いつか勇者となる君は

Norinα

プロローグ

 僕の名前は、観月紀臣みづきのりおみ。38歳になった。


 僕には妻と2人の子供がいる。


 5歳の女の子と、2歳の女の子。


 可愛い盛りだよ。


 下の子はスーパーイヤイヤ期に突入したけどね。


 ハイパーイヤイヤ期と称しても良い。


 目を離せば、すぐにどこかへ駆けて行く。


 だから、一時いっときですら目を離せない。


 くしゃみですら怪しい。


 もし道路へと飛び出そうものなら、命を張ってでも、助けるよ。


 それが親だし、僕だから。


 いつだって、脳内シミュレーションしていた。


 どんな場面に遭遇しても、いつでも体が先に動くように。


 ただ、やり過ぎてしまったんだ。


 仕事帰りということで、疲れていたこともあったのだろう。


 職場の近所の保育園に、見知らぬ母親が迎えに来たのだろう。


 たくさんの荷物を持って、子供が勝手に出られないようにと、保育園の柵を開閉していたのだろう。


 ほんの一瞬、子供の手を離してしまったのだろう。


 子供が、道路に飛び出していく。


 僕の体は勝手に動いてしまった。


 見ず知らずの子なのに。


 運悪く、スピードの乗ったトラックが子供を撥ね飛ばす――前に、僕は子供を捕まえ、歩道に引っ張り、投げるようにして、体の位置を入れ替えた。


 僕がどうなったかなど、誰が見ても分かるよね。


 知らないのは僕だけ……とはならなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 いつの間にか、病院に居た。


 真っ白なベッド。


 僕は見下ろしていたんだ。


 死んでしまった僕の体を。


 妻は僕の手を握り、顔を伏せて泣いていた。


 上の子は、妻の頭をヨシヨシしていた。


 下の子は、僕の腹に跨って、胸の辺りをポンポンと優しく叩いていた。


 はやくおきて。


 そう言っているように見えた。


「ごめんな、パパはもう、そこには戻れないんだ」


 自然と涙が溢れ出る。


 僕の声は誰にも届かない。


 この貴重な時間は、きっと神様が与えてくれたもの。


 そう信じ、感謝の祈りを捧げて逝こうとした。


『待たれよ、青年』


 声だけがした。振り返るが、誰もいない。

 爺さんの声だけが、僕に聞こえた。


『我は、お主の言うところの神である。見所がある故、厳しい条件ではあるが、蘇生の可能性を与えよう。どうする?』


 詐欺だろう。


 と、一瞬思ったが、この状況は飲まざるを得ない。


 何をしてでも、僕は生き返る。


 その可能性があるなら、掴み取ろうじゃないか。


 僕は頷いた。


『その意気や良し。お主の言うところの異世界にて、大厄災【魔王のおり】が始まろうとしておる。やることは簡単じゃ。【魔王の檻】より出てくる魔王を倒せ。そうすれば、お主はこの世に、再び生を得られるであろう』


 そして、爺さんの声が消えると同時、僕は光に包まれた。


 目覚めたのは森の中。


 こうして、僕の魔王を倒す冒険譚が、始まるのだった。

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