クォルの真意

「……どういう……事ですか……?」

 クォルの言葉が理解出来ず、渇いた声が喉をついて出る。確かに彼は過去に戻って皆を助けたいと言っていた。その言葉が嘘だったとは思えない。

 呆然とした表情のレヴィスに対して、クォルはどこか達観したような――申し訳なさそうな笑みを浮かべる。

「一応弁解しておくが、皆を助けたいと思っていたのは嘘ではない。ただ……ウィルシアがそれを受け入れないだろうという事も判っていた。仮にウィルシアが受け入れたとしても、族長は……お前の祖父が反対するであろう事もな」

「なら、何で……」

「…………」

 青年の問いかけにクォルは口を閉じて。しかし間をあまり置かずに再び口を開く。


「……事故の真相を知った直後はロアドナへの怒りしかなかった。奴等の身勝手な行動で故郷を壊され、里の皆を失い……生き残ったお前達兄妹とも自由に会う事が出来なくなった……私は当初、里の生き残りとしてロアドナに復讐をするつもりでいたのだ。奴等が行なった事をそっくりそのまま返してやろうとな」

 淡々と話すクォルだが、その目に一瞬だけ鋭い光が宿る。レヴィスは何も言えず、ただ語られる言葉を聞いていた。

「私はロアドナ全土を消し飛ばせるような術を探して世界中を回り、あらゆる術式を調べ尽くした。あの魔法陣……時の魔法はその過程で見つけたものだ。あの時は柄にもなく気持ちが高揚したよ。これがあれば皆を救えると本気で思っていた……だからこそ、人間にしか使えないと知った時には落胆も大きかった」

 自嘲気味に笑いつつ、クォルはレヴィスの方へ真っ直ぐに視線を向ける。


「物事には全て意味がある。では私が時の魔法を見つけたのは何の意味があるのかとずっと考えていた。私達エルフは里と共に生き、里と共に滅ぶ。しかし私はエルフでありながら里が滅んだにも関わらず生きている……それなら時の魔法は……私がエルフとして、里と共に滅ぶために手に入れたのだと思うようになったんだ。はっきり言うと術を起動させるのは人間なら誰でも良かった。だが、どうせなら……お前をまたウィルシアに会わせてやろうと思ったんだ。そのために色々と小細工をした上でお前を騙した。……死ぬために過去に行きたいと言っても、お前は了承しなかっただろうからな」

「あ……当たり前じゃないですか! 何ですか、それ!」

 クォルの言葉が途切れた瞬間、レヴィスは声を荒げて叫んだ。

「ここで皆と死ぬため⁉ 俺にまた……里のエルフを殺させるつもりで過去に戻るのを手伝わせたんですか! 俺は……そんな事をするためにここまで来たんじゃない!」

「…………」

 堰を切ったように捲し立てる青年に対しクォルは何も言わない。近くにいるウィルシアも口を噤み、黙ってレヴィスを見ている。


 怒りを感じると同時にどうしようもなく泣きたくなってくる。

 自分は結局誰も助けられない上に、唯一生き残った里のエルフであるクォルが死ぬための行動に手を貸していた。

 気持ちだけでなく頭の中もぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。……一体、自分は何のために時を越えて過去まできたのか。


 レヴィスはぐっと唇を噛みしめ、じっとこちらを見つめているクォルを睨みつけた。

「クォルさんがそういうつもりなら……俺も自分の思うように動きます! 誰が何と言おうと儀式を止め――」

「――それは困るな」

 突然。

 その場にいた三名以外の声が部屋に響き、レヴィスは弾かれたように声が聞こえた方へ顔を向ける。


「里を失ったお前がアカデミーに来ないとアタシも自由に動けなくなるんだよ」

 出入口の扉の前。

 いつの間にか……そもそも、どうして彼女がここにいるのか。

 腕を組み、鋭くレヴィスを見据える銀髪の女性――アリーシャの姿がそこにあった。

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