試験終了
ラピスやカルロと別れたレヴィス達がアカデミーに到着したのは日が落ちる少し前だった。
「……あ! おーい!」
門をくぐったところで聞き覚えのある声に顔を向ければ、ふくよかなお腹を揺らしながらボッカが大きく手を振っていた。
「やー、マグルス主任にレヴィス達がそろそろ来るって聞いてたから待ってたんだよなー。良かったよ会えて。流石に今日はもう帰ろうかと思ってたんだよ」
「そりゃ悪かった」
へらっと笑っているボッカに、レヴィスも表情を緩めて笑みを返す。
一方、フロートも離れたところから飛んできた声の方へ視線を向ければ、ぶんぶんと両手を振りながらシルヴィとロマーナがこちらに向かって来るのが見えた。
「お帰りー、フロート! 時間かかってるみたいだったから心配したよー! まぁフロートとレヴィス君だから大丈夫だとは思ってたけど!」
にこにこ笑うシルヴィとその横に立つロマーナを交互に見ながらフロートは柔らかく微笑む。
「ただいま。二人とも試験は合格したの?」
「何とかね。……シルヴィが誤字脱字をしなければもう少し早く終わったのだけれど」
「あ! まだ言うの⁉ ロマーナだって気付いてなかったくせに!」
ちらりと視線を送ってきたロマーナにシルヴィは頬を膨らませる。
そんなやり取りを微笑ましそうに見ていたフロートだったが、ぐっと身を寄せてきたシルヴィに思わず一歩下がった。
「……ところで、レヴィス君とはあの後どう? 何か進展あった?」
「あー……うーん……」
どう答えたものか迷ったフロートに対し、ロマーナがシルヴィの頭を軽く小突く。
「こら。それも気になるけど、先に試験報告に行かせてあげなさいよ。長旅で疲れてるでしょうに」
「あ、それもそうだねー」
相方の言葉に納得しながら頷きを返した後、シルヴィは改めてフロートに向き直った。
「じゃ、今度ご飯でも食べながらじっくり話そう! ね!」
「……うん、そうね。また連絡するわ」
にこにこと笑顔を向けてくる友人にフロートも表情を緩める。
お互い手を振って別れた後、レヴィスがいる方に顔を向けると、彼もボッカと別れてこちらに歩いてくるところだった。
「ボッカにお前とはその後どうだって聞かれたよ」
「私も同じ事聞かれた」
若干気恥ずかしそうに話すレヴィスにフロートはくすくす笑いながら言葉を返す。
「……あいつらに話したのか?」
「…………」
そう訊ねてくるレヴィスの顔をフロートは何も言わずにじっと見た後、くすっと笑みをこぼし。
今度話す予定、とだけ答えた。
─ ・ ─ ・ ─ ・ ─
「……はい、確かに指定アイテムを全て確認出来ました。卒業試験合格です。お疲れ様でした」
にっこりと微笑みながら合格証書に印鑑を押して差し出してくる判定員に対し、二人は頭を軽く下げてからそれを受け取る。
「ところで二人とも。この後何か予定はありますか?」
「え?」
唐突に発せられた質問にレヴィスの顔が不思議そうなものへと変わる。
一方判定員の女性は頬に片手を当てて僅かに首を傾けた。
「実は、二人が戻ってきたら第二会議室に呼ぶようにとマグルス主任から言われていて……ただ今日はもう時間も遅いですし、何か予定があるならまた明日にしようかと思いまして……」
「それは……」
「――あ、大丈夫です。第二会議室ですね。判りました、向かいます」
レヴィスが何か言おうとしたのを遮り、フロートがやや強引に話を切り上げる。
虚を突かれたレヴィスから向けられる視線に気付いていながらもそれを流し、判定員におじぎをしてから踵を返して歩き出した。
「……おい、フロート……」
少し遅れてその後を追いかけてきた青年の呼びかけに少女はピタッと足を止める。
それからくるっと体を反転させ、真っ直ぐ相手の目をじっと見つめた。
「レヴィス君、ひとつお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「…………?」
お願いというには若干強い口調でこちらに向けられた言葉に対し、レヴィスの眉間に皺が寄ったが、フロートは視線を逸らすことなく言葉を続ける。
「すぐ判る事だから先に話すけど、今からマグルス主任も交えて私達の卒業後の話をするの。……申し訳ないけど、レヴィス君は何も言わずに私が話す事を了承してほしい。非難や批判は話が終わった後でいくらでも受けるから」
「……何を言う気だ」
「ちょっとした、交渉の話」
表情が厳しくなったレヴィスへそれだけ言って、フロートは再び背中を向けて歩き出す。
「おい」
「…………」
再度投げられた呼びかけの声には答えず少女は足早に進み、レヴィスは厳しい表情のままその後を追いかけた。
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