和解
「アリーシャ先生……なんでここに……」
「……え、今度はアリーシャ?」
レヴィスの口から零れた呟きを聞いたウィルシアの目が丸くなる。
一方、アリーシャは少し懐かしそうに目を細めてその相手へ視線を送っていた。
「……アタシからすればトレヴァン達と同じで七年ぶりだが……初めまして、と言った方がいいか? ウィルシア」
「あ、確かにこの魔力は……」
レヴィスと会った時同様、魔力を探ったウィルシアはじっと目の前の女性を見ている。
「あのツンデレで可愛かったアリーシャがこんなに…………残念な感じになるなんて。眼鏡も洋服もサイズ合ってなくてちょっとださい……」
「……余計なお世話だ。そもそもお前にデレた覚えはないぞ」
「でもフィードにはちょっとデレかけてたでしょ?」
「かけてない」
「またまたー」
「もういい黙ってろ。話が進まない」
にやにやと楽しそうに笑うウィルシアから視線を外し、アリーシャはクォルへと顔を向けた。
「お前には色々と世話になったから、会ったら一発殴ってやろうと思っていたが……まさか、死ぬつもりで策を講じていたとはな。予想外だったよ」
鋭い視線の中に若干含まれる、憐れみに近い色。クォルは頭を下げて謝罪の意を示す。
「……お前にも謝罪せねばならないな。すまなかった」
「もう良いよ。怒鳴る気も失せた」
右手をひらひらと振りながら話すアリーシャに小さく笑みを浮かべたクォルだが、ふと何かを思い出したように顎に手を当てる。
「ところで……時空の狭間から脱出したのは判っていたが……どうやってあそこから出た?」
実はミストゲートでのやり合いの後、体が回復してからクォルは時空の狭間へ二人を迎えに行っていた。
しかしその時には腕輪の力で二人は元の世界へ戻ってきており、クォルは誰もいない狭間で首を傾げる状況になっていたのである。
その問いにアリーシャは面倒臭そうに頭をぽりぽりと掻く。
「あー、あれな……どっかのドワーフが作ったコレのおかげ」
そう言いながらアリーシャはポケットから赤色の腕輪を取り出す。……それは、レヴィスが宿屋へ置いていった腕輪だった。
アリーシャはそのまま腕輪をレヴィスに放り投げ、レヴィスは慌ててそれを両手で受け止める。
「さっきの質問の答えだがお前らの後を追っかけて来たんだよ。状況によっちゃお前を連れて戻って来いってラピスに言われてな。……もう用事は済んだろ。さっさと元の時代に帰るぞ。ティルルが待ってる」
「…………」
アリーシャが口にした名にレヴィスの表情が僅かに変わる。……ただ、その言葉に反応したのは彼だけではなかった。
「ティルルって誰?」
聞き慣れない名前にウィルシアは首を傾げている。
レヴィスはどう説明しようか逡巡するげれど、その前にアリーシャが口を開いた。
「こいつの彼女」
「!」
「え! 嘘! レヴィス彼女いるの⁉」
端的にスパッと発せられた言葉にレヴィスが慌てる一方、ウィルシアは興味津々といった様子でそちらに顔を向けて――それからすぐ、呆れの混じった冷ややかな視線を向けた。
「あんた……クォル兄さんに騙されてたとはいえ、彼女がいるのに過去を変えに来た訳? 彼女置いて? どこまで馬鹿なの? というかその娘、余程心が広いのね。こんな面倒臭い息子と付き合ってくれるなんて」
「…………」
何の反論も出来ず黙ってしまったレヴィスに対し、クォルは驚いた様子でそちらの方を見る。
「ティルルと言ったが、もしかしてお前のペアの人間か? ……お前達付き合ってたのか……それは申し訳ない事をしたな……」
「……いや、それはもう別に……」
「え、クォル兄さんも知ってる娘なの?」
レヴィスが若干顔を赤くする一方、ぴくっとウィルシアの長い耳が動き、再び興味を持った様子で身を乗り出す。
「ねぇねぇクォル兄さん、どんな娘? 可愛い娘? 性格良さそう? レヴィスだけじゃなくてクレアともやっていけそうかしら? あの子お兄ちゃん大好きだからクレアとも仲良くなれそうな娘が良いわ。後はしっかりレヴィスの手綱を握って馬鹿な方向にいかないようにコントロール出来るような娘だと尚良いんだけどどうかしら?」
「……いや、一度挨拶を交わした程度で詳しくは知らない。見た目の印象は悪くないと思う……が、息子の彼女に求めるには少々重い気がするんだが……」
ペラペラと捲し立てる女性へ呆れを向けるクォルだが、返ってきた答えにクォルだけでなくアリーシャも呆れをみせ、レヴィスは顔の赤みを強くして俯く事になる。
「だって十七歳のレヴィスをみていたら彼女なんて作れそうにないもの。相手に問題がなければ掴んだチャンスをしっかりモノにして結婚までこぎつけてもらわないといけないでしょ?」
「……ウィルシア、それはちょっと……」
「たかが彼女にそれは重いわ」
「母さん……話が飛び過ぎだよ……」
「えー……」
三者三様の反応に、女性は不服そうな表情を浮かべた。
「じゃあ聞くけど、このレヴィスがそうそう彼女作れると思う?」
「…………」
その言葉にクォルとアリーシャはじっとレヴィスを見て、一斉に視線を向けられた青年はたじろぎ、思わず一歩後ろに下がった。
しばらくしてアリーシャがある事を思いだし「あぁ」と短い声を上げる。
「そうだった。アカデミーでは隠れファンクラブもあるらしいから選り好みしなければ出来るんじゃないか」
「……え?」
初めて聞く話にレヴィスの表情が変わったが、ウィルシアは安心した様子でアリーシャを見ていた。
「あら、そうなの。ならティルルさんとやらに振られても大丈夫かしら」
「……あの、それ、何……」
「うるさい、細かい事を気にするな。それにこういうの本人は詳しく知らない方が幸せなんだよ。聞き流せ」
「…………」
心底面倒臭そうに話すアリーシャにそれ以上追求出来ず、レヴィスは大人しく引き下がる。
「……でもまぁ……ウィルシアじゃないが、アタシもティルルはつかまえておいた方が良いと思うけどな。有望株なのもそうだか、お前の境遇を知った上で付き合える女もあまりいないだろうし」
「あら、アリーシャが有望株って認めるような娘なの? それなら確かに逃がしちゃ駄目ね」
少し意外そうな表情を浮かべた後、ウィルシアはレヴィスに向き直った。
「という訳だからレヴィス、ティルルさんに見限られないうちに戻りなさい。いいこと? しっかり捕まえておくのよ」
「…………」
「返事は?」
「…………努力はします」
「よし」
息子の答えを聞き、ウィルシアは満足そうな笑顔を浮かべていた。
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