと向かった。
闇雲に動くよりは、一方向に向かうべきと考えたからだ。
明るい間に動き、暗くなったら寝る。
それを繰り返した。
夜は闇魔法のおかげで、気配を遮断して眠れるようになった。
やっぱり、全ての属性魔法はサバイバルには必須だったよ。
火、水、土、風、金、光、闇、雷魔法の簡単な説明をしようか。
Lv1だと、マッチ、飲み水、泥団子作成、ミニ扇風機、爪くらいの錬金術、豆球、気配遮断弱、静電気。
そんな感じだね。
Lv2でバーナー、シャワー、硬い石、ドライヤー、薬合成、LED、気配遮断大、激痛静電気。
Lv3で火の玉、風呂、竈門、業務用扇風機、錬金術リスト増加(ポーション等)、FLASHライト、気配断絶、スタンガン。
やっと役に立つ魔法になってきたよ。
ちなみに、2週間でレベルは30になった。
ステータスはこんな感じ。
STR99、AGI9、INT50、VIT1、DEX1。
火と光と雷は囲まれた時に役に立った。
ホーンラビットの群れに囲まれた時は死んだと思った。
火と光で牽制して雷魔法で一点突破。
魔法はどれも大事だよ。
最近はやたらとホーンラビットに狙われるんだよね。
そんなに狙われるようなことしたかな?
僕はふと手元を見る。
愛用していたホーンラビットの角が、ほんのり赤く染まっていた。
魔物の血でも吸い過ぎたかな?
夜になって気付いたんだけど、薄っすら光ってるもん。
なんだか、嫌な予感しかしないな。
明日、捨てるか。
僕は闇魔法を自分にかけて眠り、運命の朝を迎えた。
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